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モノづくり探訪記

2021.06.21 Mon

【第十三回】元祖・国産Tシャツが蘇る! 久米繊維工業の「色丸首」Tシャツ

白T、チビT、ロングT、ポケTにVネック……ファッションアイテムとしてのバリエーションに加え、イベントや企業の広告媒体にもなっているTシャツ。だが、モノとしてのTシャツの価値はどこにあるのだろう? 今回のモノづくり探訪記は、まだ日本にTシャツという呼び名が無かった時代に作られた、国産Tシャツの原点と言うべき「色丸首」のお話。毎日着る日用品だからこそ、品質にも見た目にもこだわりたい――そんな久米繊維工業のTシャツづくりに迫る。

2021年6月21日
●取材・構成:編集部 ●文:石黒直樹 ●撮影:下山剛志[ALFA STUDIO]

モノづくりの原点を見る、久米繊維工業の「色丸首」

1935年に繊維業が盛んな東京本所石原町(現・墨田区石原町)に誕生した久米莫大小(メリヤス)製造所が、久米繊維工業の前身だ。そして現在に至るTシャツ作りの切っ掛けとなったのが、1950年代に家業を継いだ二代目・久米信市氏の「映画愛」。

その頃の日本にはTシャツ文化がなく、白Tを着て歩けば「なんで肌着で歩いてるんだ?」と奇異の目で見られることもあったが、Tシャツをかっこよく着こなすアメリカ映画の俳優たちに憧れて信市氏は国産Tシャツを開発した。12色のカラーバリエーションを揃えることで、新たなファッションとしてのTシャツをアピールし、これを「色丸首」と名付ける。

この「色丸首」を、創業70年を機に四代目・久米博康氏が復刻したものが、ここにご紹介する「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」である。単なる復刻ではなく、初登場から約半世紀の間に培われた技術を用いた「再創造」だ。

博康氏は長年つきあいのある優秀な国内の紡績工場から「良い糸を作っても、それを使いこなせる生産者も活かせる製品も無い」と言われたことがあるという。「色丸首」の復刻は、そんな声に一番自信のあるTシャツで応えようというプロジェクトでもあった。

それでは、早速「色丸首」のディティールを見ていこう。

●最高峰の技術で作られた「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」

<span style="color: #666699;">復刻した「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」</span>
復刻した「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」

外観は、滑らかな編み地と実直なラインが目を惹く、「定番」といいたくなるデザインだ。しかし、このシンプルな一品には国産Tシャツの最高峰ともいえる高い技術とこだわりが詰まっている。

使われているのは、毛足の長い上質な綿花から紡いだ80番手の糸。通常Tシャツには40番手~20番手の糸を使うことが多く、ヘビーウェイトと呼ばれるものは20番手~16番手が使用されるというから、「色丸首」に使われている糸はかなり細い。

<span style="color: #666699;">「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」の生地表面</span>
「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」の生地表面

ところが、着てみると程よい厚みがあり一枚でもさまになる。細い糸を2本撚り合わせて双糸にし、さらに「スムース編み」という方法で織りあげているのがその理由だ。「スムース編み」は、リブ編(ゴム編み)を二重にしたような構造で、一般的な「天竺編み(平編み)」と比べると厚みが出る。度目(どもく)が詰まっているので表面も滑らかだ。

この製法が、細糸による滑らかな肌触りとフィット感、さらに適度な厚みと自然な光沢を同時に生み出しているわけだ。博康氏曰く、復刻された色丸首は「色が付いた丸首という見た目と呼び名以外はまったくの別物」だという。シンプルながらも日本の製造技術の粋が凝縮されたTシャツである。

●カラーバリエーションには江戸の粋を取り入れて
色は、基本の白のほかに「紺青」「栗梅茶」「利休鼠」など、日本の伝統色を含む全10色が用意されている。首回りにはえんじ色の閂止めを施し、これがデニムのタブのようなアクセントに。職人仕上げの雰囲気が味わえるデザインだ。

どれも控えめな色合い――地味といってもいいラインナップだが、日本には江戸の頃から「四十八茶百鼠」という言葉がある。奢侈禁止令の中でもたくさんの茶色、鼠色を発明してお洒落を楽しんだ江戸の粋が復刻版「久米繊維謹製 色丸首Tシャツ」にも息づいている。

