日本が誇るアニメーション産業、人気アニメを生み出す上で重要な色彩設計という仕事とは?
アニメのヒット作が続くなか、アニメーター志望が増えている。特に人気なのは作画やキャラクターデザインを行う仕事で注目を集めている。そんななかMdNではアニメにおいて、物語の世界観を大きく変えてしまう色のお仕事「色彩設計」に着目。自身もアニメ制作の現場で活躍してきた、代々木アニメーション学院の栗生先生が語る、アニメにおける色の意味や重要性を紹介する。
ここ数年、日本のアニメ作品が好調だ。既存のアニメファンばかりでなく、幅広い人々の目に触れる機会が増えている。最近では、大手制作会社がアニメーターの育成を行うプログラムの開講を決定するなど、日本が誇るアニメ産業への期待は高まるばかりだ。そんななか、観るだけでなく制作に携わりたいと思う人も増えてきているのではないだろうか。アニメ制作行程においては作画ばかりに関心が寄せられがちになるが、ここではアニメに命を吹き込む上で重要な「色彩設計」という仕事に注目。色彩の重要性や奥深さ、色を決める面白さについてアニメーターの卵が集まる代々木アニメーション学院を訪れ、日々学生への指導にあたる栗生先生に話を聞いた。
色は情報。何を伝えたいかによって色は変わってくる
Q1 御校のアニメ・ゲーム学部では「アニメーター科」をはじめ、アニメ業界を志望する学生に対してどのような指導をしていますか
栗生アニメ制作を教えるにあたっては、アナログとデジタル、ふたつの方法を指導しています。アニメ制作の仕上げの現場では、15年ほど前にアナログからデジタルへ移り変わろうとする動きがありました。その流れが技術として定着してきたことで、ここ2~3年で作品に変革が起きています。例えば、背景の作り方も手描きからデジタル(2D)になり、さらに2Dから3Dで作られることが増えてきており、表現できる幅がとても広がったように感じます。
また、デジタル化によって制作現場で起きた大きな変化のひとつに色塗りがあります。昔は「セル」という透明シートに絵の具を塗って「セル画」を作り、静止画であるセル画一枚一枚を連続させることで動きを出していました。これらの作業はデジタルに置き換わったことで、今までよりも作業効率が高まったことはもちろん、RGBの0〜255が使えるため、圧倒的に色彩の幅が広がりました。ですので、デジタル技術でアニメを制作することを指導していますが、セル画の仕組みはアニメの基本でもありますから、アナログ技法も教えています。
Q2 アニメーションは、作画や美術など異なる職種が協力し合ってつくられますが、色にまつわる仕事はどういったものがありますか
栗生色関係の仕事で、まず説明しなければならないのが「色彩設計」です。監督が抱いている作品のイメージを汲み取って色を決める、いわば“色の監督”ともいえるお仕事です。作品すべてに決定権をもっているのは監督ですが、実際にすべてをひとりで作るわけではありません。アニメはチーム制作ですから、色々な職種が混在していて、それぞれに美術監督、撮影監督、作画監督、そして色彩設計など信頼する責任者がいて、監督のイメージを具現化しています。
色彩設計は、作品のメインキャラクターにまつわる色を決めるのが基本のお仕事です。それ以外の色を決める人は「色指定」と呼ばれます。モブキャラクターや、小物などを担当します。そして、色彩設計や色指定が指示をした色を実際に塗っていく人を「仕上げ」と呼びます。色彩設計・色指定と仕上げの関係は、スポーツの世界におけるコーチと選手のようなものだと思っています。コーチがこれで行く!と決めた色を、キャラクターに落とし込んでいくんです。
Q3 栗生先生は、アニメ・ゲーム学部で色にまつわる授業を指導しています。アニメ作品において色はどんな役割をもっていると考えていますか
色の名前や歴史を紐解いて行くと、使うべき色は見えてくる
栗生イラストレーションと大きく違うのは、アニメ―ションは一枚の画にたくさんの色を使えないこと。色数が多いと色彩設計も仕上げも仕事が煩雑になり時間が足りなくなってしまいます。例えば、キャラクターの肌ならば基本的に3色で表現します。光が当たるハイライト、ノーマルな肌色、そして影になる部分ですね。面白いことに、ノーマル肌が同じ色でも、影の色を変えるだけで男性的な肌にも女性的な肌にも見えるんですよ。お年寄りの肌が透き通るようなつやつや肌に見えてはおかしいので、キャラクターの年齢や性別、性格に合わせて相応しい色を選択する必要がありますよね。
