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急成長が続くインド。日本が注目すべき『脱皮するインド』の今と未来

2019.10.16 WED

【インドのデザイン・ビジネス・テクノロジー特集】

急成長が続くインド。日本が注目すべき『脱皮するインド』の今と未来

日本人の多くがインドに対して抱くイメージ。それは今も、仏教、ヨガ、カレー、ターバンといったところだろうか? そのような誤解は本文中で解くとして、現在の日本には「インドの今」に関する情報があまりにも少ない。そして、実際に現地(の観光スポット以外の場所)を訪れてみないことには、その実態がなかなか見えてこないのが実情だ。この特集記事では、独自に取材したインドの最新事情の一端を紹介し、日本にとって未知の国であり続けているインドに対する認識を新たにしていただきたいと思う。

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

▷注目の理由と払拭すべき先入観

多くの日本企業が、中国の巨大市場に魅力を感じ、また振り回されてもいる今、筆者は、インドにこそもっとリソースを割き、将来を見据えた進出や投資を行うべきと考えている。その理由としては、以前紹介した記事「迫りくる“インドの時代”を垣間見た、PwCのインドセミナー」でも触れたように、もはや世界のIT業界がインド人リーダーたちの指導力なしには成り立たなくなっている事実や、2020年代の後半には同国の中間層の購買力がEUや米・中を抜いて世界のトップに躍り出ることが挙げられる。それに加えて、これからますます混沌さを増し、先が読めなくなる世界において、何事にも臨機応変に対処するインド人のような気質が必須となってくることも大きなポイントだ。

一方で、成長期に入ったアジアの国は、かつて日本が経験したような水質・大気・土壌汚染やゴミの不法投棄が社会問題化しており、インドも例外ではない。すでに日本企業は、様々な改善技術を通じてベトナムなどの環境問題解決に寄与しているが、こうした動きをインドにまで拡大し、同国の発展に寄与すべきと考える。

先のインドに対する誤解については、現在のインドでは仏教はキリスト教よりも信者が少ない4番目の宗教であり、若者にとってのヨガは修行や苦行ではなく他国と同様にリラクセーションの一環であったりする。また、ターバンを巻くのは全人口の2%にも満たないシーク教徒のみで、カレーという料理は存在せず、日本人の目にはひとまとめにカレーとして映るものにはすべて固有の名称がある。つまり、そのような先入観に囚われていては、真のインドの姿は見えてこないのだ。

もちろん、今も貧富の差は存在し、場所によっては電気が通じていなかったり、計画停電ならぬ計画通電しているようなところさえある。しかし、たとえばPCの時代を経ずに一気にスマートフォンが普及したように、レガシーなインフラが存在しない分、条件さえ整えば、一気に最新の環境に移行できるのも同国の特徴といえる。
▷空港で無料のSIMカードがもらえる国

その典型が、モバイルファーストの考え方であり、どのようなサービスもスマートフォンアプリを介して瞬時に数億人の消費者に直結できることを念頭に作られている。それは政府が旅行者に対して与える便宜にも反映されており、インドは今も渡航にビザが必要な国ではあるが、わざわざ領事館などに出向かなくても、ネットを通じてe-Visaを取得でき、入国時にパスポートに正式なスタンプをもらえる仕組みが整えられた。

しかも、e-Visaの取得者には、現地の主要空港で無料の、しかも一定の通話と通信料がチャージされたSIMカードがもらえるという「特典」が与えられた。この施策は、空港のフリーWi-Fiのような、セキュリティ上の懸念があり、特定の場所でしか使えないサービスを旅行者向けに公開するよりも、はるかに意味がある。しかも、再チャージの際には自国の通信業者にお金が落ち、産業振興にもつながるわけだ。
インドでは、三輪タクシーや屋台でもPaytmのQRコード決済が 利用できるケースが急速に増えてきている。客が、現金よりも Paytmを好む傾向が強まっているためだ

インドでは、三輪タクシーや屋台でもPaytmのQRコード決済が
利用できるケースが急速に増えてきている。客が、現金よりも
Paytmを好む傾向が強まっているためだ