<span style="color: #666699;">「色丸首」カラーバリエーション 上段:左から「紺青」「鼠」「濃鼠」「紺」「黒」 下段:左から「栗梅茶」「璃寛茶」「利休茶」「利休鼠」「白」</span>
「色丸首」カラーバリエーション
上段:左から「紺青」「鼠」「濃鼠」「紺」「黒」
下段:左から「栗梅茶」「璃寛茶」「利休茶」「利休鼠」「白」
<span style="color: #666699;">向かって右側の襟口には「閂止め」が。内側の糸は着用すると見えなくなるが、この「閂止め」だけはアクセントとなって現れる</span>
向かって右側の襟口には「閂止め」が。内側の糸は着用すると見えなくなるが、この「閂止め」だけはアクセントとなって現れる

Tシャツは奥深い! シンプルだからこそ違いが際立つラインナップ

1950年代からTシャツを作り続けている久米繊維工業。その歴史の中で、様々なニーズに応えて多彩なTシャツのラインナップを生み出してきた。そこに盛り込まれた工夫の数々を、現在の主力製品とともに紹介していこう。

① やや太めの糸、ゆったりとしたシルエットで編み上げた「“楽”Tシャツ」

  

ラインナップのうち、日常使いのスタンダードなTシャツに位置づけられるのが「”楽”Tシャツ」。近年の主流となっているシルエットを、国産ならではの実直なモノ作りとセンスで仕上げたシリーズだ。

太めの糸を丁寧に編み上げた生地はさらっとした肌触りで着心地がよく、ゆったりとしたシルエットが身体の線を隠してくれるので、気軽にどこへでも着ていける。色も定番から日本の伝統色まで23色のバリエーションが用意されており、シチュエーションにあわせて選ぶことができる。

② ハリウッドスターに憧れる「セイヤングTシャツ」

  

久米繊維工業がTシャツを作るきっかけとなったハリウッド映画への憧れ……、スターたちの着こなすかっこいいTシャツを超えるモノを作ろうと心血を注ぎ、1963年の発売以来ロングセラーとなっているのが「セイヤングTシャツ」だ。

一番の特徴は身体にピッタリとフィットするタイトなシルエット。世間の多くのTシャツがゆったりめのラインを選ぶ中では唯一無二の個性を放っている。

絶妙な厚みとフィット感のバランスを狙い、通常は襟首部分にのみつかうフライス編み(ゴム編み)の生地をTシャツ全面に使用。極太の衿も個性的で、身体の線を出すコーディネートを狙う人にオススメだ。丸首とV襟タイプがあり、カラーバリエーションは全31色が用意されている。

<span style="color: #666699;">丸首タイプ(黒)</span>
丸首タイプ(黒)

③ 軽やかな着心地と豊富なカラーが魅力の「01Tシャツ」

  

Tシャツがもっとも活躍する夏場に自分好みの着こなしを楽しみたい! そんな人にオススメなのがサイズ・色ともに最大のラインナップを誇る「01Tシャツ」だ。着心地で驚かされるのがその軽やかさ。綿の良質な部分だけを紡いだ糸で編み上げているので、心地よい滑らかな肌触りはもちろん、着ていることを忘れるくらいの軽さを実現している。

久米繊維工業のTシャツはどれもそうだが、筒状の1枚の生地から作られた丸胴の反物を使っているので、内側の脇に当たる部分に縫い目がない。これも着心地のよさに一役買っている。

そして特筆すべきなのがバリエーションの豊富さ。明るいモノから渋い色合いまで全60色のカラーを取りそろえ、サイズもXS~XXLまでと広範囲。自分の体型にあったサイズを選ぶだけでなく、あえてひとつ小さいサイズをタイトに着こなしたり、2枚重ねて着たりといった自由なコーディネートが楽しめる。

これから来るであろう猛暑には最適のシリーズなので、複数買いして夏のオシャレを楽しみたい。

<span style="color: #666699;">「01Tシャツ」カラーラインナップの一部</span>
「01Tシャツ」カラーラインナップの一部

④ クラフト感のある衿元がお洒落な「02Tシャツ」

  

