第4話 夢はまだ終わらない | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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まざまなジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はグラフィック・デザイナーの金松滋さん(metamo)を取材し、今日までの足跡をたどりま


第4話 夢はまだ終わらない



金松滋さん

港区西麻布の仕事部屋にて、金松滋さん


みんなの個性で成り立ちたい



──その後、仕事も順調に?

金松●いま振り返ると、その頃が一番、精神的にも経営的にも一緒に上がっていく感じを実感できた時期かもしれません。そういう意味では有意義でした。その後、アシスタントも少し入れなくちゃならないし、途中からもう一人、工芸高校の友人が経営に参加し、少しずつ業態ができてきて。最初の西麻布のワンルームで2年ぐらいやったいたんですけど、人数が4〜5人になると事務所も手狭になるわ、機材で電気のアンペアも落ちちゃうわ……それで現在の事務所が近所だったので、借りようと思って移ったんです。

──同時に「メタモ」を設立?

金松●いえ、まだオーファイヴの延長ですね。そこから3年ぐらい経って、オーファイヴは機能しながらメタモを設立しました。

──どうして?

金松●オーファイヴがうまくいったことによって、決裁権とかルール作りとか、代表が3人だと煩雑なこともあったんです。仕事の内容でもそれぞれが指向している方向も微妙に違うので、だったら独立採算制で「オーファイヴ・グループ」という流れで、それぞれ会社を作りましょうという話になったんです。

──それが現在でも続いているんですか?

金松●現実的にはオーファイヴでの機能は休止中。バンドみたいにまた一緒にやりたくなったら再結成しようと(笑)。パートナーはいま京橋で有名なカレー屋さんをやっています(笑)。もう一人は銀座で事務所を構え直して。結局、僕が一番荷物もあったし、僕のチームの人数が一番多かったもので、現在のこのフロアー、見晴らしも都会ではなかなか見つけられないところだから、もったいないから借りましょう、と。

──2002年の設立から6年、振り返ってどうですか?

金松●ありがたいことに仕事も続いて。仕事が仕事を呼ぶ、じゃないんですけど……実は一度だけメタモを設立したとき、売り上げ的にも焦りがあって営業の真似事をしたことがあるんです。けど、そういう仕事って信頼関係で結びついてないじゃないですか。向こうもこっちもサジ加減がわからない。信用のあるクライアントだったら、好き勝手を言えるところも、そういう場合は向こうの言うことを聞いて、テンションの低い仕事になったりする。で「あ、営業しないほうがいいな」と逆に思ったんです。そこで切り替えて、一個一個の仕事を丁寧にやって、次に繋がるようにしたいなぁと思って。結局そのほうが結果的に続いていくから。

──現在、手がけた仕事は映画が多いですね。

金松●いま、エンタテイメント系が一層増えてますね。映画だったりテレビの番組宣伝や関連するスポットCM、DVDやブルーレイのパッケージメディア系が多くなってきています。個人的には、もうちょっと広告系の仕事があったほうがスタッフの教育上、バランス的には望ましいんだけど。エディトリアルも装丁とか全体をディレクションできるものをやらせてもらっています。

──スタッフの人数は?

金松●現在、僕を含めて6名です。

──経営者ですよね。どうですか?

金松●いやー、つくづく大変というか。正直、モノを作っているほうが圧倒的に楽しいですよね。でも僕が現場で徹夜の仕事とかをしてると、全体のクオリティの精度が落ちたりするので(笑)。なるべくいまはクリエイティブディレクター、もしくはアートディレクターとしてやっています。うちのスタッフはまだ若手が多いので、打ち合わせや撮影や段取りとかは、なるべく連れて行って教えてあげるようにしているんです。うちの事務所、個人的な僕のトーンで統一するってことではなくて、なるべくみんなの個性で成り立ちたいと思っているんです。で、得意分野の仕事でメシが食えるようになってもらいたくて。


『33分探偵』

『ハッピーフライト』ポスター『MW』(ムウ)マスコミ用ティザープレス

『ココロプロジェクト』Greeting Book

金松さんの仕事より
上段『33分探偵』左からテレビCM→シナリオブック→DVDボックスセット(上巻)
テレビCM cd+pl:金松滋/ディレクター:長谷川優樹/コピー:河野透
シナリオブック 装丁・本文デザイン:金松滋、冨岡祥雄/扶桑社より絶賛発売中!
DVDボックスセット(上巻) cd:金松滋/ad+d:冨岡祥雄/11月5日より全国一斉発売!
中段左『ハッピーフライト』ポスター cd:金松滋/ad+d:佐藤直子/ph:横浪修/2008年11月15日より東宝系劇場にて全国ロードショー!
中段右『MW』(ムウ)マスコミ用ティザープレス cd:金松滋/ad+d:冨岡祥雄/2009年7月公開予定!
下段『ココロプロジェクト』Greeting Book 参加アーティスト:市橋織江、小山奈々子、コロボックル、渡辺リリコ