さらに、日本で話題を呼んだQRコード決済サービスのPayPayの元になった技術で、ソフトバンクも投資しているインドのPaytmは、簡便な交通手段である三輪タクシーや屋台でも急速に普及が進んでおり、現金しか使えない店は客から敬遠されるようになりつつある。

また、移動手段としてのUberや、そのインド版ともいえるOra Cabsもありふれた存在で、訪問先の企業などから移動する際に日本ならば「タクシーを呼びましょうか?」というところを、「Uberを手配しましょうか?」、「いや、もう自分で頼みました」といった会話が普通に行われたりする。

宿泊施設も、インドには無数の安宿があって設備や清潔度も様々だが、それらを束ねて、一定水準の環境を整えさせ、それぞれ独立経営ながら統一ブランドとしてオンライン予約の受付や、宿までのナビゲーションを提供するOYO Roomsというサービスが台頭している。同サービスは、すでにインド国内では350都市に10万室以上、中国でも171都市に8万7千室以上のネットワークを持ち、マレーシア、ネパール、イギリスでもビジネス展開を開始した。

OYO Roomsの特徴は、全従業員8500名のうち700名以上をIT系のエンジニア(データサイエンティストやAI技術者)が占め、空室料金を絶えず変化させて稼働率を最大化したり、ホテル経営を1台のスマートフォンで行える専用アプリを開発し活用している点にある。さらに、日本ではヤフーとの合弁によってOYO LIFEと呼ばれる賃貸住宅事業をスタートさせ、敷金・礼金なしで、物件探しから入居・退去までをスマートフォンアプリでサポートするなど、これまでの業界の常識を覆す戦略で注目を集めている。

社会インフラ的には未整備なところも大いにある一方で、こうしたデジタルフロンティア的な部分では非常に進んでいるのが、現在のインドとインド企業なのだ。しかも、Paytm、Ora Cabs、OYO Roomsの3社に共通するのは、すべて日本のソフトバンクが投資しているという点で、そこに同社の先見の明が感じられる。
Paytmのアプリは、単なる決済や送金だけに留まらず、Eコマース機能と統合されている。このことが、消費者をアマゾンなどの外資系サービスに奪われないための強力な武器として機能する

Paytmのアプリは、単なる決済や送金だけに留まらず、Eコマース機能と統合されている。このことが、消費者をアマゾンなどの外資系サービスに奪われないための強力な武器として機能する

個人経営から中規模クラスの独立系ホテルを束ねるOYO Roomsのアプリは、優れたユーザーインターフェースとユーザー体験を備え、事業を中国、マレーシア、ネパール、イギリス、そして日本にも拡大した

個人経営から中規模クラスの独立系ホテルを束ねるOYO Roomsのアプリは、優れたユーザーインターフェースとユーザー体験を備え、事業を中国、マレーシア、ネパール、イギリス、そして日本にも拡大した

▷社会改革を目指すスタートアップの爆発的増加

インドは今、若き起業家たちが次々と新しい事業を興す、スタートアップラッシュの真っ只中にある。ともすれば、そうした新興企業は1つのアイデアだけを頼りに明確なビジネスプランもないままビジネスを始めてしまい、そのまま立ち行かなくなるケースも少なくない。そこで、そうしたスタートアップを支援し、成功に導く触媒の役目を果たすインキュベーターやアクセラレータの存在が重要になってくる。
ハイデラバードのIIT(インド工科大学)構内にあるスタート アップ支援施設、T-HUBの建物は「カタリスト(触媒)ビル ディング」と呼ばれ、年内に現在の5倍の規模に拡大を 予定している

ハイデラバードのIIT(インド工科大学)構内にあるスタート
アップ支援施設、T-HUBの建物は「カタリスト(触媒)ビル
ディング」と呼ばれ、年内に現在の5倍の規模に拡大を
予定している

