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物語のある、ニューフェイスな文房具

2020.05.29 Fri

7番目の物語

伝統の金襴織りとポップなデザインの化学反応!開運プロダクツ「kichijitsu」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

山梨県の織物会社「光織物」から2012年3月にデビュー。「毎日を吉日」にするテキスタイルプロダクトブランド「kichijitsu」を紹介します。お守り型のポーチ、御朱印帳など、デザイナー・井上綾さんのエスプリが効いた開運プロダクトでツキを呼び込もう。

ポップな和柄がキュート。日本伝統の粋をかわいく持てる

今回ご紹介する「kichijitsu」は、山梨県富士吉田市にある織物工場「光織物」から、2012年に生まれたブランド。デザイナーの井上綾さんとコラボレーションし、金糸、銀糸を色糸と混ぜて柄を織り出す伝統的な織物にアレンジ加えたプロダクトを作っている。ポケットがついたお守り型のポーチや、ポップな和柄がかわいい御朱印帳など、ファッション感覚で持ちたいものばかり。

毎日の気分をアゲてくれる色鮮やかな縁起物雑貨

大切な物を守る、お守り型のモバイルポーチ「おまもりぽっけ」
大切な物を守る、お守り型のモバイルポーチ「おまもりぽっけ」

山梨県富士吉田市発、「毎日を吉日」にするテキスタイルプロダクトブランド「kichijitsu」のデザイナーの井上綾さんにお話を伺いました。

──ブランドが誕生したきっかけを教えてください。

井上 東京造形大学大学院のデザイン学科にいたとき、教授の鈴木マサル先生が山梨の富士吉田の産地とお仕事をされていました。富士吉田は、実は、多くの織物工場が集積するOEM産地。ハイブランドを手掛けるほどの実力がありながら、当時は今ほどの知名度はありませんでした。そして、「自社ブランドをやりたい!新しいものを作りたい!」という、熱い気持ちを持った織屋の息子さんたちからの相談をきっかけに、大学との共同プロジェクトが始まりました。

──どのようなプロジェクトだったのでしょうか?

井上 富士吉田の製造メーカーに学生が1名ずつマッチングされ、自由にモノづくりをするというものでした。私は、掛け軸やお雛様の衣装に使われる生地・表装裂地・金襴緞子を専門とする織物会社「光織物」と組んで和のプロダクトを作ることになりました。1年目は、当時、エコバッグが流行っていたので、ちょっと目新しい感じの和柄のバッグを作ってみたのですが、成果発表を兼ねたギフトショーで現実を知ることに……。

ターゲットや用途を定めないとモノは売れないと実感し、2年目は、今までの布ありきでのものづくりをやめ、最初にコンセプトをガッツリ決めて、それに合わせて布を作るという方法にしました。会社の強みを活かした方がいいという結論に至り、光織物が、地元の「吉田の火祭り」という日本三大奇祭にも数えられるお祭りのお守り袋を作っていたことに着目。スマホやカメラなど大事なアイテムを入れられる、織物の生地で作ったお守り型のポーチを作りました。お守りは若い人も持っていて、年代問わず意外と身近なもので受け入れられやすいかなというのもありました。

──2月のギフトショーでリベンジをして、反応はどうでしたか?

井上 思いがけず、百貨店や全国に何店舗も展開する大きなショップなどからも名刺をいただけました。当日、光織物の方全員がインフルエンザで来ることができなかったのですが、いないのをいいことに「サンプル段階だけど、来年の春頃には出ると思う」と勝手に話して(笑)。会社側から見ると、学生で実績も伴わないし、作っているものも意味不明だし、元気だな、くらいしか思っていなかったはず。だから、取り扱いたいという声が上がったことを事実として見せた方が、説得力が出るかなと。就活もしてなかったし、1人だけでも踏ん張ってチャンスをモノにしたいという気持ちは強かったですね。

──素晴らしいです!これをきっかけに、2012年の春にブランドがデビューしたんですよね。テーマを「吉日」にしたのはなぜですか?

