にわかに盛り上がる「マンホールカード」 その人気を支えるデザインに隠された秘密 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

にわかに盛り上がる「マンホールカード」 その人気を支えるデザインに隠された秘密

2018.9.23 SUN

にわかに盛り上がる「マンホールカード」、その人気を支えるデザインに隠された秘密

誰でも簡単に物が手に入る時代に、現地を訪れることでしか手に入らないものの価値が見直されている。それは、いわゆる、日本各地の”ご当地もの”。なかでも近頃注目されているのは、なんと下水道の「マンホールのふた」だ。それも、コレクションカードとして全国各地で配布され、コレクターがいるというーー。その謎に迫るため「マンホールカード」の開発者、下水道広報プラットホーム(GKP)の山田さんに話を聞いた。人気の背景には、カードに仕掛けられたいくつもの秘密が隠されていた。
(取材・文:阿部愛美)
4月中旬の土曜日。JR川崎駅に新しく開設された北改札を抜けて、私はある場所に向かう。その理由は、数日前に受けた編集部からの電話だった。
「最近、『マンホールカード』というものが流行っているらしい。面白そうなので開発者に話を聞きに行ってみない?」というものだ。

流行の対象が「マンホール」というだけでもちょっと意味が分からないが、それがカードになってコレクションされる謎の現象が起きているという……、本当か?

編集部から教えてもらったWebサイトをさっそく確認してみると、確かにあった。「『マンホールカード』は配布先に足を運ぶことで無料でGETできます!」と書いてある。

マンホールカードとは、下水道のマンホールのふたが印刷されたカードのようだ。それも、全国各地でそれぞれ異なるカードが配布されている。

無料ならば、と自分の用事を済ませるついでにもらってみようかと思い、配布場所に立ち寄ることにしたのだった。
実際にもらいに行ってみた ーマンホールカードの入手方法ー
改札を出てすぐの場所に、カード配布場所の「川崎市観光案内所」がある。少しためらいながら、受付のお姉さんに話しかけてみた。

「あ、あの〜……。“マンホールカード”ってありますか……?」

「……は?」とか言われたらどうしよう、という私の不安とは裏腹に、女性は慣れた仕草で専用カウンターに案内してくれた。

差し出された用紙に、自分の名前や住んでいる都道府県を記入して簡単なアンケートに答える。書き終えると、笑顔で「どうぞ」とカードを手渡してくれた。

おお、これがマンホールカードか……!

表にはマンホールのふたの写真と位置座標、裏にはデザインの由来が印刷されている。紙はしっかりと厚く印刷もきれいで、デザインはシンプルながら作り込まれていた。正直、想像していたよりもずっと立派だ。
[ 第5弾/東京都 23区 ] 葛飾区に本社を構える株式会社セキグチが生んだ「モンチッチ」が デザインされている

[ 第5弾/東京都 23区 ]
葛飾区に本社を構える株式会社セキグチが生んだ「モンチッチ」が
デザインされている

次の日には京成柴又駅に行き、さらにもう1枚ゲット。こちらは「モンチッチ」が描かれている。「こんなの、あるの!?」と疑いたくなるような、マンホールのふたのかわいさに驚くばかりだ。2枚を見比べてみると、書かれた数字やアイコンの違いや共通点が気になってくる……。

う〜ん、やはりこれは取材に行ってみるしかなさそうだ。
ずらりと並ぶカード。たったの2年間で342種類ものカードを発行!
というわけで、後日、マンホールカードを作っている「下水道広報プラットホーム(GKP)」を訪れた。取材のために準備された机の上には、発行されたすべてのカードがずらりと並べられている。おお、圧巻……!

「マンホールカードは2016年4月よりスタートしました。4月に導入されたばかりの第7弾では新しく49種が導入され、シリーズ累計で342種のカードが発行されています」

マンホールカード発案者の山田秀人(やまだ・ひでと)さんは、「2年でここまで増えるとは想像していなかった」と嬉しそうに笑う。

「生活に必要不可欠なインフラでありながら、下水道システムには汚い・臭い・不衛生などネガティブなイメージをもたれがち。この状況を打破すべく、下水道を維持する各都市や団体、下水道関係企業により組織されたのがGKPです。マンホールカードは、下水道の真の価値を伝える活動の一環として誕生しました」
マンホールのふたは、隠れた“ご当地もの”!
47都道府県すべてで発行されているというカードを見ると、これまで抱いていたマンホールのイメージを大きく覆すようなカラフルで楽しいものばかりだ。