世界屈指のIT企業がこぞって研究所を設けているバンガロールに続く、インド第2のITキャピタル(首都)といえるハイデラバードに位置するT-HUBも、そうした施設の1つで、産学官の連携事業である。具体的には、IT業界のリーダー的立場にある複数の企業と3つのトップクラスの教育機関(ハイデラバード・インド工科大学、インド商科大学院、ナルザー法科大学)、そして同地を管轄するテランガーナ州政府が関係しており、2017年3月の開設以来、1443ものスタートアップや起業家の支援を行ってきた。

金属の構造体とレンガを組み合わせたT-HUBの建物内に入ると、フロアごとに趣向を凝らしたモダンで機能的なスペースが広がり、フェイスブックのインド・イノベーションハブをはじめ、世界有数の企業がサテライトオフィスやワークショップスペースもこの施設内に設けられている。

しかし、筆者が憂慮するのは、そこに、サムソンやシスコ、HSBC(世界最大級の香港系メガバンク)が含まれていても、日本企業のプレゼンスがまったくなかったことだ。また、施設を案内していただいたダリア・ルジーナさんは「インドで起こっていることが面白そうだから」とロシアから1人でやってきた女性であり、T-HUBのプログラム・マネージャとして活躍しているが、そのような意識を持って渡印を考える若者が日本からも現れることに期待したい。

T-HUBで成功したスタートアップの中でユニークな事例としては、様々なIoTセンサーを利用して長距離トラックの管理を行うフリート・コネクト、子どもたちがお金の概念や運用を遊び感覚で学べるアプリの開発を手がけるペンシルトン、電子的な廃棄物処理のマッチングサービスを提供するEWx(Eウェイスト・エクスチェンジ)などがある。

フリート・コネクトの技術は、すでにインド国内で複数の長距離輸送業者に採用されているのに加えて、アメリカからも輸送中のドライバーの安全を守る観点から引き合いがあるという。日本では、運行時間中の走行速度などの変化をグラフ化するタコグラフ(運行記録計)による管理が一般的だが、フリート・コネクトの技術は、単に速度や加速度に留まらず、カーブ走行時の横Gや燃費、ドライバーの生体情報、荷室とキャビンの温度変化までを把握して、安全性の向上や荷物の品質管理に役立てられる。「運送の質」に気を使う、日本の運輸会社に採用されても良いサービスだといえよう。

ペンシルトンのアプリはインドの小学校などへの多数の導入実績を持ち、現実の金融機関との協業によって、アプリで得られた知識や経験をそのまま実社会でも活かすための拡張が行われつつある。

EWxのサービスは、様々な国で問題化しつつあるEウェイスト(=電子機器関連の廃棄物)の処理を効率よく行えるようにするためのビジネスマッチングサービスであり、テランガーナ州政府ともパートナーシップを結んで、環境問題に取り組んでいる。
T-HUBの入り口には、「食べて、寝て、働く。以上を繰り返せ」というスローガンが掲げられている。赤い電話ボックスは、スマートフォン通話用の個室だ

T-HUBの入り口には、「食べて、寝て、働く。以上を繰り返せ」というスローガンが掲げられている。赤い電話ボックスは、スマートフォン通話用の個室だ

欧米のスタートアップ支援施設にも引けを取らないT-HUBのワークスペース。設備やデザインの面でも、高水準にある

欧米のスタートアップ支援施設にも引けを取らないT-HUBのワークスペース。設備やデザインの面でも、高水準にある

ちょっとしたミーティングや、思索のためのスペースも各所に設けられている。このスペースの壁には、「想像し、信念を持ち、成し遂げろ」と書かれていた

ちょっとしたミーティングや、思索のためのスペースも各所に設けられている。このスペースの壁には、「想像し、信念を持ち、成し遂げろ」と書かれていた

筆者が憂いるのは、こうした施設に対して投資やワークショップを提供しているのが、欧米中韓の企業ばかりで、日本企業のプレゼンスがゼロに等しいという点である

筆者が憂いるのは、こうした施設に対して投資やワークショップを提供しているのが、欧米中韓の企業ばかりで、日本企業のプレゼンスがゼロに等しいという点である

T-HUBのプログラム・マネージャとスタートアップの代表者たち。左から、ロシアから単身渡印してきたダリア・ルジーナさんさん、フリート・コネクト共同設立者のタンマイ・ディークシスさん、ペンシルトン創業者のビシュワジット・プレティさん、そして、EWx CEOのシャリーニ・シャルマさん

