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インドを代表するデザインオフィスに訊く(5)~インドの伝統的なモノやカタチに新たな息を吹き込む~エレファントデザイン編

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インドを代表するデザインオフィスに訊く(5)
~インドの伝統的なモノやカタチに新たな息を吹き込む~
「エレファントデザイン」編
2020年1月15日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

インドの伝統的なモノやカタチに新たな息を吹き込む

日本のレクサスがインドで主宰し、私もUIデザイン部門の賞の授与を担当したレクサス・デザイン・アワード・インディアはとても良い試みです。インドの特性に合わせたデザインをインドの若者が生み出すための支援を、日本企業が行っているわけですから。

2019年の受賞作の中では、ライフタイル・アクセサリ・デザイン部門で優勝した「南インドの朝食用カトラリーセット」は典型的な例といえるでしょう。私たちは、今も手を使って料理を食べる習慣があります。西洋のカトラリーも使いますが、料理自体が異なれば、食べ方も違って当然です。それなら、両者の中間的なカトラリーもありうると考えてデザインされたものが、この作品です。とてもエレガントなソリューションだと思います。

インドのデザインは、身近な問題の解決にフォーカスしています。それはソーシャルな行いであり、そこから新たなビジネスを生み出して、誰かに仕事の機会を与えることもできるのです。

私たちがデザインのコンサルティングを行ったペーパーボートというソフトドリンクのシリーズは、インド人のおばあさんたちが知っているような伝統的な飲み物のレシピをベースに作られました。

今、インドでは、コーラ系の炭酸飲料を飲む若者が増えています。それらのマーケティング力や販売網は強力で、他の選択肢が少ないことも影響しているでしょう。

インドには数多くの伝統的な飲み物が存在しますが、特に都市部ではそのレシピを知るおばあさんもおらず、皆、仕事に時間を取られて、そういった飲み物を作る機会が失われていました。

ペーパーボートがユニークなのは、そういう失われつつあるレシピを各地から集め、それに基づくソフトドリンクを販売しているところです。インド人にとっては思い出の味ですから、新しい小売チェーンなどでは、こちらのほうがコーラ系の飲料よりも売れるようになってきました。

同社がエレファントデザインにパッケージの仕事を依頼しに来たとき、社員は4人と犬が一匹でしたが(笑)、その後、急成長を遂げています。
同様に、通りの屋台などで提供されているストリートフードも見直されてきました。実際の屋台は衛生状態がわからないので旅行者にはお勧めしませんが(笑)、たとえば、今、私たちがいるホテルでも面白いエピソードがあります。

このホテルでは、毎週日曜日に、レストラン前のホールを利用してストリートフードが提供されています。これは、ある若者が話を持ちかけて実現したものです。ホテル側も彼の起業を支援し、場所を提供するだけでなく什器などの準備を従業員に手伝わせるなどして、インドの街角を再現しています。

伝統をデザインの力で再生するこうした動きは、とても興味深いものです。

[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。
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