アップルの思想と隠れた思惑が見え隠れする macOS名称変遷の歴史(前編)
アップルの思想と隠れた思惑が見え隠れする macOS名称変遷の歴史(前編)
2016年6月30日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
WWDC 2016のキーノートでは、これまでOS Xと呼ばれていたMacintosh向けのOSの名称を、macOSに変更することが公表された。Mac用OSの名称変更は、もちろんこれが初めてではなく、多少、皮肉を込めていうならば、アップルが採用するI/O規格のように、事あるごとに変更されてきた。しかし、そこにはアップルなりの理由があり、思想や思惑が含まれている。
では、その思想や思惑とはいったい何か? そこで今回は、ミニ知識的に、アップルなりの変遷の歴史を前・後編に分けて、振り返ってみたい。前編では、Classic Mac OSを中心にお届けしよう。
では、その思想や思惑とはいったい何か? そこで今回は、ミニ知識的に、アップルなりの変遷の歴史を前・後編に分けて、振り返ってみたい。前編では、Classic Mac OSを中心にお届けしよう。
・名無しのOSに込めた意味
実のところ、初代Macを開発した頃には、アップルはOSに名前は要らないと考えていた。なぜなら、そもそもユーザーにOSを意識させてはならないという開発思想があったためだ。これは至極真っ当な製品哲学であり、かつてジョブズが語ったように、"Just works."、つまり「色々なことを考えなくても単に機能すること」に開発の軸を置くならば、当然とも言える判断だった。
それでも、まったく呼称がないというのも、アップデート(当時のOSの新版はフロッピーディスクで配布されていた)などの際に困るので、一応、単純にSystem(+バージョンナンバー)と呼ばれていた。しかも、SystemにはROM化されたToolboxと呼ばれる主要ルーチン群やAPIが含まれており、ハードとOSは不可分なものだった。また、Toolboxをハード側に持たせたことには、互換機を作りにくくする狙いもあった。
この伝統は、1985年にジョブズが追放されてからも、しばらく維持され続けたが、ビジョンよりもマーケティングを重視したマイケル・スピンドラーがCEOになったことで変化が訪れる。Macのシェア低下に歯止めをかけるべく1994年に互換機政策が打ち出された影響で、ハードウェアとしてのMacintoshと、互換機メーカーもライセンス搭載するOSを区別する必要が生じたのだ。
実際にはそれ以前から、ユーザーはSystemを便宜上、Mac OSの愛称で呼ぶことが多々あったので、互換機の登場によってアップル自身も公式の場でそれを呼称として採用することにしたのは、自然の流れと言えよう。Macの互換機には、OSだけでなく、ROM内のToolboxもライセンスされ、未認可の互換機が勝手に開発されるような事態を防いでいた。
・マイクロソフトのマーケティングを見習う
1995年にリリースされたSystem 7.5.1からは起動画面にもMac OSの文字が表示されるようになったが、これはライバルのWindows 95の動きとも無関係ではない。ハード製品を持っていなかったマイクロソフトは、OS名を前面に押し出したマーケティング展開を行っており、OSの名称で目新しさを演出していた。結局のところ、アップルもそれに引きずられる形で、Mac OSという呼称をユーザーにアピールするようになったのである。
そして、ジョブズ復帰後の1997年にリリースされたMac OS 7.6で、正式なOS名としてもMac OSが採用されることとなった。これはジョブズ自身が決定に関わっているわけだが、アップルブランドを再構築していく上でも、OS名を現実に流布しているものに合致させたほうが良いとの判断があったものと考えられる。
ちなみにMac OS 8は、実質的にはMac OS 7.7に相当(開発者向けリリースでは、そのバージョンナンバーだった)していた。ところが、ジョブズが互換機メーカーとの契約を打ち切るために、あえてMac OS 8と名付けられた経緯があった。