T-HUBのプログラム・マネージャとスタートアップの代表者たち。左から、ロシアから単身渡印してきたダリア・ルジーナさんさん、フリート・コネクト共同設立者のタンマイ・ディークシスさん、ペンシルトン創業者のビシュワジット・プレティさん、そして、EWx CEOのシャリーニ・シャルマさん

▷幅広い社会貢献を考えるインドの大企業

T-HUBの事例からもわかるように、インドのスタートアップはソーシャルインパクトを持つ事業を重視する傾向にあり、ビジネスを社会改革に結びつけようとする意識が強い。一方で、大企業も、これからの時代を生き抜く上で、そうしたスタートアップが持つ斬新な発想や小回りのきく開発体制の必要性を認識し、そこに自らの資金力やビジネスノウハウを組み合わせて生まれる相乗効果に期待している。
インドの巨大企業グループ、タタで3番目の規模を誇る宝飾品・時計メーカー のタイタンの新社屋は自然との調和をテーマに、低層の建物自体が公園のような 構成になっている

インドの巨大企業グループ、タタで3番目の規模を誇る宝飾品・時計メーカー
のタイタンの新社屋は自然との調和をテーマに、低層の建物自体が公園のような
構成になっている

インドの3大財閥の一角を占める、タタ・グループもその1つで、社員に対して社会貢献につながる活動を奨励すると共に、鉄鋼(タタ・スチール)、自動車(タタ・モーターズ)に次ぐグループ3位の規模を持つ宝飾品・時計メーカーの「Titan(タイタン)」には、コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティという独立した部門がある。

ちなみに、インドでは女性の地位が低いと思われるかもしれないが、実際には企業における男女格差がアジアでも少ない国の1つだ。事実、2013年のデータだが、大卒以上の管理職数において、20~30代の男性を100としたときに、日本の女性は31~37に留まっていたのに対し、インドは85.6~86.6と高い割合を示していた(リクルートワークス研究所調べ)。

Titanの社会責任事業の一環として行われているデザイン・インパクト・プログラムを指揮するリティカ・ガンディーさんも女性であり、「THE DESIGN:IMPACT AWARDS(デザイン・インパクト・アワード)」という社会的インパクトを持つデザイン提案を表彰する賞を通じてスタートアップを支援している。
Titanのデザイン・インパクト・プログラムを指揮している リティカ・ガンディーさん

Titanのデザイン・インパクト・プログラムを指揮している
リティカ・ガンディーさん

2017-2018年の活動では、全インドからの993件もの応募の中から、尿路感染症の診断を素早く安価に行うためのツールや、どのような体型にも合わせられるアジャスタブルなホイールチェアとその電動3輪バイク化キットなど8製品が受賞し、それぞれが650万ルピー(約1千万円)の資金援助を受けた。

実は、今、欧米では不況の影響でデザイナーが余っており、仕事を求めて中国やインドに来るケースが増えている。インドの場合には、特にヨーロッパからの流入が目立つようだ。そうした動きも含めて、インドではITと並んでデザインによる社会改革の機運が高まっており、「メイク・イン・インディア」という、自国製品の質を高めて生産量も増やすための政府主導のイニシアチブにも好影響を与えていくことが期待される。

デザインへの意欲は、バンガロールに作られたタイタンの新社屋にも表れている。日本でいえば、建物と公園を融合させた大阪のなんばパークスを低層化したような構造を持ち、それ自体が環境に配慮するとともに、働く人にも優しい空間となるようにデザインされているのだ。待合スペースは、半分屋外のテラスのような場所に設けられていたが、それも気候の良いバンガロールならではのアイデアと感じた。
新社屋があるバンガロールは気候が良いため、半分屋外のような場所に設けられた待合スペースに本革製のソファーが並んでいる

