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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第3回 ヨドバシカメラ

2024.4.24 WED

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第3回 ヨドバシカメラ






株式会社ヨドバシカメラ
グッドコミュニケーション本部長
吉澤 勉 氏



商人の心でECを展開する
ヨドバシカメラのネット戦略


長く続く経済不況の中、小売業界では大手百貨店やスーパーマーケットといった総合小売企業が経営統合などの業界再編を行いつつも業績不振にあえぎ低迷を続ける一方で、専門店と呼ばれる流通・小売企業は業績を伸ばし、業界の主役に躍り出ようとしている。専門店としてはドラッグストア、衣料品関連企業などが業績を伸ばしているが、特に好調なのが大手家電量販店といわれている。

大手家電量販店は、デジタル家電への消費者ニーズの高騰を背景に、品揃えの良さと顧客サービスの充実、さらにポイント制導入による購買意欲の刺激など、さまざまな施策を展開することで現在の隆盛を誇っている。

専門店が勝ち組となっている背景には、ここ数年でインターネットをチャネルとした販売戦略を迅速かつ積極的に展開していることも大きな要因となっているケースもあると考えられるが、いわゆるEコマースの展開で注目されるのが、昨年9月16日、東京・秋葉原に「マルチメディアAkiba」をオープンして話題となったヨドバシカメラ。日経流通新聞の2005年版「eショップ・通信販売調査」ECネット通販売上高ランキングによれば、千趣会、ニッセンといった通販専門企業に続き第3位にランキング。家電量販店としてはだんとつのトップである。そこで今回はヨドバシカメラのEコマースへの取り組みについて、同社グッドコミュニケーション本部の吉澤勉本部長に聞いてみた。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 Eコマース黎明期より
チャネルとしての活用を意識していた


Web STRATEGY(以下、WS) 家電量販という業界の中でも、特にEコマースでの売り上げが非常に好調なヨドバシカメラさんですが、まずはEコマースへの取り組みの歴史からお聞かせいただけますか。

吉澤氏 当社ではかなり早い段階からEコマースへの取り組みが開始されました。当初は現在の「ドットコム(.com)」ではなく「.co.jp」でしたが、Eコマースサイトして「ヨドバシ・パーソナルストア」をオープンしたのが1997年10月のことです。当社の営業展開の施策として“マルチチャネル”展開を計画していたこともあって、いわゆるリアル(実)店舗以外のカタログ通販やテレホンショッピングといった、さまざまな販売チャネルのひとつとしてインターネットもとらえていたんです。

ヨドバシカメラのEコマースサイト
■ヨドバシカメラのEコマースサイト
充実の品揃えで家電量販店としては売上高トップを誇る「ヨドバシ・ドットコム(yodobashi.com)」(http://www.yodobashi.com/


WS 「ヨドバシ・パーソナルストア」の立ち上げ時点では、Eコマースをどのような位置づけでとらえていたのでしょうか。やはりリアル店舗と同等の販路として考えられていたのですか?

吉澤氏 いえいえ。当時はまだお客様のインターネット接続環境もダイヤルアップ接続が主流の時代ということもあって、実験的にインターネットを販路として使ってみようという方針だったと思います。ただ、あまり期待していなかったというわけではなく、Eコマースというチャネルにどうやって販売戦略を展開していくかを実験的に模索していた時代ですね。当初は販売商品もPCソフトやゲームソフトといったソフトウエアがメイン。ハードウエアもいわゆる家電ではなく、パソコンおよび周辺機器、つまりCRTやCD-ROMドライブといったものです。

また、当初はEコマースでの商品販売は基幹システムと連動していませんでしたので、バックヤードでの販売処理も手作業。1日平均30から40件の注文に対して、担当者が手作業で基幹システムに入力すると同時に、商品発送も行うといった初期Eコマース形態だったんです。ですから1日に100件も注文が入ると、スタッフが「今日はすごい!」などと反応したりしていましたね。

WS 販売商品構成からすると、当時はやはりインターネットユーザー=コンピュータリテラシーが高いユーザーという図式が強かったわけですね。そういった状況から、現在のように多数の商品を取り扱う総合的なショップ展開へと変わったのはどういった経緯からなのでしょうか。

