老舗工房から見えてくる「帆布」の魅力 ~ 犬印鞄制作所の帆布鞄 ~ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

老舗工房から見えてくる「帆布」の魅力 ~ 犬印鞄制作所の帆布鞄 ~

2020.4.8 WED

モノづくり探訪記【第六回】
老舗工房から見えてくる「帆布」の魅力
~ 犬印鞄制作所の帆布鞄  ~

知られざる「モノづくり」の世界に迫るモノづくり探訪記。今回は本連載で初となる帆布製品として、帆布カバンを作り続けている犬印鞄製作所を訪問。丈夫で長持ち、使い込むほどに独特の風合いになる帆布を生かしたカバンづくりと、作る上でのこだわりに迫ってみた。

2020年3月23日
●取材・構成:編集部 ●文:大澤裕司 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]


▷ 愛用者を魅了する帆布の魅力とは何か?
帆布とは綿や麻を平織りした厚手の布のこと。丈夫さが特長で、かつては名前の由来にもなった帆船の帆や石炭運搬袋、テント、パラシュートなどに使用されていた。化学繊維の発展で需要は減ったが、現在でも靴やカバン、エプロンなどあらゆる用途に使われている。

今回紹介する犬印鞄製作所(以下、犬印鞄)は、主に帆布を使ったバッグ作りを行っている。多種多様なカバンを作るほか、小物類も制作。アイテム数は100を超える。

代表の細川俊二さんは、帆布の魅力として「天然素材ならではの温かみ」と「使い込んでいくうちに経年変化が進み自分だけのものになるところ」を挙げる。特長である丈夫さは、長年使っても自立するほどの強度を維持。使っていくうちに自然な退色が進み、独特の色合いに変化していくところも魅力的なところである。

こうした素材本来が持つ魅力で、ラフな感じに仕上げても格好よく決まるのも帆布製品の特長。カチッとしたイメージになりやすい革製品とは違った魅力があり、愛用者も多い。それでは、犬印鞄が作る製品の魅力を、現物に触れて確かめてみることにしよう。
<span style="color: #666699;">東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房兼店舗で制作・販売されている製品</span>

東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房兼店舗で制作・販売されている製品

<span style="color: #666699;">カバン以外にも文庫本カバーやマルチケース、キーケース、などの小物を多数制作している</span>

カバン以外にも文庫本カバーやマルチケース、キーケース、などの小物を多数制作している

<span style="color: #666699;">犬印鞄のネームタグ</span>

犬印鞄のネームタグ

●形、サイズともに豊富なトートバッグ
犬印鞄で一番の売れ筋が、アイテム数が最も多いトートバッグ。角形のほか、バケツ形のバケツトート、ショルダーバッグとしても使える2ウェイトートなどもラインナップしている。

サイズは、近所に出かける際に小物類を入れておける小型サイズをはじめ、通勤通学時に使える大型サイズまで用意。実用的なものにするため、すべてひねり金具やファスナーで開口部を閉じられるようになっている。ファション性と実用性を兼ね備えた口元が折れるタイプもある。
<span style="color: #666699;">左がベージュの「2ウェイバケツトート(中)」、右が黒の「バケツトート(SS)」</span>

左がベージュの「2ウェイバケツトート(中)」、右が黒の「バケツトート(SS)」

●収納力の高いブリーフケースとショルダーバッグ
ブリーフケースやショルダーバッグといったトートバッグ以外の定番アイテムも用意し、サイズも多数揃えている。これらはトートバッグよりも、通勤通学のような用途に使われることが多いためか、トートバッグと比べると中のポケット類が多い印象がある。

特に犬印鞄らしさを発揮しているのが、ブリーフケースに使われている前面フラップ。2個のひねり金具を開くと、フラップがすべて前面に倒れ、小物類を収納するポケットが現れる。フラップの裏側にもポケットがある。大小さまざまなポケットがあり、収納力が高い。
<span style="color: #666699;">「犬印純綿帆布 2ウェイブリーフケース(B4)」。正面に見える2つのひねり金具を外し、フラップを倒すと…… </span>