それから、肌のような固有色以外にも、服や小物などの色を変えるだけでもキャラクターの印象はガラっと変化してしまいます。柔らかそう・硬そうといった触感の違いから、素材感の違いまで色で表現できてしまいます。なので、キャラクターにセリフを喋らせなくても、描写で説明しなくても、色が語ってくれる部分が多くあります。つまり、色というのは情報なんですよ。限られた線と描写表現の中で、色は情報として作品を語ってくれる重要な要素のひとつです。どんな色を乗せるかというのは、言い換えれば”どんなメッセージを伝えたいか”ということ。すべての色には役割があるんです。
Q4 色を使うプロとしてアニメ制作現場で活躍されていた経歴をお持ちですが、個人的にはどういった部分で色を使う面白さを感じていましたか
栗生色の名前の由来や歴史を調べていくととても面白いですよ。例えば江戸時代後期に「鼠色」が流行って粋とされた時期があったのですが、それは江戸中期に幕府が派手な色を禁止したことがきっかけになっています。これによって庶民が彩度の低い色に関心をもつようになったんです。この時、木などを用いて色々な鼠色がつくられていたのですが、これらの染料が手に入りやすかったという時代背景もあって大流行したのだそうです。
他にも、紫色が高貴な色とされているのは、布を紫色に染めるのに高度な技術が必要で、染料になる貝が貴重で手に入りにくかったということに由来しています。またお隣中国では皇帝の色とされている黄色も、日本では子どもっぽい印象がもたれます。時代や環境が異なることで、色の価値や意味は変わってくる。
ですから、時代劇のアニメを作ろうという時に、色を勉強している人ならば平民の着物に紫色は選ばないはずですよね。こうした色の知識は、画面や作品の説得力にも大きく貢献していると思います。
Q5 栗生先生は、在学中に検定を受検して資格を取得しています。アニメの現場で色の知識が必要だと感じて勉強をされたのでしょうか
栗生実のところ、色彩設計について勉強し始めたら面白かった、ということがきっかけなんです。 今は学生に教える立場になって、色の指導にあたっていますが「僕は色のセンスがないから……」と自身無さげに口にする子が多いんです。けれど、実際にはセンスだけでは不十分で、知識として学ぶ必要がある部分の方が多いんですね。黄色と青紫が補色関係にあるから、躍動感を出したい場合に使うとか、同系色はまとまって見えるからバランスがいい、といったことを感覚で理解している学生でも、色相の違いだけで色を考えてしまいがちです。
僕自身も学生の時に同じところでつまずいていたので、よく分かるんですよ。色相だけでは表現できる幅は非常に狭い。実際に“色”というのは、赤や青、緑といった色相だけでなく、明るさの明度、鮮やかさの彩度が関係し合って出来ています。基本的なことですが、それを知った時「色って面白い!」と思ってどんどん勉強をしていたら、私の場合2級に合格していた、ということなんです。学生が知らないのって、意外とこうした部分なんですよね。
Q6 御校では、色彩検定の準団体登録を行っていて、色彩検定3級を取得するための授業が行われています。具体的にはどんなことを教えていますか
栗生光が物に反射して目に入り色を認識している、という色の知覚に関するところはもちろん、個人的には色の名前についてもしっかりと学んで欲しいなと思って授業をしています。そして、アニメの制作に携わる学部として、何より配色の勉強に力を入れています。色にはそれぞれ役割があり、ものを表現する上で重要な要素であることはお伝えしました。それを前提にして、制作に関わる上で忘れてはいけないのは、すべての色は単色では使用されないということ。限られた色の中でアニメの世界観を作って行くためには、色の組み合わせで、いかに画面づくりをするかなんです。ひとりのキャラクターでも髪の色、目の色、服の色、小物の色などさまざまな色が共存しています。これらをただ好きな色、イメージにあう色だけで選んでいては画面の中で破綻し調和が取れなくなってしまう。
色彩検定では、PCCSというカラーシステムを学習するので、配色調和について理解することができます。授業では、そのPCCSに基づいたカラーカードをはさみで切って、公式テキストに掲載されている演習問題に貼らせています。そうすることで、色相、明度、彩度を複合的に考える力が身につくと考えています。
Q7 これからアニメ業界求められるのはどういった人だと思いますか。また、現場で活躍したいと思っている学生たちにどんなアドバイスを送りたいですか
栗生当校に入学してくる生徒のうち、アニメーターや監督、演出などアニメの制作現場で仕事をしたいと思っている学生は皆、絵を描くことが好きな子たちばかりです。
