Brand-New! DESIGN DIGEST 特別編「韓国文学」 - デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【Brand-New! DESIGN DIGEST 特別編】
「新しい韓国の文学」ブックデザインにも注目!2019年大ヒット「韓国文学」特集
魅力的な最新のデザインを毎週ダイジェストでお届けする「DESIGN DIGEST」。2019年を締めくくる特別編として、今年一年、話題となった「韓国文学」をフィーチャー。K-文学の魅力や日本で大ヒットした理由を探っていきます。また、SNS上でも注目されている「新しい韓国の文学」シリーズの美しいブックデザインにも注目しました。

取材に応じてくれたのは、日本で韓国文学を出版している「クオン」、ブックカフェ「チェッコリ」のオーナーである、金承福(キム・スンボク)さん。すでにK-文学にハマっている人も、気になっている人も、ぜひ読んでほしいロングインタビューです。インタビューは「チェッコリ」にて。

●取材・文:編集部、Rio HOMMA ●撮影:YUKO CHIBA

▼キム・ジヨン、フェミニズム、K-POP……、韓国文学の流行をひもとく
『82年生まれ、キム・ジヨン』のヒットや、「文藝 2019年秋号 韓国・フェミニズム・日本」の増刷など、韓国文学が注目されたこの一年。韓国文学のコーナーを設置する書店も増えており、流行を実感している人も多いのでは。それでは、ここまでのブームに至るきっかけとはなんだったのでしょうか……。出版社とブックカフェの運営、エージェント業務など、韓国文学の出版に直接関わる金さんだからこそ知る、その理由とは?
▽2018年ごろからじわじわと、そして今年、日本で一気に韓国文学が流行ったように感じているのですが、そのきっかけはなんだったと思いますか?

金さん:2018年に皆さんが肌で感じるようになった少し前の2015年に、「日本翻訳大賞」の第1回で、韓国文学の『カステラ』(パク・ミンギュ著)が受賞しました。奇抜な話で、齋藤真理子さんとヒョン・ジェフンさんが翻訳者。そして、2016年に『菜食主義者』(ハン・ガン著)が「マン・ブッカー賞国際賞」を取ります。英訳に先立って、私たちは2011年にその邦訳を出しているので、日本語で読めるんです。それで、隣の国でこんな面白い作家がいるというので注目されていきました。あとは、2015年に「チェッコリ」(クオンが運営するブックカフェ、詳しくは後述)がここにできたことも影響があると思っています。皆ここに集まっていて、1年に100回ほどいろいろなイベントを開催するので、韓国が好きな人、韓国に関心がある人には、チェッコリは本当に知られています。日本翻訳大賞、マン・ブッカー賞、チェッコリで、韓国文学は流行っていったのではないでしょうか。オフラインの空間があることは大事ですね。

晶文社が出した韓国文学シリーズ(「韓国文学のオクリモノ」2017年〜)もエージェントとしてお手伝いをしました。編集者さんは、書店に並べたときに書籍のデザインがケンカしないよう、クオンの「新しい韓国の文学」と同じデザイナーの寄藤文平さんにデザインを頼みました。ネームバリューと歴史のある出版社から韓国文学のシリーズが6冊出たという事実は、出版界にものすごく大きな影響を与えたと思います。その後もいろいろな出版社から次々と刊行されています。実績のある大きい出版社が韓国文学を出し始めたということは、作品がいい、認められていて読者もついているということ。時代は変わって、韓国文学が読まれるようになったというのは実感しています。このお店の売り上げもずっと上がっているし、クオンが出している本も、以前は動きがなかったものも動き出す。シリーズで置いてくれる図書館や書店も増えています。


▽『82年生まれ、キム・ジヨン』の人気や「文藝 2019年秋号 韓国・フェミニズム・日本」の増刷など、フェミニズムが特に流行したように思います。日本で支持を得た理由は……?