新品のTシャツもいいが、あえて着込んでビンテージな味わいを出していくのもTシャツの楽しみ方。そんな風合いを育てやすい個性派シリーズが「02Tシャツ」だ。Tシャツの衿回りには伸縮性に優れたフライス生地を使う場合が多いが、02Tシャツではあえて使わないことで、くったりとした使い込み感を演出。

しっかりとしたバインダー縫製を施すことで、だらしなく伸びたりせず、キレイなシルエットを保ちながら風合いを育てられるようになっている。ガンガン着て洗ってを繰り返して、ヘビーに使い込むほどに味わい深くなるTシャツだ。

<span style="color: #666699;">フライス編(ゴム編み)を使わず仕上げたクラフト感のある襟がポイント</span>
フライス編(ゴム編み)を使わず仕上げたクラフト感のある襟がポイント

⑤ ふんわりとしたオーガニックコットンで作る「サステイナブル・ライン

  

世界的な潮流となっている「持続可能(サスティナブル)なモノ作り」の取り組み。その代表的な素材であるオーガニックコットンを使って展開しているのが「サスティナブル・ライン」だ。

シリーズにはタートルネックセーターやカーディガンと並んでTシャツもラインナップ。オーガニックコットンを使用した右撚り(S撚り)の糸と左撚り(Z撚り)の糸を交互に天竺編みで編みあげている。

互いに撚りを打ち消しあって適度な隙間ができるため、ガーゼのような軽く涼しげな肌触りとさらりとした着心地が楽しめるTシャツに仕上がっている。

<span style="color: #666699;">他にはない素材感が魅力の「サスティナブルライン」</span>
他にはない素材感が魅力の「サスティナブルライン」

著名人のこだわりが生んだ新ラインも

久米繊維工業のTシャツには著名人のファンも多い。その一人がドラマ『孤独のグルメ』などで人気の俳優・松重豊氏だ。昨年、「セイヤングTシャツ」を以前より偏愛しているという松重氏から、襟を細めにできないかというオーダーメイドの相談が舞い込んだ。

「セイヤングTシャツ」のアイデンティティーともいえる「極太の襟」の変更には博康氏も悩んだようだが、試しに作ってみたところ良い仕上がりになった。ボディにフィットするタイトな着心地は「セイヤング」そのままに、衿周りが細くなったことでスマートで日本人向けの仕上がりになっている。

カラーバリエーションはホワイトとブラックに加え、これまでの「セイヤング」にはないオフホワイトを追加した。落ち着きある着こなしをしたい人向けのスペシャルモデルだ

松重氏に相談の上で商品化が決定し、新たなモデルは「【mattige】Tシャツ(マッチゲTシャツ)」と命名されてこの春から販売が開始されている。

<span style="color: #666699;">ベーシックな「セイヤング」にはない新色オフホワイト(写真左)は、重ね着しても馴染みがよく使いやすい</span>
ベーシックな「セイヤング」にはない新色オフホワイト(写真左)は、重ね着しても馴染みがよく使いやすい

愛されるTシャツになるために

毎日着る人も多い「Tシャツ」は、日用品であると同時に嗜好品でもある。博康氏曰く「いいTシャツの条件は、着ていて気分が良くなるモノ」。着心地も、見た目も、着るだけでテンションの上がるような自分だけのお気に入りを見つけてほしいというのが、久米繊維工業の想いだ。多彩なラインナップはその手助けでもある。

そして、Tシャツの品質を支えているのは「国産」のさまざまな技術である。製糸・紡績はもちろん、多彩なカラーバリエーションも、日本のいい水を使って鮮やかな発色を実現してくれる染色工場があってこそ。実際の売上げでは、白・黒・紺といった定番色が売上げの半分以上を占めているというが、自分らしい色選びを楽しんでもらいたいから、染色にもこだわり、最大60色にも及ぶカラーバリエーションを用意し続けているわけだ。

「国産のいい糸や生地が手に入らなくなったら、工場は畳みます」

そこまで言い切るほど国産の素材と技術の高さを信じ、今作り続けているTシャツそのものが「日本らしさ」「久米繊維工業らしさ」だと、取材を通して強く感じた。

「久米繊維工業」
https://kume.jp/
東京都墨田区本所を拠点に、半世紀にわたって国産の糸・生地・染色・職人の技術による縫製から生まれる国産Tシャツを生産。環境保全にも配慮した製造工程で永く大切にされるTシャツ作りに取り組んでいる。

 

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