「下水道のマンホールのふたは、基本的に“ご当地もの”なんです。各地方自治体がオリジナルで製作しています。その種類は、安全上の配慮から<色なし>が一般的ですが、モンチッチのように華やかな見た目の<色つき>もあります。加えて、入れ替え可能な<プレート>、そして<シール>の4種類に大きく分けることができます」
上から北海道、東北、関東……と、エリアごとに色分けされている

上から北海道、東北、関東……と、エリアごとに色分けされている

マンホールのデザインは、日本全国に30社ほどあるマンホールメーカーよってコンペで決定される。安全第一でデザインされるが、各社それぞれ得意とする製造技術が異なるため、自ずと個性がでてくるというわけだ。
| デザインカテゴリ別の「マンホールカード」|
● キャラクターもの(左の2枚)と、動物もの(右の2枚)
[ 第6弾/東京都 多摩市(B0001) ]

[ 第6弾/東京都 多摩市(B0001) ]

[ 第6弾/滋賀県 彦根市 ]

[ 第6弾/滋賀県 彦根市 ]

[ 第1弾/岡山県 岡山市 ]

[ 第1弾/岡山県 岡山市 ]

[ 第4弾/福井県 勝山市 ]

[ 第4弾/福井県 勝山市 ]

● (木や魚、川や海など)自然もの
[ 第1弾/北海道 札幌市 ]

[ 第1弾/北海道 札幌市 ]

[ 第3弾/愛媛県 八幡浜市 ]

[ 第3弾/愛媛県 八幡浜市 ]

| マンホールタイプ式別の「マンホールカード」|

● プレートタイプと色なしタイプ
(プレートタイプは一回り小さなプレートがはめ込まれたもの。入れ替え可能なため期間限定などが多い)
[ 第5弾/神奈川県 川崎市 ]

[ 第5弾/神奈川県 川崎市 ]

[ 第1弾/岡山県 倉敷市(A001)]

[ 第1弾/岡山県 倉敷市(A001)]

[ 第1弾/東京都 23区 ]

[ 第1弾/東京都 23区 ]

[ 第3弾/三重県 松阪市 ]

[ 第3弾/三重県 松阪市 ]

シンプルで明快なコンセプトは「集めて楽しい」こと
[ 第5弾/大阪府 泉南市 ]

[ 第5弾/大阪府 泉南市 ]

描かれるモチーフは、一般的にその土地の花や木、鳥が多いが、風景、歴史もの、ゆかりのあるキャラクターなど個性豊かな顔ぶれは見ていて楽しい。

左下に書かれている位置座標は、緯度、経度の度・分・秒で表されている。そのため、「Google マップ」に打ち込むと、その場所を示してくれる仕組みだ。
※試しに位置座標を入力してみよう。設置されているご当地マンホールの場所を知ることができる

なるほど、コレクターがいるというのも確かに頷ける。見ているだけで楽しい。しかし、ほかの多くのカードと異なるのは、対戦などのゲーム性を備えていない点だ。

「マンホールのふたは公共物なので、優劣をつけたり勝敗を決めるのはふさわしくないと考えています。ですので、マンホールカードのコンセプトは極めて明快です。“集めて楽しい”ことです。そのために、全種類コンプリートだけでなく、色分けされた9つの地域、都道府県、テーマを分類したピクトグラムなど、自分だけの好きなカテゴリーで集められるよう、細かく設計されています」と山田さん。
○カードの表面/右上部分

○カードの表面/右上部分

左の写真を見て欲しい。集める楽しさを実現しているのは、カードの各所にふられた”連番”のナンバリングだ。

続いて、カードの表面を見てみよう。右上には数字が見える。これは左から、<都道府県コード>、<市区町村コード>、<デザインの種類・数量>にあたる番号となっている。カードを1枚見ただけでは理解できないが、例えば<都道府県コード>であれば、01の北海道から47の沖縄までナンバリングされている。<デザインの種類・数量>は、同一自治体が発行するカードをA、B、C……の順で割り振っている。数量は、同一デザインのマンホールで位置座標が異なる場合に使用する。
○カード表面/位置座標右部分に描かれたアイコン 左から、花の76、キャラクターの29、海の30となる