新社屋があるバンガロールは気候が良いため、半分屋外のような場所に設けられた待合スペースに本革製のソファーが並んでいる

屋内もモダンかつ機能的に構成されており、本物の木や木材も効果的に利用しつつ、無機質ではない心地よさが感じられる空間にまとめ上げていた

屋内もモダンかつ機能的に構成されており、本物の木や木材も効果的に利用しつつ、無機質ではない心地よさが感じられる空間にまとめ上げていた

もう1つ、一流のIT企業がひしめくバンガロールでも独自の存在感を放っているのが、「SAP Labs India」である。SAPといえば、ドイツで設立され、今やヨーロッパで最大級のソフトウェア企業へと成長して世界規模で多様なビジネスアプリ開発を行っている会社だが、特にインドの研究開発ラボは全世界で20ある内でもドイツ本国に次ぐ規模を持ち、1998年に設立された際には、バンガロールにおけるグローバル企業のR&D施設の先駆け的存在だった。

SAP Labs Indiaは、SAP StartupStudioという名のインキュベーション施設も持ち、そこで培われたアイデアを製品化するなどの協力体制が敷かれている。かつて企業の研究施設は、特にエンタープライズ分野の技術開発をクローズドな環境で行っていたが、SAP StartupStudioはその過程をオープン化したパイオニアといえ、今もそのリーダー的立場にある。

特筆すべきは、SAP Labs Indiaのキャンパスが2週間ごとにバンガロール市民に開放され、AIやマシンラーニングなどを含む最新テクノロジーのショーケースイベントが行われていることだ。家庭や経済的な事情で望む道に進めなかった人でも、意欲さえあれば最先端の技術に触れたり、研究者とのやり取りができるので、インドのリーダーたちが重視するインクルーシブ、つまり多様性を重視した全員参加の精神がまさに活かされている現場なのである。

もちろん産学協同的なプロジェクトも行われており、SAP Labs Indiaは、教育機関が力を入れるソーシャルプログラムに協力している。インド政府が、すべての企業に対して平均純利益の一パーセントを社会的責任(CSR )活動に支出することを義務づける規定を法制化し、このような社会貢献分野のビジネスへの投資が活発化したこともあって、この領域は大いに活況を呈するようになった。

また、今やデザインのみならずビジネスの世界でもデザインシンキングの重要性が叫ばれているが、SAPは、この点でも先駆者だった。そもそも、デザインシンキングがソフトウェア開発にも応用できることに気づいたのは、SAPの共同設立者のハッソ・プラットナーであり、彼は同じくビジネスへのデザインシンキングの応用を提唱していたIDEOのデビッド・ケリーと共にスタンフォード大学内にd.schoolと呼ばれるデザイン研究所を設立したほどなのである。同社のエグゼクティブたちは全員デザインシンキングについて学び、その考え方を組織の隅々まで徹底させているが、これはSAPならではのことといえる。

デザインシンキングに基づく製品開発では、技術指向ではなくユーザー指向の考え方が求められるため、特にエンジニアの思考方法をドラスティックに逆転させる必要がある。そのためにも、早い段階でエンドユーザーにアクセスして直接情報を得たり、フィードバックを受けることが重要だが、ドイツはもちろん中国、日本でも法律や社内規定の問題から、そうすることが難しかったり、面倒な手続きを踏まなければならない。

しかし、インドではそのようなことも障壁なく行えるため、ユーザーニーズに即したソフトウェア開発を迅速に行うことができているという。そして、穏やかな気候、優れた人材、一流企業のR&D施設などが揃っていることから、バンガロールがインドのIT産業の中心地となるのもごく自然なことだったのである。
SAPとしてシリコンバレーに次いで第2の規模を誇る研究開発ラボは、ここインドのバンガロールに開設されている。その理由は、他のIT企業と同様に、優れたインドの人材を確保しやすいことに加えて、同国の発展に寄与できるためといえる