「犬印純綿帆布 2ウェイブリーフケース(B4)」。正面に見える2つのひねり金具を外し、フラップを倒すと……

<span style="color: #666699;">中からポケットが出現。フラップの裏側にもポケットがあることが確認できる</span>

中からポケットが出現。フラップの裏側にもポケットがあることが確認できる

●落ち着いて大人っぽく見える特別仕様「黒犬印」
犬印鞄では、ネーム、ペン差し、金具をブラックで統一した特別仕様「黒犬印」も制作・販売している。トートバッグやブリーフケース、ショルダーバッグ、リュックを展開しているが、ネーム、ペン差し、金具をブラックで統一するだけで、ぐっと落ち着いて大人っぽく見える。
<span style="color: #666699;">「黒犬印」のネームタグ</span>

「黒犬印」のネームタグ

<span style="color: #666699;">「黒犬印」の「トートバッグ(中)」(左)と「トートバッグ(SS)」(右)</span>

「黒犬印」の「トートバッグ(中)」(左)と「トートバッグ(SS)」(右)

▷ 独自の帆布を使ったこだわりある製品作り 
犬印鞄は1953(昭和28)年に犬と鞄のロゴマークを商標登録した。その名を有名にしたのが自転車カバン。現在も作っているが、主に1970年代に人気を博した。自転車鞄は、サイクリング自転車のフロントやサドルに取り付けて使うもので、乗る人が直接背負わなくてもたくさんの荷物を運ぶことができる。当時、犬印鞄の自転車鞄を愛車に取り付け旅に出たツーリストは日本各地にいたのだろう。
<span style="color: #666699;">「犬印純綿帆布 自転車用フロントバッグ」。上面の透明なケースは地図を入れるマップケースである</span>

「犬印純綿帆布 自転車用フロントバッグ」。上面の透明なケースは地図を入れるマップケースである

<span style="color: #666699;">「犬印純綿帆布 自転車サドルバッグ」</span>

「犬印純綿帆布 自転車サドルバッグ」

<span style="color: #666699;">自転車鞄のネームタグは他の製品とデザインが違い、犬ではなく自転車が描かれている</span>

自転車鞄のネームタグは他の製品とデザインが違い、犬ではなく自転車が描かれている

細川さんが犬印に携わるようになったのは20年ほど前から。商標を引き継いでから3、4年は、アイテム数の拡大に専念する。トートバッグやショルダーバッグなどを作り、自転車カバンを含む14アイテムを完成させてから販売を本格化した。

帆布も、細川さんが商標を引き継いでから作った。現在、犬印鞄で使っている帆布は、「犬印純綿6号帆布」と呼ばれている独自のもの。帆布は1号から11号まであり、号数が小さいほどタテ糸・ヨコ糸1本あたりの撚り数が多く、生地が厚手になる。生地に凹凸が生まれ格好いい見た目になるが、その分重くなってしまう。このような理由から、犬印鞄では軽さと丈夫さ、見た目のバランスがよい6号帆布を作ることにした。

細川さんには、理想の帆布があった。それは、自身が好きだという「L.L.Bean」のトートバッグに使われているようなもの。バケツ代わりに水も汲めるほど撥水性が高く、何もしなくても自立するほど固い。

「犬印純綿6号帆布」はこの理想を叶えた帆布だ。最大の特長は超撥水加工。一般的な帆布は水が染み込まないようロウ引きして防水加工が施されているが、「犬印純綿6号帆布」は帆布に樹脂を浸透させている。弾いた水が玉になるほどの強力な撥水性があり、樹脂が中まで浸透しているので、簡単に防水性能が落ちることがない。

また、固く仕上げるために、一般的な帆布より糊を強力に効かせている。製造業者にもこだわりがあり、滋賀県高島市で織られた生地を大阪で染色し、糊付けと樹脂撥水加工を行って完成となる。
<span style="color: #666699;">「犬印純綿6号帆布」は固く丈夫で、弾いた水が玉になるほどの強力な撥水性がある</span>