○カード表面/位置座標右部分に描かれたアイコン
 左から、花の76、キャラクターの29、海の30となる


○カード表面/右下部分 全体の206番目、関西ブロックの31番目、大阪府の16番目、泉南町の1番目を意味する

○カード表面/右下部分
 全体の206番目、関西ブロックの31番目、大阪府の16番目、
 泉南町の1番目を意味する

さらにマンホールの右下の数字も確認しよう。これは「コレクションナンバー」だ。左から、<全カード連番>、<ブロック(地域)連番>、<都道府県連番>、<市区町村連番>である。

ただ眺めるだけでも楽しいけれど、深く楽しみたい人も追求できる。その間口の広さが、マニアから素人まで楽しめる秘密なのだ。

「ほかにも、カードの統一感にはとても気を遣いました。マンホールの周りに映り込む地面は、すべてアスファルトの地面を合成しています。その土地ならではの景色が映り込むのも魅力的だったのですが……、結果的にはマンホールのふたが際立ったのでよかったと思っています。ほかにも、全国共通のフォーマットと印刷の品質、サイズ、材質、色彩が全体で揃うように、すでに発行されたカードと比較しながら作っています」

コレクションカードとしてのクオリティを徹底して追求することで、マンホールというニッチなアイテムでありながら、一般の人たちが興味を持つ環境づくりが整えられている。
地方自治体との連携で生まれた、意外な相互作用
カードの読み解き方について説明する山田さん

カードの読み解き方について説明する山田さん

カードは、GKPと全国の各地方自治体で作り上げています。それぞれの自治体が撮影したマンホールのふたの写真を素材とし、GKPでデザインをする形です。それを1ロット2000枚で購入して頂いています」

マンホールカードの配布は下水道関係施設を中心に行なわれる。役所や下水道処理場、下水道の展示施設、観光案内所などだ。カード1種類につき1カ所のみの配布。そのうえ、手渡しでの配布となれば、地方自治体の負担も大きいはずだが……。

「マンホールカードを取りに来る人の6割は、県外から訪れていることがアンケートにより分かっています。マンホールを通して下水道に理解を深めてもらいたい想いで作ったカードですが、各自治体にとっては観光のきっかけづくりになっているんです。企画当初は想像していなかった嬉しい効果でした」
倉敷市役所の下水道広報チームが自主的につくっている「ご当地マンホールガイド」。マンホールカードと一緒に配布されている

倉敷市役所の下水道広報チームが自主的につくっている「ご当地マンホールガイド」。マンホールカードと一緒に配布されている

カード人気を加速させた、コレクター魂をくすぐるレアカード
にわかに人気をみせるマンホールカードだが、一時のブームで終わらせることなく「定番化」させたい、という想いが山田さんにはあった。期間や数量を意図的に限定したレアものを作らないのもそれが理由だ。

一方で、「意図せずレアになってしまったカードは存在します」と山田さん。
そうそう、そうこなくっちゃ!

「レアカードは、大きく分けて2種類存在します。一つめは、配布条件が厳しいもの。この2枚がそうですね」

そう言って見せてくれたのは、東京に住んでいる人間なら誰もが馴染みのある東京23区マンホールカードと、広島東洋カープのマスコットキャラクター・カープ坊やが描かれた広島市のマンホールカードだ。

「これは、予約をして下水道関係施設を見学した人だけがもらえるものです。曜日や時間もかなり限定されています。どちらも人気のデザインですが、コレクションをする上では手に入れにくい鬼門のカードですね」

観光ついで気軽にもらえるものもあれば、スケジュールをやりくりしないともらえないものもある。なかなか厳しいようだ……!!

では、二つ目はどんな場合だろうか。

「文字内容やレイアウトを変更した場合も、レアカードと呼ばれることがあります。例えばこの水戸市のファーストロットは、位置座標が間違っていたものですね。これは数100枚配ってから間違いに気がつき、回収しました」

改変が加えられたものは、 裏面に数字として形跡が残る。
これらはいわゆる不良品と呼べるものだが、コレクターにとっては垂涎もの。コレクター魂を揺さぶるのだ。
○カード裏面・左下部分
左から<製造年月日>、<修正回数>、<製造ロットナンバー>。
この場合は2017年12月に発行され、修正0回、1ロット目となる
[ 第1弾/茨城県 水戸市 ] 1ロット目のカード。 右と比べてみると座標が間違っていることがわかる