もう1ステージ何かを



──子供の頃、思い描いた世界の近くにいらっしゃる。

金松●邦画広告の場合は、最近スタッフに同世代が多くて、宣伝が重要だと接してくださるプロデューサーも増えてきました。そういう意味では、仲間として認めてもらえる部分はうれしいし、それはすごくありがたい。とは言っても古くから映画業界は、本編制作の現場サイドの意思決定がメインになることが多いので、なかなか宣伝の重要さが伝わらない場合もまれにあります。そういう時は様子を見ながら、素材の整理だけではなくて、映画のポテンシャルをいい意味で世の中に出すために「フックを一緒に作りましょう」と提案しています。そういう意味では、うちならではのスタンスがだいぶ浸透してきたんじゃないかと。

──やりやすくなってきた?

金松●そうですね。あと、うちに入ってくる若い人たちが映画や映像媒体で仕事をしたいと思って入社する子たちが多いので。逆に「実際はけっこう大変なのになぁ」って思ってしまうんだけど(笑)。

──スタッフに何を求めますか?

金松●うちの場合は、少なくとも3年間、僕にきちんとついた子には、独立しても他の事務所に行っても「使えるな」っていう人材になってほしい。やっぱり当然厳しいので、数ヶ月で辞めちゃう子とかいるのですが、ここ1〜2年は安定しているかな。いい意味で独立してくれた子とか、入ってくる子もモチベーションが高い子が多いので、これからは受注の仕事ばかりではなくて、もっと自分たちで提案できるような“コミュニケーション・ファクトリー”になるといいなとは思います。

──そのひとつがプロダクツ企画『ココロプロジェクト』ですか?

金松●そうですね。でもそれに限らず、僕個人としては、まだ映画を諦めてないので(笑)。実は去年、会社をバックれて、半年ほどロスに留学していたんです。メールやスカイプで仕事をしながらではあるんですけど、映画の基礎やビジネスを学びに。自分が勉強する立場にいると、「なるほどなぁ」と思うこともある。ハリウッド映画に限られるかもしれませんが、グローバルな配給を目的にした映画は、アイデアの考え方や制作プロセスが広告制作と非常に近いと思いました。要は売れる事、伝わる事が目的で、受け手主体であると。例えば、今まで作家的な映画だと感じていた歴史的な作品ですら、解体し、ひも解いてみると、かなり計算し論理的に作られていることがわかりました。表現としていいか悪いかは別として、これからコンテンツを作ったり手伝う身として勉強しておいて損はないなと。それで、ロスで知り合ったシナリオの講師を日本に呼んで、ハリウッド式の脚本セミナーを定期的にやり始めたりしてます。匍匐前進ですけど、僕もけっこういい歳なので、もっと急がないとまずい(笑)。伊丹十三さんのように若くして監督になったわけではなく、ある程度自分のキャリアを築いた後ですぐれた映画を作った方もいる。かならずしも映画というメディアにこだわるわけではないけれど、今まで勉強した事を複合して、人に伝えるメディアとしての表現を、グラフィックや編集、そして映像を含めてトライしたいと思っています。その足がかりはだいぶできてきたので、もう1ステージ何かをやっていきたい。

──では、最後にアドバイスを。

金松●正直、競争の厳しい業界だと思います。そこで残っていくためには、自分の得意なジャンル、好きなジャンル、人に負けないジャンルを大事にすること。そして、一番重要なのは、素直さを忘れない事だと思います。たとえば人から教わることだったり、物語から受けた感銘みたいなものを、自分のフィルターを通して他の人に伝えようとすること。それが僕らの仕事の根本じゃないかと思うんです。なにもなく、ただ伝えるだけではつまらない。だからこそ、得意分野をいかす形で勉強していくといいんじゃないか、と。まあ、大変だとは思います。この業界に来る人たちにも必ず来いとは言えない(笑)。

──あんまり脅かさないでください(笑)。

金松●うちに面接に来る子たちにも「うちはキツいよ」って話から始めて。でも、いい作品ができたり、人の心に届くような仕事がちょっとでもできると、キツい事がふっとぶような嬉しい部分があるから、と。だから、なんとか続けていけるんですよ。

『ハリウッド脚本塾 第2回』短期集中脚本講座

『ハリウッド脚本塾 第2回』短期集中脚本講座
※本文中に出てきた脚本講座です。詳しい情報・お申し込みは「www.ハリウッド脚本塾.com」まで!
今回で金松滋さんのインタビューは終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


金松滋さん

[プロフィール]

かねまつ・しげる●1967年東京都生まれ。都立工芸高校デザイン科卒業後、デザイン会社数社での勤務を経た1995年、友人とともに「オーファイヴ・リミックス」を立ち上げ独立。2002年、現在主宰する「メタモ」を設立し、クリエイティブ・ディレクターとして映画宣伝、広告、書籍装幀など活動中。

http://www.metamo.co.jp/




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