ただ、特に男子に多いのですが、色への苦手意識をもっている子も多く、色は勉強するものだという意識がまだまだ低い。デジタル化がどんどん進むなか、今まで専門職だった仕事がどんどんと統合されてきています。そういう意味で、業界では絵も描けるし塗りもできるというような何でもできるオールラウンダーな人材が求められてきているようです。
“描く以上のこと”が必要とされるなかで、色彩検定で学ぶ色に対しての知識と技術は大きな武器になりますよ。キャラクターの部分的なパーツの関係、周りのキャラクターとの調和、世界観における環境や時代、さまざまなものに影響し関係し合っています。現実にあるものをリアルに表現しようとするときも、この世に存在しないものを創造する時にも、まずは知識を得ること、そして身の回りのことを常に注意深く観察することが大切だと思っています。それが表現の幅に直結するはずです。
色彩検定・過去問題
代々木アニメーション学院
創立1978年。世界初のアニメ専門校としてアニメーターの育成を目的に設立された。現在は東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台、広島、金沢と全国8か所に校舎を構える。声優をはじめ、アニメ監督やアニメーター、マンガ家、イラストレーターなど、様々な分野で活躍する卒業生を輩出している。アニメーターなど、色の知識が不可欠な職種を目指す学生のために色彩検定対策の授業も行っており、在学中に受検する学生も多い。
教務部(運営企画部) 講師 栗生剛志(くりう たかゆき)
「代々木アニメーション学院」講師。同学院を卒業後、アニメ制作会社に就職。セル画に彩色する「仕上げ」として、有名アニメーションの制作に携わっていた。現在は、同学院のアニメ・ゲーム学部「アニメ監督・演出科」と「アニメーター科」にて、色彩学の授業や色彩検定(3級)対策の授業を受け持っている。自身は在学中に2級までを習得。
色彩検定に挑戦してみよう!
文部科学省後援の技能検定試験「色彩検定」は、誰もが「理論に裏付けられた色彩の実践的活用能力」を身につけることができる資格として広く知られている。
難易度や学習範囲によって3級から1級までの3段階が設置されており、どの段階からも受検は可能。3級と2級は年に2回、1級は年に一度、試験が行われるが、1級と2級、3級と2級は同じ日にまとめて受検することもできる。
高校、短大、大学、専門学校の学生を中心に、インテリア、ファッション、プロダクト、グラフィックなどの現役のデザイナーや一般的な職種の人たちまで、社会人層にも幅広く受け入れられている。色彩についての知識は、仕事でもプライベートでも活かすことができるのも人気の秘密かもしれない。色を体系的に学ぶひとつのきっかけとしてぜひ活用して欲しい。
2016年度 色彩検定 受検者データ
級 | 1級 | 2級 | 3級 | 合計 |
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志願者(人) | 1,803 | 12,161 | 27,292 | 41,256 |
合格者(人) | 473 | 6,993 | 19,152 | 26,618 |
合格率(%) | 29.77 | 62.84 | 75.25 |
※合格率は対実受検者 |
2017年度 冬期 色彩検定
級 | 3級 | 2級 | 1級 |
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受検資格 | 何級からでも受検可能 | ||
試験方法 | マークシート方式 | マークシート方式(一部記述式) | 【1次】マークシート方式(一部記述式)【2次】記述式(一部実技) |
試験時間 | 70分 | 80分 | 【1次】90分 【2次】90分 |
検定料 | 7,000円 | 10,000円 | 15,000円(1次免除者も同じ) |
受検地 | 北海道から沖縄まで各地域の公開会場 (1級2次試験のみ札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の6エリア) |
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試験日 | 11月12日(日) | 【1次】11月12日(日) 【2次】12月17日(日) |
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申込期間 | 8月1日(火)~10月9日(月) | ||
申込方法 | インターネット・書店・郵送 |