[ 第1弾/茨城県 水戸市 ] 1ロット目のカード。
右と比べてみると座標が間違っていることがわかる

こちらが2ロット目のカード。裏面を見れば、 一度デザインの修正があったカードだとわかる

こちらが2ロット目のカード。裏面を見れば、
一度デザインの修正があったカードだとわかる

[ プロトタイプ/神奈川県 横浜市 ] プロモーション用に作られた

[ プロトタイプ/神奈川県 横浜市 ]
プロモーション用に作られた

[ 第2弾/茨城県 つくば市 ] 唯一例外的に英語版が存在する。今後のインバウンド効果を意識しているそうだ

[ 第2弾/茨城県 つくば市 ]
唯一例外的に英語版が存在する。今後のインバウンド効果を意識しているそうだ

決して揺るがない "鉄" の掟
[第6弾]大阪府 泉佐野市 カードのデザインに制限がある分、右下QRコードの リンク先は各自治体に委ねているという

[第6弾]大阪府 泉佐野市
カードのデザインに制限がある分、右下QRコードの
リンク先は各自治体に委ねているという

「集める楽しさ」のコンセプトに沿ったピクトグラムや連番の設計、配布場所の限定について話を伺ってきたが、マンホールカードの人気を支える根幹には、もう一つの柱があるという。

「各自治体と一緒にカードを作っていく上で、デザイン上絶対に譲らない一つのルールがあります。それは“マンホールカードはマンホールのカードでなければいけない”ということ。カードの裏面はこのデザインの由来が書かれていますが、マンホールのデザインにまつわることしか入れないようにしています。各自治体は、観光のツールとして配布してくれているので街の情報を入れたい。けれど、そうなってしまうと何のカードなのかあやふやになってしまうので、心を鬼にして断固たる態度をとっています」

集める楽しさに徹したコンセプトと、マンホールのふたに特化したカードのデザイン。人気の秘密はここに隠れていたのだ。
マンホーラーの集い:マンホールサミットが熱い!?
山田さんの熱い想いとカードにかける愛について伺っていると、取材を終える頃にはすっかり私もマンホールのふたに興味津々。

「ぜひマンホールサミットにも足を運んでみてください。マンホーラーによるトークショーが行なわれますよ」

サ、サミット……!? マ、マンホーラー!?

せっかく寄り添ったニッチなマンホールワールドから、また突き放された想いでドキドキしていると、山田さんはこう説明してくれた。

「グッズを通してマンホールの楽しさを伝えるのがカードならば、イベントを通して楽しさを伝えるのがサミットです。今では年に1〜2回開催されており、これまでに7回開催されました。去年は埼玉の川越と岡山の倉敷で行なわれ、次回は11月3日に北九州・北九州市芸術劇場での開催が決定しました」

マンホールサミットは、トークショーをメインイベントとし、グッズの販売会と、実物マンホールを展示する展示会がセットになっているという。昨年は3000〜3500人規模で行なわれたというから驚いた。
各地にある本物のマンホールを展示

各地にある本物のマンホールを展示

コレクション欲を刺激するマンホールグッズ

コレクション欲を刺激するマンホールグッズ

 ”私はマンホーラー。日本のマンホールは世界に誇れる文化物です”

関係者自ら下水道を「汚い・臭い・不衛生」のイメージがあるとしながらも、スローガンを掲げて下水道システムの価値を高めようという試みには、誇りが感じられた。

マンホールカードは、都市と地方、そして地方を結ぶ新しい架け橋になるかもしれない。ヒントは意外にも、足下に落ちていたのだ。
●マンホールサミット北九州2018
北九州市下水道100周年を記念して下水道広報プラットホーム(GKP)と北九州市上下水道局が共同で実施

日時/2018年11月3日(土・祝)
会場/北九州市芸術劇場 中劇場、小倉城周辺
住所/福岡県北九州市小倉北区室町1丁目1−1 リバーウォーク北九州
入場料/無料
時間/9:00~17:00
主催/北九州市上下水道局、下水道広報プラットホーム(GKP)
※イベントの内容や事前登録などについては、GKPホームページで随時お知らせあり


★取材協力★

●下水道広報プラットホーム(GKP)
住所/東京都千代田区内神田2-10-12
(公益社団法人日本下水道協会内)
TEL/03-6206-0205
URL:http://www.gk-p.jp/

<書籍情報>
「マンホールカード コレクション 1 第1弾~第4弾」
GKPマエプロ著、スモール出版
価格1944円

2018/05/24