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若手クリエイターが語る、アナログとデジタルが融合した新しい表現と世界

2020.04.23 Thu

切絵童話作家がARアプリをリリース!?

若手クリエイターが語る、アナログとデジタルが融合した新しい表現と世界

取材・文:KANO NUMATA 撮影:YUKO CHIBA

プログラミングの世界で、今、ダイバーシティの壁を超えて活躍する女性クリエイターが増えています。Appleが主催するアプリケーション開発プログラム「Entrepreneur Camp」の2019年、4回目のセッションに日本人で唯一選ばれた切絵童話作家兼ARクリエイターの清重 影織さんもその1人。「AR」と「切り絵童話」を掛け合わせた表現手法は非常にユニーク。プログラマーとして海外に住みながら仕事を受注する自分らしい働き方も実現しています。そんな若手クリエイターの清重さんに話を聞きました。          
※本記事は2月下旬に取材しています

切絵童話作家として活動を始めたのはいつ頃でしょうか

普段使っている切り絵用のデザインナイフ。繊細な手作業で細かな部分も美しく仕上がる

清重社会人になってからです。東京大学を卒業後、大学図書館の司書として勤務しながら趣味で切り絵をしていました。ところが、だんだん作家として本格的に取り組みたくなり、副業禁止の図書館勤務がややネックに感じるように。そんな頃、知り合いからプログラマーなら働き方を自由に選べると聞き、プログラミングスクールで1〜2カ月ほど勉強し、受託開発などをしている小さめの会社に転職しました。

そこでWebアプリのサーバーサイド開発を中心に、Javaで作ったアプリを変換してPythonで書き換えたり、PHPで会社さんから依頼されたものを修正したり、自社開発でLINE BOTを作るなどのプロジェクトをこなしながら2年程働きました。副業もOKだったのでその間もずっと切り絵童話の制作に励み、2018年には文京区本郷にあるギャラリーで初めての個展を開催。以降、年に3〜4回展示会を開き、1回につき7〜10点ほどの作品を制作するというペースで続けながら今に至ります。

二足のわらじですね。当初からデジタルとアナログの融合を考えられていたんですか?

清重:いえ、最初は完全にアナログでした。先にストーリーが浮かんできて、そこにあった挿絵を切り絵作品で作っていくという流れです。“どうして悲しいことがあるんだろう”“モヤモヤすることがあるんだろう”といったことをテーマに、その解決策を物語にすることが多いですね。話が固まったら、本であれば挿絵の配置を決め、下絵を描き、黒い紙にのせて線を決め込んで、デザインナイフで切り抜き、スキャンし、文字を配置したら完成。作品にデジタルを取り入れるようになったのはつい最近のことなんです。“物語をもっとリアルにしたい”“もっと伝わるように”と考えているうち、仕事で日々プログラミングをしていることも影響し、ARを使えば表現の幅が広がるということに気づいて。

eCampの評価対象となったアプリ「AR切り絵絵本 金魚夢十夜」がまさにそうですね。ご自分で感じている特徴やこだわりポイントを教えてください

清重:やはり切り絵の金魚をARで動かせるようにしたことです。スマホをかざすことで金魚が動きまわり、ストーリーがより生き生きと感じられる。ただの読書じゃない“面白い読書体験”を楽しんでいただきたいと思って作りました。今後は、スマホをかざすと隠された話が浮かび上がってくるとか、本当はこう思っていた…みたいなものも作りたい。あと、このアプリはUnityとVuforiaを勉強して作ったんですが、Vuforiaがいつの間にか月額制になってしまって。今、Android版を下ろし、Swiftに焼き直している最中です。Swiftはコードで書かなきゃいけないのが大変ですが、ARKitの最大限良さを使えるので学ぶ価値はあるかなと。Swiftはエラーメッセージが頻出するので片っ端からググるのが私流。英語でググると解決策が出やすいですね。あとは公式のドキュメントを参考にするのも近道。ARKitの簡単な例をベースに、機能を追加して自分のものに寄せていくのが早いと思います。

「AR切り絵絵本 金魚夢十夜」より
スマホのアプリを本に掲げると鷹が浮き上がって羽ばたく

日々勉強ですね。eCampに参加するようになった経緯を教えてもらえますか

清重:昨年末、たまたま参加したARイベントで自由に展示できるブースがあってARの切り絵作品を出展したら、他の参加者の方がAppleのeCampのことを教えてくださって。女性起業家向けというのが面白いし、いろんなことが学べるんじゃないかと試しに応募したところ、まさかの入選。「Congratulations!」というメールが届いた時は心底びっくりしました。しかも、いきなりカリフォルニア州クパチーノにあるApple本社への招待で、初顔合わせもまさかの本社近くの懇親会会場。勢いで参加にしたけど英語も自信がないし大丈夫かなと(笑)。実際、懇親会でも企業のチームできている方が多く、個人起業家は3人しかいなくて、その方達も問題解決に役立ちそうな実用的なアプリを作っていて私が一番アートよりというか…。間違いなんじゃないかと思いましたが、Appleの方があなたたちは選ばれたから自信を持ってと最初に言ってくださったので頑張れました。

実際、eCampに参加されていかがでしたか?

