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デザインのある生活

2020.12.24 Thu

森羅万象をモチーフに、感性を揺さぶる唯一無二の美しいパッケージ。ポーラ「APEX」

構成・文:編集部、沼田佳乃

2019年にブランドを刷新したポーラの「APEX」。抽象アートのようなグラフィックが魅力的なパッケージは、「sense of wonder」をデザインコンセプトに“森羅万象”をモチーフにしているのだそう。唯一無二の美しいルックスに、所有欲がくすぐられます。

30年の歴史が続くパーソナライズドスキンケアブランドが刷新

日本の化粧品メーカーとしては珍しく、海外、国内で数々のデザイン賞を受賞しているポーラ。その旗艦ブランドとして、30年もの歴史が続くパーソナライズドスキンケアブランド「APEX」が2019年にリニューアル。1989年のデビューより脈々と続いてきた「物語るデザイン」に、今の時代にあった「インタラクティブ性」を掛け合わせ、新しいコミュニケーションを生み出すブランドとして再発進。そのパッケージデザインは、なんとひとつとして同じものがないのだとか……!独創的なデザインアイデアがいかにして生まれたのか、その哲学、発想について迫りました。

リブランディングしたポーラが定義した3つのこと

「ポーラ」のブランドデザイン部の部長・鈴木智晴さん、アートディレクター・渡辺有史さん、コミュニケーション戦略部PRの山村実香さんにお話を伺いました。

──まず初めに、ポーラについて教えてください。2016年にリブランディングしたのはどのような経緯があったのでしょうか。

山村 弊社では定期的にブランドイメージの市場調査を行なっているのですが、結果が伸び悩んでいたため、2013年夏頃からリブランディングを検討、2016年にブランドをリニューアルしました。ポーラの独自価値を「サイエンス」「アート」「ラブ」という3つの言葉で再定義し、ロゴのマークも青から確固たる自信を持って“何者にも染まらない”という思いを込めて文字を黒に変更するなど、改めて企業意志を示しました。

──これを機に、さらにデザインに力を入れたそうですが……?

鈴木 やるべきことが明確になったというのがいちばんの大きな理由です。先ほどお話しした3つの独自価値の「アート」の部分を、弊社のブランドデザイン部が担うことになりました。「ポーラのアートってなんですか?」と聞かれたときに、「お客様一人ひとりの感性を大切にすることで豊かな社会にしたい」と考えました。独創的な仕掛けを通して、お客様に好奇心や想像力を拡張していただく喜びを感じていただきたいと。そのようなお客様一人ひとりとのインタラクティブな関係性を持つことがポーラのアートだと定義しました。

ポーラは訪問販売出身なんです。創業90年ですが、DNAとして「物語るデザイン」というテーマがずっと根底にありました。店頭に並ぶというより、お客様が手に取ったときに美しいか、販売員の方々が商品一つひとつをどこまで語れるかといったことをいちばんにデザインしてきた経緯があります。そういった歴史があるのですが、リブランディングにより、お客様とのインタラクティブな関係性を保つのが新たなポーラの在り方であると明確になりました。お客様と対話を生むデザインとはどういうことかという命題への答えが「お客様の想像の余白があること」「個に深く刺さるデザインであること」「意外性があって驚きがあること」でした。この3つの視点に立ち、世界観を丁寧に作り上げています。

──ポーラのシンボルである「POLA Dots」について教えてください。

鈴木 リブランディングしたときに、グラフィックデザイナーの服部一成さんに作っていただきました。「POLA Dots」(画像参照)は“ポーラが作り出す製品、その一滴一滴の雫”と捉えていただくといいのかなと。上下左右が白い余白に区切られているのですが、一滴一滴の雫が時空を超えて無限に広がっていく様を表現しています。製品一滴一滴まで手を抜くことなく生産し、お客様の手元まで大切に届けたいという、「サイエンス」「アート」「ラブ」の実践の象徴です。どう感じて、どう受け取ってもらうかを大切にしたいと思っています。

「未来はひとつひとつデザインできる」という新しいメッセージ

──それでは「APEX」について教えてください。APEXは2019年にリニューアルを行っていますが、どのような経緯で刷新されたのでしょうか?

