iPhone 7/7 Plusの「想像もつかない新機能」とは何だったのか(後編)

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iPhone 7/7 Plusの「想像もつかない新機能」とは何だったのか(後編)


2016年9月9日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)


▷不正確な翻訳が読者を惑わす

 

前編の最後に、「後編では、さらにティム・クックの真意を探っていく」と書いたが、そのためには、彼のいう「それなしには生きていけなくなり、想像もつかない新機能」に関する意図を正確に理解する必要がある。

いくつかのメディアで引用されているこの発言の元ネタは、CNBCの「Mad Money」という番組で、ホスト役のジム・クラマーとティム・クックの間で交わされた質疑応答だと考えられる。「未来への楽観主義」と名付けられたこの映像の3分10秒あたりのやりとりで、クックは次のように述べた。

"We’re gonna give you things that
   you can’t live without that you just don’t know that you need today,"

やけに接続詞の"that"が多い文章だが、訳すと「我々は、あなたが今は必要だと気づいておらず、しかも、それなしには生きていけないようなもの(複数)を提供する」となる。この直前のやりとりで、クックは「いずれすべての人がスマートフォンを所有することになる」「我々は、素晴らしいイノベーションを用意している」「今すでにiPhoneを使っているあなた(ジム・クラマー)や他の人たちが、アップグレードしたくなるような新しいiPhoneを届けるつもりだ」と話し、クラマーは(自分のiPhoneを見せながら)「これ以外に何が必要なんですか?他に必要なものなど思い浮かびません」と反論した。

これに対するクックの答えが前述の発言なのだが、見ての通り、機能(functions)に限定する表現ではなく、製品やサービスも包括しうる「もの」という言い方をしたことがわかる。つまり、この部分を「機能」とした元の記事が不正確だったため、内容が一人歩きしてしまった面があるようだ。クックが言いたかったのは、まさにアップルが過去に行ってきたことそのものであり、手にしてみて初めて、今までなかったことが不思議に思えるような環境を、製品(とその機能)やサービスを送り出すという同社の開発ポリシーだったと考えられる。


▷iPod登場時を思わせるAirPodsの役割

 

その意味から、個人的に今回の発表でデザイン面から最も興味を覚えたのはAirPodsであり、その意義についても触れておこう。同製品で特にアップルらしいと感じたのは、本体から突き出すように飛び出た円筒形の部分だ。ハンズフリー通話に使うために、ワイヤレスヘッドセットの多くは顎に沿うように突き出したディテールを持ち、そこにバッテリーやアンテナ、マイクを内蔵している。AirPodsの基本的な内部レイアウトも、それを踏襲するが、この部分の外装を円筒形にまとめたことで、有線接続のEarPodsのデザインとの類似性が確保され、製品ファミリーであることを強く意識させるものとなった。

イヤフォンの一部がケーブルなしの状態で耳から飛び出している様子には、始めこそ違和感を覚えるかもしれないが、すぐに見慣れてしまうことだろう。そしてアップルにとって、iPodのときの付属イヤフォンのホワイトカラーがそうであったように、この突き出した細い円筒部分が目印となってアップルユーザーの存在を周囲に強く印象付けられるメリットもある。またユーザー体験的にも、専用の充電ケースのフタを開けることで対応デバイスとコネクトされると同時に、iCloudを介して接続情報が共有され、他のデバイスで使う場合にもいちいちペアリングや接続作業を行わずに済む点も多いに便利だ。

スペシャルイベント前のコラムで書いたように、イヤフォン部分の革新は地味かもしれない。しかしフタを開けてみれば、本体以上に新しさを感じさせるものになった。iPhone 7は、離れた場所から判別しにくいとしても、AirPodsは一目でそれとわかる。そうしたわかりやすい新しさこそが、アップルにとって踊り場を脱して再び成長していくために求められている要素でもあるのだ。


▷総体としてのiPhone 7/7 Plusの魅力

 

ということで、クックの発言の真意は、iPhone 7/7 Plusの個々の新機能自体が「それなしには生きられないほどスゴい」ということではなかった。それらを総合した新型iPhoneという存在、及び、iPhoneとその純正アクセサリ機器が同社のクラウドベースサービスの総体が「生活に欠かせないものになっていく」という宣言なのだ。その流れで考えれば、Apple Payを支える技術よりも、そのサービスがもたらすユーザー体験を世界中で得られるよう環境を重視したFeliCa対応や、AirPodsのように、個々のデバイスではなくApple IDとiCloudに紐付けされる周辺機器の在り方が明らかにされた今回のスペシャルイベントは、iPhoneを含むアップル製品が日常生活に不可欠な存在となる理由を一層強固なものとした。従って、クックの言葉は至極妥当なものだったといってよいだろう。



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大谷和利氏近影

[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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