吉澤氏 今、申し上げたように、当初は基幹システムと連動していなかったこともあって、多数の商品を取り扱うのは難しかったという背景もあります。実は、当社では1999年5月に基幹システムとしてSAP R/3を導入しました。これは人事から販売管理までの社内情報を一元的に管理できる基幹システムになります。これによってEコマースと基幹との連動も行えるようになったことが、現在の「ヨドバシ・ドットコム(yodobashi.com)」を生むきっかけとなりました。1999年5月にいったん「ヨドバシ・パーソナルストア」を閉じて、同年8月に再公開したんです。この時点で、社内の商品在庫管理から物流管理まで一元管理できるようになり、Eコマースとの連動も実現され、ゲームやPC関連以外の商品販売も積極的に展開できる基盤ができました。そして2000年5月には、「ヨドバシ・ドットコム」へと完全リニューアルしたのです。

WS マルチチャネル施策として、Eコマースもひとつのチャネルとしてとらえていたということですが、初期の社内的な反応などはどうだったのでしょうか?

吉澤氏 もちろん当初はEコマースそのものの可能性に悲観的な意見もなくはなかったですよ。やはり当社は実店舗で実際にお客様と接して“モノを売る”というのが基本ですから、「目で見て、手で触る」ことができないEコマースではいわゆる大型家電などは売れないんじゃないかという、Eコマースを“イロモノ”的にとらえた意見ですね。同時にEコマースでのお客様に対するイメージもインターネットやPCに関してのリテラシーが非常に高い人、ともすれば“ITオタク”的なイメージを持っていたり。ただ、違った見方も多かったです。PCやインターネットが家庭に急速に普及してショッピングも含めた情報チャネルのインフラとして定着することが予想されましたし、同時にEコマースを利用する一般的なお客様も増加するであろうと。




2 Eコマースサイトは
リアル店舗と同等の位置づけ


WS 現在のヨドバシ・ドットコムはリアル店舗と同様に品揃えが豊富で、サービスも充実していますが、現在の販売状況などはどうなのでしょうか

吉澤氏 ヨドバシ・ドットコムでは、現在およそ8万アイテムの商品を取り扱っています。これはリアル店舗に比べると少ないのですが、リアル店舗ではカメラ関係の部品なども多数取り扱うためで、一般消費者に向けた品揃えとしては、リアル店舗とほぼ同等の品揃えとなっています。Eコマース開設当初のゲーム・PC関連中心の品揃えから、消費者のネット利用率の向上とともに次第に品揃えを拡充し、現在では基本的な品揃えはできあがった段階にきていると考えています。年商としては、2002年度で91億円を売り上げ、当然事業計画としての目標値が設定されました。100億円を超えるというものですが、翌年には目標値を達成し、2004年度には210億円と急成長しています。2005年度は260億円と伸び率も多少落ち着きましたが、2006年度には300億円を達成する見込みです。

ヨドバシ・ドットコム(yodobashi.com)の売上高推移
■ヨドバシ・ドットコム(yodobashi.com)の売上高推移
ヨドバシ・ドットコム(yodobashi.com)の売上高は商品ラインアップを拡充していった2003年から2004年にかけて急激な成長を見せている。その後、伸び率は落ち着いてはいるが2006年度にはおよそ300億円の売り上げを見込んでいる


WS なるほど。そうするとすでにEコマースもひとつの販売チャネルとして確立している段階にあるということでしょうか。

吉澤氏 そうですね。少なくとも現在の当社のとらえ方としては、ヨドバシ・ドットコムもリアル店舗と同等であり、ひとつの販売店としてとらえています。売上規模として「マルチメディアAkiba」や「マルチメディア梅田」といったメガストアのお店に対しては、ミドルクラスという位置付けになりますが、売上高の推移としては伸び率20%以上ですので、ヨドバシ・ドットコムはトップクラスにあるといえます。その意味では、今後巨大な販売チャネルとしての期待値は大きいですね。

WS リアル店舗では地域的な住み分けができていますが、Eコマースは全国レベルの店舗といえますよね。このあたり、同じヨドバシカメラの店舗として競合するといった懸念はないのでしょうか。

吉澤氏 競合店ととらえるよりもプラスアルファの役割や効果に着目しています。Eコマースサイトの役割としては、当然販売チャネルとしての期待が大きいわけですが、同時にネットならではの特性にも期待しているということです。そのひとつが情報の即時性。これはリアル店舗でも展開してきた当社商法の基本でもあるのですが、新製品情報をすばやく提供し、さらに予約販売により新製品をできるだけ速くお客様のお手元に届ける。商売として考えた場合、商機を見つけてから対応したのでは遅い。ビジネスに勝ち残るためのスピードが重要ということもありますが、むしろお客様第一という考えに基づいています。その意味では、リアル店舗に足を運びにくい地域のお客様にとってはヨドバシ・ドットコムをどんどん活用していただきたいと考えているわけです。したがって品揃えだけでなく、売価に関してもリアル店舗・Eコマースともに統一価格であることを基本としています。もちろんリアル店舗では競合店との関係で適時独自の売価戦略をとることもありますが、基本的には統一売価。また、商品購入に伴う工事やアフターケアなどもリアル店舗とEコマースに違いはありません。