山村 時代とともに、お客様の価値観が変わってきたのが大きいです。多様化が進み、自分らしく生きることに価値をおく人が増えた。そのニーズに応えるために、さまざまな分野でサービスやアイテムのパーソナライズ化が進み、その中で、「肌は大切な自分の資産」と捉えている女性が多くなりました。一方で、「時間もコストも有限だからこそ、選択を間違えたくない」「賢く選択したい」というニーズも顕著化してきたため、APEXも進化させていこうというのがリニューアルの背景にあります。

APEXは、ポーラを体現しているブランドといっても過言ではありません。ポーラの創業者の想いが「最上のものを一人ひとりにあったお手入れとともに、お手渡ししたい」というもので、この想いに突き動かされた1人の研究員が全国の女性の肌を調べて回り、「肌は一人ひとり違う。個対応ができれば全ての女性をきれいにできるのではないか」と仮説を立てた。その考えが、本格的な肌分析技術の確立と個対応処方の開発に繋がって生まれたのが、日本初の肌対応ブランド「APEX」です。以来、30年近く女性の肌を見続け、現在、1870万件を超える日本女性の肌のデータを取得しました。このデータがポーラにとってかけがえのない資産となり、さらにAPEXは進化しています。この思いを受け継ぎつつ、現行品には「未来はひとつひとつデザインできる」というメッセージが新たに加わりました。

──APEXの商品特徴はどんなところですか?

山村 肌対応ブランドということで、APEXは実際に肌を分析して商品を提供しています。分析は2パターンあり、静止画分析と動画分析というものを行います。静止画分析というのが紫外線、可視光線、近赤外線の3つの波長を利用し、肌の表面から内部までの多様な情報を取得。今の肌の強み弱み、今と近い未来に現れやすい肌状態を知る「コンディション分析」と、肌の未来の可能性、5年後10年後のために高めておくと良い力を知る「ポテンシャル分析」を行います。

一方、動画分析では、実際にiPadをかざし、決められた顔の動きから170万個以上の肌の情報を抽出することができます。その分析結果をベースにしつつ、感触や質感もアジャストしてもらいます。アジャストは、お客様の地域や気象の状況も活用して日々のケアを862万通りの中から見つけるケアフィッティングと、39種類のテスターをタッチアップしていただき、ステップごとに感触とか質感、メイク用品においてはカラーを決めていくアジャストを行ないます。

実際のアイテムはベースケアが7品。クレンジングだけでも肌のタイプに合わせて多彩なバリエーションがあります。スキンケアを選ぶとき、「サンプルを試して自分に合わせていく」ことが多いと思いますが、APEXは分析によってその方にあったものを提供しているので、迷ったり失敗したりという過程がないのが時間の節約になる。APEXの強みとして最先端の肌分析技術もありますが、ポーラのビューティディレクターが実際に肌を見て、お客様のお話を聞いていきます。お客様と一緒に「どういう肌になりたいか」というプランを立てていくことにも大きな魅力のひとつだと考えています。

──ターゲットについても教えてください。

山村 年齢や性別にこだわらず、「肌は自分の大事な資産である」「時間もコストも有限だから選択を間違えたくない」と考えている方をターゲットにしております。価値に共感していただいたらどなたでも合うものが見つかる。APEXを求めに来る人の傾向として、自分の肌のことを本当に知りたい人、好奇心が強い人たちが多い。そこがほかのブランドとは異なる特徴だと思います。

知的好奇心をくすぐる“驚き”をデザインにプラスして

──デザインは社内の方が担当されているのでしょうか?

渡辺 ポーラの製品は全て自社でデザインしています。インハウスでデザインすることは、「会社の歴代の考え方やそのときのトレンドなど、すべて知った上でブランドの在り方を提示していける」というのが、外部に頼む場合と圧倒的な差がある。「自分たちのブランドをいちばん愛着を持ってデザインできるのは我々だという自負」もありますね。もちろん同じメンバーで長くやっていると視野が狭くなりがちなので、いろいろなデザインセミナーを開催したり、コラボレーションをしたり……、インハウスでもいろいろなチャレンジをしています。

──APEXは“森羅万象”をモチーフにされていますね。その理由はなんでしょうか?また、どのようにデザインに落とし込みましたか?

