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[名画の読解力]理想美に異を唱え、見えたままに再現する─写実主義

2020.4.4 SAT

[名画の読解力]
理想美に異を唱え、見えたままに再現する─写実主義


本書で取り上げるのは、「物語を紡ぐ絵画」です。つまり、作品の背後に語られる物語があり、描かれた人物やモティーフに意味が託され、メッセージが込められている。わたしたちはそこに紡がれる物語を読み解いていくことを求められています。こうした絵画の見方を習得するのは少々やっかいで、時間のかかるものかもしれません。けれども、ひとたび、読み方を習得するならば、絵画作品はもっと深くわたしたちに語りかけ、知的な喜びと興奮を与えてくれます。
絵画ヒエラルキーに一石を投じたクールベ
ロマン主義に次いで誕生したのが写実主義(レアリスム)です。事物をリアルに描くという試みはこれまでにもされてきましたが、ここでいうレアリスムは、現実の事象にテーマを求め、自分の目で「見たままに」描いていることです。そして、ロマン主義のジェリコーが写実的に描いた《メデューズ号の筏》のように、現実の事象であっても歴史的な大事件や非日常的なドラマとして描くのではなく、卑近な人々の日常の一コマとしてありのままに描き出しました。

こうした絵画が描き出された背景には、共和制が成立し、民主化が推進され始めた西洋にとって、その中心人物は王侯貴族や聖職者ではなく、一般市民や労働者・農民に取って代わったということがあるでしょう。

そうした写実主義の代表的画家がギュスターヴ・クールベです。なかでも1850~51年のサロンで世に問うた《オルナンの埋葬》(図1)は、革新的な写実主義絵画の象徴のような作品です。
図1◆ギュスターヴ・クールベ《オルナンの埋葬》 1849~50年[オルセー美術館]

図1◆ギュスターヴ・クールベ《オルナンの埋葬》
1849~50年[オルセー美術館]

本作は、クールベの故郷オルナンという地方の町での埋葬場面を描いています。参列者は町長や判事、司祭、地方ブルジョワと、当時どの町でも見られた一般的な葬儀シーンです。亡くなった方も名もない一般の人でしょう。本来ならば小さいカンヴァスがふさわしい風俗画ですが、クールベは本作を縦3メートル、横6メートルを超える大作として描きました。歴史画に使われるような特大サイズのカンヴァスに一般人の葬儀シーンを描いたことで、サロンでは激しい非難が浴びせられたといいます。

テーマだけではなく、画面構成も秩序に欠けた単調なものであり、登場人物の動きもあまり見られず、ポーズもとっていないという、歴史画のセオリーにことごとく反したことも、保守的なサロンのメンバーは気に入らなかったのでしょう。実際、クールベが参考にしたのは古典的な絵画ではなく、一般市民を描いた17世紀オランダ絵画の集団肖像画などでした。クールベは歴史画を最上位とする絵画ジャンルの秩序を踏みにじることで、テーマや表現のヒエラルキーを取り払おうとしたのかもしれません。
農民画家ミレーが描く最下層の人々
卑近な人々の生活に目を向けた画家はクールベだけではありません。そのうちのひとり、ジャン=フランソワ・ミレーは、パリから車で1時間ほどかかるフォンテーヌブローの森に隣接した小さな村バルビゾンに移住すると、農民を題材にした作品を本格的に描き始めました。ミレーを中心にバルビゾンで農民の姿や風景画を描いた画家グループを「バルビゾン派」と呼びます。

ミレーの代表作《落穂拾い》(図2)は3人の女性が腰をかがめて黙々と穂を拾い集めている姿を描いたものです。穏やかな農村風景を表現しているようにも見えますが、ここに描かれているのは、近代化が進む19世紀当時の格差社会の縮図です。

図2◆ジャン=フランソワ・ミレー《落穂拾い》 1857年[オルセー美術館]

図2◆ジャン=フランソワ・ミレー《落穂拾い》
1857年[オルセー美術館]

彼女たちの後ろには、麦穂を刈り取り荷台に積む小作人たちが描かれ、さらに遠方には、馬に乗って監視する土地の所有者がいます。そして、自分たちが生きていくために畑に残っている穂を拾い集める最下層の貧窮者。土地の所有者→小作人→穂を拾う3人の女性という、農村の中にも広がっている格差がこの一枚に描かれているのです。

ただ、本作からは、そうした格差社会の最下層にいる人々の悲愴感は感じられません。それどころか、大地に汗を流しながら働く人々の高貴ささえも感じられます。ミレー自身、画家を志す前までは農民であったこともあり、自然の中で貧しくも懸命に生きる人々に対して尊敬の念があったのかもしれません。

ただミレーの描く農民たちを主題にした作品は、批判の対象となることもありました。ミレーに政治的な意図があったわけではないと思いますが、最下層の農民の姿をあからさまに映し出すことで「貧困に抗議する危険な絵」と非難されることもあったといいます。

次回の[名画の読解力]は、「画家の印象をそのまま描く─印象派」。エドゥアール・マネ《草上の昼食》エール=オーギュスト・ルノワール《舟遊びの人々の昼食》などに秘められた物語を読み解きます。

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名画の読解力 教養のある人は西洋美術のどこを楽しんでいるのか!?


監修:田中 久美子
定価:本体1,600円+税
四六判・272ページ


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