清重:約2週間の滞在でしたが、全4回のセッションがあり、デザインの話やAppアナリティクスの話など毎回30分ほどの講義を聞き、その後も作品を将来的にどんな風にしていきたいかなど様々な相談にのってもらえました。私の場合、本を持っていないと遊べない現状から、アプリを先に知った人が楽しめる仕組みづくりや、英語版にしてもっと世界に発信した方がいいなど色々と気づかされました。また、ARKit, Accessibility, Privacy, SiriKitのエキスパートから話を伺えたり、1on1でコードレビューしてもらえたりととにかく贅沢すぎる体験ばかり。セッション以外の時間も習ったことをすぐにやりたくてずっとコーディングしていました。

たまたま同じAirbnbに泊まっていた、ウクライナから参加された方が個人開発で日本語を学べるアプリを作っていて、私はSwift言語が苦手、彼女は日本語が分からなかったからずっと一緒にいて教えあえたのもラッキーでした。最終日にアプリがどのくらい変わったかを発表する場があったんですが、私もなんとか床を検知すると金魚が出てきて泳ぐという本無しで遊べる機能の追加が間に合いました。帰国してから個展準備で忙しくてできてないですが、もう少ししたらリリースする予定です。          
※iOSの最新版はこちらです

他にも、個人開発として参加したのが私とそのウクライナの友人、もう1人時差ボケを解消するアプリを作っているアメリカ人の女性の3人だったんですが、みんなでWhatsAppのグループを作り進捗会をやっていくことになって。この絆も含め、本当に有難い機会をいただきました。

素晴らしい経験でしたね。現在はイタリアを拠点にリモートワークされているとか。新しい働き方について教えてください

清重:2018年に当時パートナーだった現夫が博士課程を取るためにイタリアに留学することになったんです。悩んだ末、見識を広げるいい機会だと思い、会社を辞めてついていくことにしました。実は、先日結婚をして、今はイタリアを拠点に作家活動をしながら、プログラマーの仕事も日本からリモートで受けています。このような自由な働き方が叶ったのもプログラミングという仕事に出会えたから。1人で開発していると動けばいいやとなりがちな設計も仕事のおかげで丁寧に取り組めている気もして、双方学ぶことがありメリットも多い。もちろん、ゆくゆくはアプリ1本で食べていきたいという気持ちもありますが。

憧れだった時間や場所の制約がない働き方を叶えた清重さん。イタリアでの暮らしが作家活動にいい刺激となっている

今後、挑戦してみたいことがあれば教えてください

清重:美術館や図書館が大好きなので、ご縁があったら文化施設のアート作品をARで動かすようなプロジェクトに関わりたいです。学生時代から図書館や博物館でバイトをしていたのも、“昔のもの”“蓄積されたもの”の中でも良さが知られていないことを人に教え繋ぐ、いわば「知を伝播する」ということにずっと興味があるのだと思うんです。大学図書館にいたときも、「どう伝播するか」を常に考えていたし、プログラミングを始めてそういう世界が広がった気はしています。デジタルとの融合なんて芸術じゃない!と言われることもありますが全然気にしません(笑)。ARで作品そのものが持っている物語や魅力をより伝えられるならありだと思う。このモチベーションの高まりもeCampに参加して得たもののひとつ。クパチーノに1人乗り込んだ最初の晩は、それこそ不安すぎて悪寒が止まらなかったのですが、多分、「怖くてもやる」というのが広がる秘訣だと思います。

2月下旬に代官山のギャラリー「Space K」で開催された「紙で奏でるサイエンス ー情緒ー」展より。ガリレオをイメージした切り絵作品「ガリレオ=ガリレイ」
ガリレオの部屋をイメージした切り絵作品「Galileo's Room」。ARで見ると、夜空に星がきらめき、「キーン」という音ともに流れ星が発生する       

「Apple Entrepreneur Camp」とは?

Appleが2019年1月より開始した、女性起業家をサポートするためのアプリケーション開発プログラムです。デザイン、機械学習、拡張現実(AR)といった次世代アプリケーションの開発支援に特化していて、世界各国から選ばれたセッション参加者たちは、クパチーノにある本社で行われる実践型のテクノロジーラボやエキスパートやエンジニアと一対一で行われるコードレベルの指導などのプログラムを2週間に渡って受けることができ、Appleのリーダーたちからの助言、激励、知見が得られます。          
url. https://developer.apple.com/entrepreneur-camp/

【お知らせ】          
Apple、6月に全く新しいオンラインでの「Worldwide Developers Conference 2020」を発表

今年で31年目となる世界開発者会議WWDCですが、今回は新型肺炎の影響で初のオンラインでの開催が発表されました。これまでにない完全に新しいオンラインでのWWDC。世界中から集まる何百万ものソフトウェア開発者をオンラインで結び、基調講演と各セッションが提供されます。今年のWWDCでは、どのような基調講演とセッションが学べるのか、楽しみですね。詳細は下記のページからご確認ください。          
url. https://nr.apple.com/d2s5R1a1E5

清重 影織(きよしげ かげおり)          
1992年東京生まれ。東京大学教養学部卒業。切り絵はすべて独学で身に着ける。一枚絵としてのモノクロ/カラー切り絵だけでなく、絵本、動画、詩画や立体作品などの幅広い手法でオリジナルの物語を表現している。さらにスマートフォンをかざすとARが立ち現れる切り絵を制作し、空想世界のリアルへの拡張を試みている。  
url. https://www.kageori.com/

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