SAPとしてシリコンバレーに次いで第2の規模を誇る研究開発ラボは、ここインドのバンガロールに開設されている。その理由は、他のIT企業と同様に、優れたインドの人材を確保しやすいことに加えて、同国の発展に寄与できるためといえる

SAP StartupStudioと名付けられた施設で、SAP Indiaはスタートアップ企業を支援し、そこから生み出される技術を自社のノウハウや資金力と組み合わせることで、シナジー効果を生み出そうとしている

SAP StartupStudioと名付けられた施設で、SAP Indiaはスタートアップ企業を支援し、そこから生み出される技術を自社のノウハウや資金力と組み合わせることで、シナジー効果を生み出そうとしている

インタビュー当時はSAP Indiaの副社長であり、現在はコンサルタントとして独立されたラクシュマン・パチネーラ・ セシャドリさん(右)とSAP Apphaus Asiaのデザイン・エバンジェリストのビスバプリヤ・サシアムさん

インタビュー当時はSAP Indiaの副社長であり、現在はコンサルタントとして独立されたラクシュマン・パチネーラ・
セシャドリさん(右)とSAP Apphaus Asiaのデザイン・エバンジェリストのビスバプリヤ・サシアムさん

最後に、インドの今を象徴する国産自動車を2台紹介して本稿の締めくくりとしたい。1台は、デリーの空港で見かけたタタ・モーターズの新型SUV、Harrierであり、もう1台は、SAP StartupStudio前に駐車していたマヒンドラの電気自動車e2oである。

すでに、スズキがインド現地法人が生産したバレーノを日本に輸入販売しており、コストを押さえつつ十分な品質を備えるレベルに到達している。タタ・モーターズはジャガー・ランドローバーを傘下に収め、マヒンドラもピニンファリーナを買収していることから、インドの国産自動車も今後、質、性能、デザインのすべての面で、世界水準の製品へと成長していくことだろう。
デリーの空港に展示されていたタタ・モーターズの新型SUV、Harrier(トヨタの同盟車とは無関係)。同車は、タタ傘下のジャガー・ランドローバーと共同開発した次世代プラットフォームを採用し、デザイン的にも高い水準にある

デリーの空港に展示されていたタタ・モーターズの新型SUV、Harrier(トヨタの同盟車とは無関係)。同車は、タタ傘下のジャガー・ランドローバーと共同開発した次世代プラットフォームを採用し、デザイン的にも高い水準にある

SAP Indiaは、同社が基幹システムの開発で協力体制にあるインドの国産自動車メーカー、マヒンドラのEVシティーカーe2oを導入しており、StartupStudioの玄関前のパーキングスペースでも数台が充電されていた

SAP Indiaは、同社が基幹システムの開発で協力体制にあるインドの国産自動車メーカー、マヒンドラのEVシティーカーe2oを導入しており、StartupStudioの玄関前のパーキングスペースでも数台が充電されていた

以前からかなり大胆なデザインを採用しているe2oだが、イタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナを買収したマヒンドラは、今後さらに積極的なデザイン戦略を打ち出すものと考えられる

以前からかなり大胆なデザインを採用しているe2oだが、イタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナを買収したマヒンドラは、今後さらに積極的なデザイン戦略を打ち出すものと考えられる

在インド日本大使館が2018年の12月に発表した統計によれば、日本からインドには大小合わせて1,441社が進出しており、その内、現地に生産拠点を有する企業も475社に上っている。しかし、依然として中心は自動車関連業界を核とする製造業であり、さらなる社会的インパクトをもたらすためにも、衛生関連事業や環境ビジネスを手がける企業の台頭が望まれる。

今回の取材先の手配は、現地に幅広いネットワークを持ち、日本企業向けのインド視察やリサーチ業務、インドのスタートアップとのマッチング、日印両国でのインド関連イベントのプロデュースを行っているムーンリンク株式会社に行っていただいたが、同社は日本とインドの架け橋となることを使命としている。同様の使命感を持って後に続く企業や人材が出てくることを願ってやまない。
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