金さん:『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、以下「キム・ジヨン」と略す)が受け入れられているのは日本だけではありません。いろいろな言語に翻訳されています。日本や韓国など、アジアの女性は男性に比べると少し立場が弱いですが、欧米はまた状況が違うので、フェミニズムとして取られているかどうかは分かりませんが読まれています。日本で支持を得たのは、(「キム・ジヨン」の)編集者さんにもインタビューをしたことがあるのですが、理由が2つあると分析していました。まず、主人公のキム・ジヨンが韓国ドラマで見るような気の強い女ではなかったこと。そのため、日本でも受け入れやすく自分事になった。もう1つは、日本の作家が書いていたらあまりにもリアルすぎて流行っていなかったはず。隣の国の物語だから若干のファンタジーが入り、読みやすかったんだと思います。作品性とは別にそのような検証もあるんですよ。また、小説自体はドキュメンタリー形式で面白く、小説という風に読ませない工夫、作家の戦略がありました。それはすごく計算された書き方です。


▽日本における、韓国のフェミニズム文学の流行をどう見ていますか?

金さん:『カステラ』や『ピンポン』を読んだ人はパク・ミンギュに熱狂しました。その後が「キム・ジヨン」。韓国文学はフェミニズムだけではありません。「キム・ジヨン」からフェミニズムが流行ったというわけでもなく、1970、1980年代から女性作家はフェミニズム的な作品を書いていたし、大御所もいっぱいいる。今、チョ・ナムジュやチェ・ウニョンが若い感覚で書いています。でも、今の日本で、韓国文学=フェミニズムとして注目されているのは全く悪いことではなく、これをきっかけにSFや純文学、人文社会の本まで繋がると思っています。

「キム・ジヨン」のほかにも、私がエージェントとして入り、今年の2月にワニブックスから刊行された『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン著、防弾少年団のジョン・グクの写真にも映っていたエッセイ)も、既に22万部売れています。ちなみに「キム・ジヨン」は15万6,000部。『私は私のままで生きることにした』を自社でやらなかったのは、クオンとはカラーが違うから。売る力のあるところに売ってもらう。リンクさせるのも商売です。そこを見極める。そうしていけば、「新しい韓国の文学」シリーズをまた置いてもらえ、注目される流れができていきます。


▽韓国文学の流行によって、これまでの読者層から変化はあったのでしょうか?

金さん:(チェッコリを)訪れる方が多くなりました。東方神起のコンサートのあとに来て、喜んでもらえることも。読者層は変わっていて、以前は年配の方が多かったのですが、10代の若い人たちが増えている。K-POPの影響ってすごくあるなあと。K-POPファンの集まるイベントでヒントを得て生まれたシリーズが、これ(「韓国文学ショートショート きむ ふなセレクション」)です。分厚いのは難しい、手が届かない……、でも読みたい人たちに向けたもの。韓国語を入れて、YouTubeで韓国語での朗読が聞けるようになっています。勉強じゃなくても楽しめ、まだ日本で紹介されていない作家の代表的な作品を入れることによって、これがまたアンテナになる。ほかの出版社がこの作家の違う作品を出せるような、そういう仕組みをつくりたい。自分たちの規模を知っているので、欲張らないけれど、アンテナ役はしっかりとやりたい。そういう意味で装丁にも力を入れています。
▼“天才”が手掛ける美しい装丁も魅力的な「新しい韓国の文学」をひもとく
韓国文学の流行には、「日本版の装丁が魅力的」という要因も。すべてを買いそろえたいという声も多い「新しい韓国の文学」。このシリーズが、日本で展開される韓国文学を「オシャレ」で「かっこいい」ものに押し上げたのは言うまでもありません。ブックデザインを手掛けた寄藤文平さん、鈴木千佳子さんとのやり取り、韓国の本の装丁について、また、「新しい韓国の文学」の成り立ちや今後についても合わせて教えてもらいました。
▽2011年に「新しい韓国の文学」シリーズがスタートしましたが、現代作家の作品を取り上げたのはどのようなきっかけからですか?

金さん:当時、すでに日本の老舗出版社は、1960~90年代に書かれた韓国文学を刊行していましたが、そのときの作家はイデオロギーや民族についてのテーマが多かった。日本の2000年代の読者はそれを楽しめるか、受け入れるかと考えたときにそうじゃないと分かっていました。2000年以降の作家、私が今まで読んできたものは、同世代の人の今の話。そういうものを日本の読者に届けたいと思った。そのようにした上で、ある程度、今の文学が認知されたら、それ以前の作品もきちんと取り上げたいという狙いがあって、ついに今年、名作シリーズ(「CUON韓国文学の名作」)が始まりました。ここに到達するまでにはとても時間がかかりました。

▽作品によって翻訳家の方が違いますが、どのように選んでいるのでしょうか?