3 ネットであろうともリアル店舗で培った
“あきんど”の心を忘れず


WS Eコマースでの成功とその要因についてはどのように分析していますか?

吉澤氏 2004年度までにかけての売上高の急激な伸びは、インターネットの普及によるネットユーザー層の広がりを背景として、ヨドバシ・ドットコムでの取扱商品アイテム数を増やしたことにあったと思います。2005年度で伸び率が落ちたことでも、ある意味ネットで提供するアイテムとしては一通り品揃えができたのだろうと判断していますね。

WS 商品ラインアップがある程度落ち着いたとしたら、今後はどのようにEコマースを展開していくのでしょう。

吉澤氏 インターネットの利用状況として、すでにネットショッピングは浸透しつつあります。ネットで欲しいものを探して注文すれば、すぐに届くという利便性が当たり前と考えるユーザーも増えるでしょう。ですから、リアル店舗と同じサービスをEコマースでも提供する必要があると考えています。もちろん、完全に同じとはなりません。たとえばEコマースではポイントによるお支払いはできません()。ただし、Eコマースでためたポイントは店舗でご利用いただくことは可能です。そのほか、アイテムとして取り扱っていない製品でもお問い合わせいただければ、商品によってはネットを通じてお買い求めいただける場合もあります。さらに取付工事やアフターケアなどの窓口もきちんと用意し、リアル店舗と変わらないサービスを充実させていくという段階にあると思います。

WS Eコマースを成功させる秘訣といいますか、するにあたっての御社独自の施策などはあるのでしょうか。

吉澤氏 当社は小売業ですから、販売の基本として重視しているのが商人(あきんど)の肝である“接客”です。これはリアル店舗で培ってきたものですが、Eコマースでも基本は同じですね。販売の基本は3つあり、お客様のニーズを適確に把握する「想像力」、そしてお客様に商品を説明し、理解していただく「説得力」。もうひとつが「演技力」でして、これはいかに安心して、そして納得してお買い求めいただけるかというのは販売員の話法にかかっていると考えているんです。

WS 想像力と説得力、そして演技力となると実際に販売員が接客することのないEコマースではどうやって実現するのでしょうか。

吉澤氏 簡単にいえば、Eコマースに訪れるお客様の気持ちを考えて、適切な対応をするということですね。当然多くのお客さまが商品情報を求めているわけですから、来ていただいたお客様をがっかりとさせないように十分な情報量を掲載しておく必要があります。また、検索エンジンなどを使ってより積極的に情報を求める方に向けてはリスティング広告やRSSで情報を発信する。またサイト上では、ピンポイントで企画したコンテンツを多数掲載することで幅広い多様なお客様ニーズに対応することも重要 。

Eコマースにおける販売の基本
■Eコマースにおける販売の基本
リアル店舗で培った小売店舗としての販売の基本をEコマースでも実現する

RSS取得ページ
■RSS取得ページ
新着情報や店舗ニュースなどの情報をRSSで提供しているページ
http://www.yodobashi.com/enjoy/more/rss/
実店舗の最新キャンペーンを告知することでECだけでなくメディアとして効果を目指す


Eコマースサイトにはショッピングサービスだけでなく、当然当社の広告塔としての役割もあります。したがってヨドバシカメラとして商品をどのように販売するのかという明確なメッセージがそこにある必要があると考えています。発信する情報もありきたりのものでいいのか? と考えてますね。むしろヨドバシカメラならではの商品情報を発信しようと考えています。そうすることでお客様から、必ずレスポンスがある。良いレスポンスもあれば悪いレスポンスもあるでしょう。しかし、なんのメッセージもないところにレスポンスはないわけです。レスポンスを通じて、お客様と対話し、そこに潜むニーズを掘り出すということがEコマースには必要なことだと思いますね。

※注 2006年前期には、インターネットでもポイントの使用が可能になる予定。




役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2006年5-6 vol.3からの転載です
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