「犬印純綿6号帆布」は固く丈夫で、弾いた水が玉になるほどの強力な撥水性がある

生地以外にも、犬印鞄の製品には随所にこだわりが見られる。まず、ほとんどのバッグの正面に、ペン差しが縫い付けてある。「いざ」という時にすぐペンが取り出せる実用性の高いパーツだが、ほとんどのカバンに縫い付けてあるので、ブランドのアイコンのような役割も果たしている。

使っている金具類にも、細かなこだわりがある。普通なら規格品をそのまま使うところ一手間加え、独自の刻印を入れたものを使いオリジナリティを出している。リベットの刻印など、よく見ないとわからないほどだか、細かい金具類でも独自性を追求するところは犬印鞄のモノづくりのこだわりだ。
<span style="color: #666699;">ひねり金具に施されている「犬印」の刻印</span>

ひねり金具に施されている「犬印」の刻印

<span style="color: #666699;">小さなリベットにも、周囲に「inujirushi♡kaban♡」の刻印が</span>

小さなリベットにも、周囲に「inujirushi♡kaban♡」の刻印が

<span style="color: #666699;">ファスナーの引き手には「浅草 犬印鞄」の刻印が</span>

ファスナーの引き手には「浅草 犬印鞄」の刻印が

また、希望者には商品に刺繍を入れるサービスも提供している。希望する名前やイニシャルが入れられるので、愛着を持って末長く使うことができるだろう。
<span style="color: #666699;">刺繍の例。写真のような欧文スクリプト体のほか、欧文ブロック体、和文(漢字/ひらがな/カタカナ)で入れることが可能。色も黒をはじめ全部で10色用意</span>

刺繍の例。写真のような欧文スクリプト体のほか、欧文ブロック体、和文(漢字/ひらがな/カタカナ)で入れることが可能。色も黒をはじめ全部で10色用意

▷ 定番品以外も充実!ユニークなキャラクターモデルも
トートバッグやブリーフケース、ショルダーバッグのような定番以外のバッグも幅広く作っている。インナーバッグやバッグインバッグ、酒袋のほか、受注生産の書類袋や図面袋といった滅多に見かけることがないものもあり、見ているだけで楽しい。
<span style="color: #666699;">左から「犬印純綿帆布 リュック」「【黒犬印】ボディバッグ」「犬印純綿帆布 スポーツバッグ」</span>

左から「犬印純綿帆布 リュック」「【黒犬印】ボディバッグ」「犬印純綿帆布 スポーツバッグ」

<span style="color: #666699;">左から「犬印純綿帆布 2ウェイコンビトート(A4)」「インナーバッグ(小)」「酒袋」。「酒袋」は一升瓶が2本入ることから名付けられた、シンプルなデザインの道具袋のこと。2ウェイコンビトートは数量限定品</span>

左から「犬印純綿帆布 2ウェイコンビトート(A4)」「インナーバッグ(小)」「酒袋」。「酒袋」は一升瓶が2本入ることから名付けられた、シンプルなデザインの道具袋のこと。2ウェイコンビトートは数量限定品

<span style="color: #666699;">受注生産の「犬印純綿帆布 書類袋(小)」(手前)と「犬印純綿帆布 図面袋(大)」</span>

受注生産の「犬印純綿帆布 書類袋(小)」(手前)と「犬印純綿帆布 図面袋(大)」

開発は遊び心にあふれており、迷彩柄に犬のシルエットが隠れている「犬迷彩」という柄を使ったショルダーバッグやショルダートートなども作られている。迷彩柄はおしゃれアイテムの1つだが、その中に犬のシルエットが違和感なく隠れているのが面白い。
<span style="color: #666699;">犬迷彩柄がプリントされたショルダーバッグ。迷彩に紛れ随所に犬のシルエットが隠れている</span>

犬迷彩柄がプリントされたショルダーバッグ。迷彩に紛れ随所に犬のシルエットが隠れている

また、犬印鞄の製品には、「犬印純綿6号帆布」にひと手間加えたものや、「犬印純綿6号帆布」以外の素材で作られているものがある。ひと手間加えた素材の代表が「ストーンウォッシュ帆布」。ジーンズのストーンウォッシュ加工と同じ加工を施すことであらかじめ色合いを落とし、肌触りを柔らかくした。現在、散歩鞄やポーチなどに使われている。
<span style="color: #666699;">ストーンウォッシュ帆布を使った散歩鞄。新品でも「犬印純綿6号帆布」と比べるとこなれた雰囲気で、色もやや薄くなっている</span>