実のところ、初代Macを開発した頃には、アップルはOSに名前は要らないと考えていた。なぜなら、そもそもユーザーにOSを意識させてはならないという開発思想があったためだ。これは至極真っ当な製品哲学であり、かつてジョブズが語ったように、"Just works."、つまり「色々なことを考えなくても単に機能すること」に開発の軸を置くならば、当然とも言える判断だった。
それでも、まったく呼称がないというのも、アップデート(当時のOSの新版はフロッピーディスクで配布されていた)などの際に困るので、一応、単純にSystem(+バージョンナンバー)と呼ばれていた。しかも、SystemにはROM化されたToolboxと呼ばれる主要ルーチン群やAPIが含まれており、ハードとOSは不可分なものだった。また、Toolboxをハード側に持たせたことには、互換機を作りにくくする狙いもあった。
この伝統は、1985年にジョブズが追放されてからも、しばらく維持され続けたが、ビジョンよりもマーケティングを重視したマイケル・スピンドラーがCEOになったことで変化が訪れる。Macのシェア低下に歯止めをかけるべく1994年に互換機政策が打ち出された影響で、ハードウェアとしてのMacintoshと、互換機メーカーもライセンス搭載するOSを区別する必要が生じたのだ。
実際にはそれ以前から、ユーザーはSystemを便宜上、Mac OSの愛称で呼ぶことが多々あったので、互換機の登場によってアップル自身も公式の場でそれを呼称として採用することにしたのは、自然の流れと言えよう。Macの互換機には、OSだけでなく、ROM内のToolboxもライセンスされ、未認可の互換機が勝手に開発されるような事態を防いでいた。
・マイクロソフトのマーケティングを見習う
1995年にリリースされたSystem 7.5.1からは起動画面にもMac OSの文字が表示されるようになったが、これはライバルのWindows 95の動きとも無関係ではない。ハード製品を持っていなかったマイクロソフトは、OS名を前面に押し出したマーケティング展開を行っており、OSの名称で目新しさを演出していた。結局のところ、アップルもそれに引きずられる形で、Mac OSという呼称をユーザーにアピールするようになったのである。
そして、ジョブズ復帰後の1997年にリリースされたMac OS 7.6で、正式なOS名としてもMac OSが採用されることとなった。これはジョブズ自身が決定に関わっているわけだが、アップルブランドを再構築していく上でも、OS名を現実に流布しているものに合致させたほうが良いとの判断があったものと考えられる。
ちなみにMac OS 8は、実質的にはMac OS 7.7に相当(開発者向けリリースでは、そのバージョンナンバーだった)していた。ところが、ジョブズが互換機メーカーとの契約を打ち切るために、あえてMac OS 8と名付けられた経緯があった。
契約上、アップルはMac OSのバージョンが7.xの間は互換機メーカーにOSを供給することになっており、それを合法的に回避するトリックが、Mac OSの見かけ上のメジャーバージョンアップだったのだ。
そして興味深いのは、互換機ビジネスを終結させてから発売したiMac以降の製品では、ROM内Toolboxの内容がほぼMac OS内へと移され、OSの独立性が高まった点だ。理由としては、ROM内Toolboxは書き換えられないため、OSのバージョンアップに伴って、旧機種向けにはToolboxの更新分もソフト的にパッチを当てて対処する必要があり、非効率だったことが挙げられよう。
こうして、マイクロソフト以上にOS名を巧みに操り始めたジョブズは、次なる秘策(?)を準備していた。
(後編に続く)
そして興味深いのは、互換機ビジネスを終結させてから発売したiMac以降の製品では、ROM内Toolboxの内容がほぼMac OS内へと移され、OSの独立性が高まった点だ。理由としては、ROM内Toolboxは書き換えられないため、OSのバージョンアップに伴って、旧機種向けにはToolboxの更新分もソフト的にパッチを当てて対処する必要があり、非効率だったことが挙げられよう。
こうして、マイクロソフト以上にOS名を巧みに操り始めたジョブズは、次なる秘策(?)を準備していた。
(後編に続く)
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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。