金さん:原作を読み作家のスタイル・文体を分かっているので、それが再現できる翻訳者と仕事をしたいです。ドライな文体の人もいれば、ディープな表現ができる人もいますよね。それを理解した上で、翻訳者に4つのポイントを尋ねています。1つ目は翻訳をした実績があるかどうか、本になっているかどうか。2つ目は韓国で生活したことがあるか、3つ目は自分で文章を書いているかどうか、それを見せてほしい。そして最後に、これがとても大事ですが、翻訳したい本リストを持っているかどうか。皆に聞いていますがなかなか持っていない。どうしても翻訳したくて、例えば友達に読ませたいとか、本当に好きなもの、やりたいことを持っていることが大事です。韓国語を勉強して翻訳ができる人も増えて、マーケット自体も広くなっている。
▽シリーズを通して、寄藤文平さん、鈴木千佳子さんがブックデザインを担当されていますが、そのきっかけは?

金さん:2007年にクオンを立ち上げましたが、出版は伝統的な産業でいきなり参入するのは難しく、悩んでいました。大学時代の後輩がナナロク社で編集をしていたので相談をして、本のつくり方をアドバイスしてもらったり、ネットワークを紹介してもらったり……その中にデザイナーの寄藤文平さんたちもいました。彼とは、たくさんディスカッションして、私がいいと思うものをすぐに分かってくれた。寄藤さんは天才なんです。
●金さんが感動した『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン著)のブックデザイン

●金さんが感動した『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン著)のブックデザイン

●「新しい韓国の文学」シリーズには、作品の内容を連想させるアイコンが描かれている

●「新しい韓国の文学」シリーズには、作品の内容を連想させるアイコンが描かれている

●表紙にもナンバリングが施され、シリーズすべてを集めたくなるデザインに

●表紙にもナンバリングが施され、シリーズすべてを集めたくなるデザインに

●クオンでは韓国の現代文学だけでなく、過去の名作や大河小説なども刊行している

●クオンでは韓国の現代文学だけでなく、過去の名作や大河小説なども刊行している

▽依頼の際に何かリクエストをされましたか?

金さん:大まかなイメージ、たとえば「新しい韓国の文学」シリーズのときには「新しさが伝わるようなものにしたい」などはお伝えしますが、「こういうデザインをしてほしい」とは私からお願いしません。そのうえで、作品を読んでもらって、判型や製本のスタイルまで考えていただきます。私ではなく、デザイナーが本の形をつくる建築家。もちろん、その過程で質問はいっぱいします(笑)。

「新しい韓国の文学」シリーズ19の『ショウコの微笑』ができたときは、デザイナーのおふたりのこの本に対する理解と愛情を感じてとても嬉しかったです。この本を読めば、このイラストが何を意味するのかすぐに分かると思う。ラフを見た時に本当に嬉しくて、すぐにお礼のメールを書きました。いい仲間に巡り合えたと思っています。いいデザイナーと本をつくると、こういう感覚が味わえるんです。

韓国のブックデザインもこの2〜3年で変わってきて、どんどんおしゃれになってきています。でも中にはかっこよくて手に取ってみたいと思わせるのだけど、開きが良くないなどユーザビリティが低いものも……そういうものは、本の建築家としてどうでしょうか。クオンでお願いしているデザイナーさんは皆トータルで設計しています。文字間とか上下の余白とか、設計図がしっかりしている。「新しい韓国の文学」シリーズの11巻からカバーの地の色が1冊ごとに違っているのもデザイナーのアイデアです。巻数を入れようという話も初めの段階でしました。ナンバリングが入っていれば、図書館の人は全部揃えたくなりますよね、それを意識して。

装画については、『菜食主義者』を出すときに、著者のハン・ガンさんから原書と同じようにエゴン・シーレの絵を使ってほしいと言われました。でも、デザイナーも作家さんです。ハン・ガンさんのリクエストには応えられないので、日本の読者にはこういうものがあっていますよとハン・ガンさんに説明し、玉ねぎのイラストの向きを変えることで少し雰囲気を変えて出しました。

本を出すのは関わっている人たちのコラボ。お互いがどれだけ気持ちよくやっていくかが大事だと思います。デザインにしても、作品を読んでいただいて、理解して出していただけることが重要。「韓国文学だからこういうデザインはやらない」ということはありません。あとは、たくさんの案は要らないのでベストなものを出してくださいとお伝えしています。1つに集中したほうが良いんじゃないかなと。天才たちはそういうふうにしています。