ストーンウォッシュ帆布を使った散歩鞄。新品でも「犬印純綿6号帆布」と比べるとこなれた雰囲気で、色もやや薄くなっている

一方、「犬印純綿6号帆布」以外の素材で代表的なのが、麻帆布だ。その名の通り麻で織られた帆布で、麻ならではの生成り色が軽く涼しげな印象を与える。「麻も好きな素材の1つ。『犬印純綿6号帆布』と同じ規格で織っています」と麻帆布について話す細川さん。現在は限定販売されているトートバッグやブリーフケースなどに使われている。このほか、寸法安定性や耐水性に優れた軽量の新素材「X-Pac」を使った2ウェイリュックなど帆布以外の素材で作ったものもある。
<span style="color: #666699;">茶色の革製ネームタグがつけられているのが、麻帆布でできたカバン。2ウェイバケツトートや1〜2泊の出張や旅行に最適なオーバーナイトブリーフケースなどがある</span>

茶色の革製ネームタグがつけられているのが、麻帆布でできたカバン。2ウェイバケツトートや1〜2泊の出張や旅行に最適なオーバーナイトブリーフケースなどがある

<span style="color: #666699;">新素材「X-Pac」を使った2ウェイリュック</span>

新素材「X-Pac」を使った2ウェイリュック

キャラクターを取り入れた製品開発も盛んだ。サンリオとタイアップし、「HELLO KITTY」や「ドラえもん」「MY MELODY」をあしらったトートバッグなどを制作。パターンは犬印鞄とサンリオで話し合って決めているという。バッグという実用性が高いアイテムなので、ファンやコレクターならずとも手が伸びそうだ。
<span style="color: #666699;">「HELLO KITTY」をあしらったトートバッグ。左の市松模様のトートバッグは日本らしいデザインで、海外からの観光客にも人気が出そうだ</span>

「HELLO KITTY」をあしらったトートバッグ。左の市松模様のトートバッグは日本らしいデザインで、海外からの観光客にも人気が出そうだ

<span style="color: #666699;">こちらは「ドラえもん」をあしらったトートバッグ。登場キャラクターを全部描ききっていなくても、誰であるかがすぐわかるデザインは秀逸</span>

こちらは「ドラえもん」をあしらったトートバッグ。登場キャラクターを全部描ききっていなくても、誰であるかがすぐわかるデザインは秀逸

▷ 自分が作りたいもの、使いたいものを作る 
東京・浅草にある工房兼店舗には、犬印鞄で作っているバッグや小物類が整然とディスプレーされている。これらについて細川さんは、「自分が作りたいもの、使いたいものを作ってきた」と話す。こういう時代に媚びない姿勢がユーザーの共感を呼び、リピーターがつくようになった。

「リピーターは犬印鞄の製品をいくつも持っているので、時代に媚びたものを作ると『そんなもの作ったの?』と思われかねない」と話す細川さん。飄々とした感じの細川さんだが、「自分が作りたいもの」「自分が使いたいもの」ができた時に作るという姿勢は、昔気質の職人のように思えるほど。使い込んでいくうちになじんでくるが、いつまでも自立するほど丈夫で固い犬印鞄のバッグと相通じるところがある。
<span style="color: #666699;">「犬印鞄製作所」代表の細川俊二さん</span>

「犬印鞄製作所」代表の細川俊二さん


東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房

東京・浅草にある犬印鞄製作所の工房

「犬印鞄製作所」
http://www.inujirushikaban.jp/
1953年から帆布カバン作りを開始。1970年代に自転車鞄で名を馳せる。現在は自転車鞄のほかトートバッグやブリーフケースなどさまざまなアイテムを制作。東京・浅草に工房兼店舗、合羽橋道具街と上野に店舗を構える。

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