渡辺 デザインコンセプトは「sense of wonder」です。アメリカのレイチェル・カーソンという有名な生物学者の言葉で、わかりやすくいうと「子どもが自然などいろいろなものを見たり、感じたりした時の感性やその感受性」と言ったようなことを指します。知的好奇心をくすぐるような新鮮な驚きを提供してあげることで、感性の変化をもたらすことをテーマにしました。刺激をずっと与えることで「こういうのが好きだったんだ」、もしくは「前とは違うかも」と改めて気づきを与える。より気づきが多い方が、感性が豊かになるんじゃないかなと。それをAPEXのデザインでかなえてあげたいと思っています。

そこからなぜ「森羅万象」に落ちてくるかというと、APEX自体が1989年にデビューしてから30年以上、人の肌を見続けてきたブランドで、一度“肌”を表現すべきなんじゃないかと。そう考えたときに、人がいてその周りには自然があって、その変化によって肌も変わっていく。つまり自然やその周りを表現することが、=肌を表現することになるんじゃないかと思いました。なので、コンセプトはあくまで「sense of wonder」。グラフィックを起こすためのモチーフが「森羅万象」。

ポイントとしては、ダイレクトにそのものをグラフィックに処理していなくて、「これっぽいな」とか、「これかな?」とか、見た時に想像力を膨らませるようなデザインを心がけました。もっとわかりやすくいうと、抽象と具象の間というか、分かりすぎても神秘的じゃないし、分からな過ぎても何も起こらない。その間のちょっと好奇心をくすぐるようなグラフィックの処理の仕方というか、そういうアウトプットを心がけています。

渡辺 モチーフとしては、自然科学とか、そういったところに見られるような……。例えば、このウォッシュのデザインは天体の軌道だったりするわけですね(画像上参照)。クリームのデザインに関しては重力だったり磁場だったり、見えない力の働きかける方向性みたいなものをパターンにしています(画像左下参照)。クレンジングの波の模様は音の波形です(画像右下参照)。これは実際デザイナーが鳥のさえずりの波形や虫の鳴き声の波形を取ってきたと言っていました。

──「ひとつとして同じデザインがない仕様」とのことですが、具体的には……?

渡辺 今回、デジタル印刷機を導入したのですが、生産するたびにグラフィックが変動するというユニークな試みをしました。アイテムごとに柄を変えたのはもちろん、同じ品目でもちょっとデザインが違う。肌というものは、同じ気温・湿度の日でも調子が違うという話をそのまま表現したくて、作るたびに全部変化するというプログラムを組んでデザインしているんです。

なので、今、ここに写っているのは一見同じに見えるけど、全部色が違う。その揺らぎみたいなものをちょっとでも感じていただきたい。InstagramなどのSNSで、「毎回変わるので楽しみ」とか「色が似ている!」とか、このパッケージにすることで新しいコミュニケーションが生まれたのではないかなと思ってます。

──何通りものデザインがあるなど、ほかの商品をデザインするのとは違う部分が多々あると思います。制作で苦労した部分、大変だった部分などはありますか?

渡辺 デジタル印刷機で使うデザインデータがあるのですが、それにひとつのアイデアを変換するのがとても大変な作業で、とにかくパターンの数がものすごい!色カンプが電話帳くらいになってました。色校どころか、毎回違うので色が変わったとしても比べるものがないから全部正解。最初は印刷屋さんも戸惑っていましたね(笑)。

あとはモチーフを考える段階で、「またこれか」とか、「さっき音波やったじゃん」とか(笑)。音だけでも、波形だけじゃなく、いろいろな伝わり方があって、そういうネタをいかに拾ってくるか。それを集めるのが大変で、みんなであらゆる自然科学の分野を片っ端から調べていきました。それも、馴染みがなさ過ぎるものだとダメ。あくまで自分たちの生活の中であるもの、聞いたことあるものを選ばなきゃいけない。

──APEXだけでなく、ポーラ全体のデザインで心がけていることはありますか?

渡辺 手元に持って美しいとか、商品を語れるか、というのがデザインの始まり。でも今はそれだけじゃダメで、新しいコミュニケーションを生み出すのがデザインじゃないかと。そんな考え方で、好奇心を揺さぶったり、何かを想像させたり、そういうきっかけになる仕掛けというのを常に意識してデザインしています。

──それでは最後に、今後の展開を教えてください。

渡辺 これまでずっとスキンケアというサービスをアウトプットしてきたのですが、「一人ひとりの未来をデザインする」のは化粧品だけじゃない。生活全般、ライフケアとか、食品かもしれない。「その人の人生を豊かに」というところはブランドのマインドとしてはあるので、いずれはそういうところまで拡充していきたい。あくまで希望ですが、いろいろなことに取り組んでいきたいですね。

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