▽2018年にスタートした「韓国文学ショートショート きむ ふなセレクション」も鈴木千佳子さんがブックデザインを手掛けていますね。

金さん:鈴木千佳子さんと仕事がしたいと依頼しました。本のサイズなども鈴木さんと決めています。最初にお願いしたのは、裏表で日本語と韓国語のタイトルを載せることでしたが、メインがどちらか分からなくなってしまうといった理由でダメでした。消費者の感覚についても鈴木さんと相談し、価格(1200円+税)に納得してもらえる形、目に見えるものがないといけないなど考えてくれて、シリーズのロゴを箔押ししています(画像参照)。

本をつくるのは家をつくることと同じだと思う。小さいときに、母親が中心になって家を建てましたが、「もう一度つくりたい」と死ぬまで言っていた。本をつくったり新しいシリーズを始めたりするときに、それを思い出しますね。母親と同じ失敗はしたくないから、デザイナーといっぱい話をします。母親は1軒しか家を建てていないですが、私は60冊以上本をつくっています(笑)!

韓国でもクオンの装丁について、すごく期待されています。小さい出版社だけれど、このシリーズの中に入りたいという韓国の作家もいます。本当に嬉しいことです。日本で「韓国文学はかっこいいよね」というのがひとつのフレーズになっていて、本当に嬉しい。「新しい韓国の文学」シリーズが面陳されていることで、海外文学の読書層が広がったという話も元書店員の方から聞きました。
▽それでは最後に……。フェミニズム文学はもちろんですが、韓国にはまだまだ魅力的な作品が多くあると思います。今後「新しい韓国の文学」シリーズで取り上げたいものがあれば教えてください。

金さん:新しいものを入れたいねと話しています。韓国で去年あたりからクィア文学が結構売れています。この分野で人気のある作家、キム・ボンゴンやパク・サヒョンとか、2人ともゲイと公表しています。昔はなかったのかといえばそうではありませんが、昔は生きづらさについて書かれていた。今は当然のように出てくる時代になった。それについて去年いろいろなコラムや作家紹介などで書きましたが、シリーズに入れるかじっくり検討するために、彼らの次の作品を待っている感じですね。
▼韓国文学を読むなら知っておきたい、金さんが代表を務める出版社「CUON」&ブックカフェ「CHEKCCORI」


CUON(クオン)
2007年に金さん自ら立ち上げた出版社で、日本における韓国文学のパイオニア。社名には「いいものは永遠、韓国の面白いもの、日本のいいものがいつまでも続くように」という思いが込められている。今回紹介した「新しい韓国の文学」シリーズをはじめ、「CUON韓国文学の名作」シリーズの『広場』(崔仁勲著)や、19世紀末から20世紀半ばまでの朝鮮半島、中国東北部(旧満州)、日本を舞台に描いた大河小説『完全版 土地』(朴景利著)などを刊行している。そのほか、日本と韓国専門のエージェント業務も。
URL:http://www.cuon.jp/


CHEKCCORI(チェッコリ)
2015年にオープンした、韓国語の小説や詩、エッセイ、児童書、マンガといった実用書など約4000冊、韓国語学習書、日本語の韓国関連本約500冊を販売しているくつろぎの場。韓国伝統茶、韓国餅、マッコリなどのカフェメニューも。韓国や日本の作家・アーティストを招いたトークショーなど、年間100回ほどイベントを行なっている。カフェのロゴデザインは寄藤文平さんによるもの。

住所:東京都千代田区神田神保町1-7-3 三光堂ビル3F
アクセス:地下鉄神保町駅A5・A7出口より徒歩1分
営業時間:12:00~20:00(日・月定休)TEL:03-5244-5425
URL:http://www.chekccori.tokyo/

▼こちらもチェック!韓国文学の書籍カバーをピックアップ
韓国文学特集ということで、2019年12月25日掲載の「DESIGN DIGEST」では、11月と12月に発売された書籍のデザインをピックアップ。キラキラしていながらどこかセンチメンタルなイラストが魅力の『となりのヨンヒさん』、レコード盤をモチーフにしたユニークな『短篇集ダブル サイドA』『短篇集ダブル サイドB』、虚無感ある写真が印象的で心揺さぶられる『中央駅』を取り上げています。こちらもぜひチェックしてください! DESIGN DIGESTの詳細はこちら
Brand-New!DESIGN DIGEST 一覧
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS