2つの”hello again”と「Touch Bar」に感じるMacの未来

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過ぎ行くアップルスペシャルイベントを見つめて。

2つの”hello again”と「Touch Bar」に感じるMacの未来


2016年11月1日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)


▷2回目のスペシャルイベントを終えて見えたもの

 

2016年秋、2回目のアップルスペシャルイベントが終わり、振り返ってみると今回のキャッチコピーである"hello again"には2つの意味が込められていたのではないかと感じている。イベントでは「MacBook 13inch」モデルの登場はなく、「MacBook Air」「Touch Bar無しのMacBook Pro」が併売されることによりノートMacの製品ラインアップはやや煩雑な様相を呈することとなった。今回は主にこれら2点についてイベントのフォローアップをしていきたい。

▷1つ目の”hello again” 「Apple TV」という発明

 

イベント冒頭で行われた「ユニバーサルアクセスへの取り組み」の紹介は、いかにもティム・クック率いる“現在のアップル”らしい企業メッセージといえた。意外だったのは、後に続く製品発表が「Apple TV(厳密には純正TVアプリ)」から始まった点である。 事前の噂の中にも「Apple TV」関連の発表の可能性に言及したものはあったが、それらはハード自体のアップデートであったり、メディアチャンネルの追加に関するものだった。

ところが蓋を開けてみれば、スポットが当てられたのはアップル純正のTVアプリによる”Unified TV Experience(統合的なテレビ体験)”。これを一般消費者に対するホリディシーズンの目玉として据える動きに出るというものであった。確かに「Siri」ともう1つのアプリであらゆるテレビ番組にアクセスができれば、「Apple TV」自体が当初目指していた“テレビの再発明”という目標を達成できる。その意味では【新しいテレビの姿に出会う】ことが1つめの"hello again"に相当するといえた。

残念ながらTVアプリの提供は例によって初期段階ではアメリカのみ。日本を含む他の地域への展開については触れられさえしなかった。 また一箇所ですべてのテレビにアクセスできると謳いながら、「ネットフリックス」と「アマゾン・ビデオ」が含まれないことにも注意が必要だ。「ネットフリックス」は専用アプリを使って視聴できるものの、アマゾンのApple TV用アプリに至っては(開発は既に終わっているはずだが)未だに提供される見込みが立っていない。12月のリリースまでに進展する可能性も残ってはいるが、アップルが“真の統合的なテレビ体験”を実現するつもりならば、このあたりの問題も解決していかねばならないだろう。

▷2つ目の”hello again”「Touch Bar」という進化

 

そしてもう1つの"hello again"はもちろん、噂段階では「Magic Toolbar」と呼ばれていた「Touch Bar」搭載の新型MacBook Proである。ワールドワイドマーケティング担当上級副社長であるフィル・シラーが、長年のファンクションキー進化の停滞に触れたことを踏まえても、「Touch Bar」は"hello again"の主役であった。だがクックはあえてノートMac誕生25周年という事実に言及し、今こそ革新が行われるべきタイミングであることを強調した。


つまり1991年の「初代PowerBook」がデスクトップの「初代Macintosh」に相当すると捉え、今回の「Touch Bar付きMacBook Pro」は"hello again"に値するというわけだ。カラフルな「初代iMac」のことを忘れたわけではないだろうが、クックにとっては「これこそが真のクック体制下」、つまりジョブズ最後の【5カ年計画ロードマップ】にはなかった新製品としての思い入れもあったのかもしれない。

「Touch Bar」は確かにバーチャルファンクションキーの枠を超えた、“新たなユーザーインターフェースの可能性”を感じさせるものだ。見方によっては「ニンテンドーDS」のデュアルスクリーンをノートPCに落とし込んだものとも言えるが、これはいわばWindowsの「マルチタッチスクリーン戦略」に対するアップルの回答なのだ。過去にも何度か触れているが、マルチタッチスクリーンは手に直接持って使うデバイスにこそ向いてはいるが、垂直に近いコンピュータのメイン画面としては適していない。従ってアップルはmacOSをマルチタッチ対応としながらも、自らはタッチスクリーンを持つMacを発売することはせず、トラックパッドを進化させる道を選んだ。それならば手元の指先の小さな動きのみで大画面に対する操作も完結できるからだ。

「Touch Bar」もトラックパッドやキートップと同じく、平面上で腕を疲れさせることなく様々な操作が可能だ。特に「Touch Bar」とトラックパッドを同時に両手で操りながら動画編集やフォトレタッチをこなしていく様子は、“DJ”ならぬ“IJ(インフォメーション・ジョッキー)”的な鮮やかさすら感じられた。



▷もどかしさの残るスペシャルイベント、Macの未来は...

 

結局のところ今回のイベントで「MacBook 13inch」モデルは登場せず、「MacBook Air 11inch」モデルがディスコンとなる一方で、「(Touch Barの無い」MacBook Pro 13inch」モデルも併売されることになった。その結果、ノートMacの基本ラインアップは「MacBook(12)」「MacBook Air(13)」「MacBook Pro(13)」「Touch Bar付きMacBook Pro(13/15)」の5種類と、モデル数では変化がないものの、ブランドメッセージという点では後退したように感じた。

 

確かに日本では一般的にハイエンドモデルの売れ行きが良いのに対し、アメリカでは自分の用途と予算を考えて中間的なモデルを積極的に選ぶ消費者が少なからず存在する。だがもし本当に“Touch BarこそがノートMacの未来である”とアップルが信じるなら(あるいは市場にそう信じさせたいのなら)、「Touch Barなし」のMacBook Proは出すべきではなかった。ジョブズならそうしただろうし、そういう姿勢がアップルのブランドを支えてきたのだ。ジョブズなら「Touch Bar」に"hello again"の文字を表示させる演出をプレゼンのハイライトとし、会場を沸かせたに違いない。 今さら「ジョブズなら」と書きたくはないが、今回のスペシャルイベントをもう少し捻りの効いたものにできたのではないかと思うと、その点だけが残念なのである。



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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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