井上 最初にお守りを作っていたので、付随する単語をたくさん調べて、「吉日(kichijitsu)」という名前と、「毎日がハッピー」というふわっとしたコピーがしっくりきました。とにかく「毎日いい感じだったらいいでしょう」という想いで付けました。

日本人に親しまれてきた縁起物を今っぽく刷新

ポップで色鮮やかなカラーリングが目を引く「GOSHUINノート」
ポップで色鮮やかなカラーリングが目を引く「GOSHUINノート」

──アイデアはどのようにひらめくのでしょう?

井上 縁起物周りで実現できそうなものをバーっと書き留めています。「おまもりぽっけ」の次に出した「くっつきのし」は、「おまもりぽっけ」がちょっと価格が高めだったので、もう少し手頃にギフトとしても使えるもの、ということで考えました。ご祝儀袋に添えてある“のし”をおめでたい感じのブローチにして、直接プレゼントにくっつけて渡したり、パーティーで自分の胸につけてプレゼントに見立てて登場したら面白いかなと(笑)。気持ちも一緒に伝えられたらいいと思い、「ありがとう」「寿」などの言葉をデザインしました。

──ひらめきの感性がユニークですね!制作はどのように進めているのでしょうか?

井上 まず私がiPadとタッチペンでデザイン画を起こし、Photoshopで組み合わせてデータ化し光織物さんへ納品。光織物さんがさらにそれを織物用のデータにし、生地を織り、縫製工場で縫い上げて完成します。糸の色数が増えるほどコストがかかるので1図案3色・4色に抑えて、どうしても水色が欲しい!ここはピンク!というところだけ指定し、あとは光織物さんのテクニックにお任せして糸の重なりや織の組織で色数を見せています。織物の場合、通常のプリントと違って、糸の状態で見たのと織った場合とで色味が変化することが多くて……。最初は思った色合いにならなかったのですが、職人さんに世界観を分かっていただけたのか、今では一発で近いものが上がってきます。

ストライプとドット柄で裏面もかわいい!
ストライプとドット柄で裏面もかわいい!

──デザインに関して、共通するコンセプトがあったりしますか?

井上 モチーフが縁起物であること。日本に昔からある、千鳥・富士山・鶴・亀・吉祥文など図鑑や着物の柄からアイデアを引っ張り出し、そこに、“長寿”や“良い兆し”といったそれぞれの謂れを掛け合わせてイメージを作ります。

──「GOSHUINノート」など、アイテムの裏表紙がドット柄で細部までかわいいのも魅力的です。

井上 そこは実はコスト的なことも(笑)。両面それぞれを3色・4色糸を使うようなデザインにするとお金が倍かかるので裏面は1色で構成できるものにしようと思いつつ、表とはガラッと雰囲気も変えたくて。和柄だとコテコテだし、ドットやストライプでちょっと違和感を出しつつ賑やかになればいいかなとチョイスしました。

──いちばん売れているアイテムを教えてください。

井上 圧倒的に「GOSHUINノート」です。作った当時は、まだ縁結び神社が話題になり始めたくらいの頃で、御朱印帳もオフィシャルなものがほとんど。硬派な渋い御朱印帳しかなかったところに、カラフルなものが出たというのもあって爆発的に売れたのかなと思います。

異なるバックグラウンドを持つ者同士が組むおもしろさ

──「光織物」とコラボして良かったことを教えてください。

井上 今でこそ御朱印帳もキャラクターものとかがありますが、当時は業界内で白い目で見られていたはず(笑)。光織物が実績として、火祭りのお守りを作っていたり、地元の浅間神社の御朱印帳を作っていたりしたから作ることができたけれど、個人でやっていたら絶対無理だったのではと。そういう道筋があることはすごく助かっています。それに、私のデザインはプリントだったら説得力がないと思う。重厚な織物に今っぽい柄を配置することで、掛け算みたいな化学反応がすごく効いてると思います。

──今後の展望を教えてください。

井上 今は新型コロナウイルスの影響もあって様子見な感じですが……、もともとネットで売ることを前提にブランディングしてきていて、実際、この時期も安定して売れているのでひとまず待機。このような状況下でも自分の作ったものが、誰かの生活のちょっとした彩りや気持ちを上げるもののひとつになれていることをネットでたまたま見て、こちらもすごく勇気付けられたので、引き続き誰かのパワーになるような気持ちが明るくなるようなものを作っていけたらと思います!

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