内閣府認定 公益社団法人 色彩検定協会のブランドが刷新されました。今回、大きく印象を変えたロゴマークですが、ロゴだけでなくWebサイトや各種ツールなど、トータルブランディングとして様々なブランド計画が実施されています。

21世紀を迎えて久しい今、新しい時代における色彩検定協会の在り方やメッセージを新たなブランディングとして訴求するためのプロジェクト。そのプロジェクトにおいての戦略を構築し、新しいデザインを創り出した家田 律さん(以下、敬称略)にブランド戦略構築に至るまでのお話を伺いました。

色彩検定協会の今と未来をどう考えるのか?
企業活動のコンセプトを抽出することで、ブランドができあがる

今回の色彩検定協会のブランド戦略を
手掛けられた経緯を教えてもらえますか?

家田もともとは「ブランディングにおける色彩の役割」といったテーマで、色彩検定協会のセミナーなどで講師として登壇させていただいておりました。2009年頃からだったと思います。そして昨年、新しい理事長に代わられて、トータルブランディングを含めた新しい色彩検定を訴求していきたいというお話をいただいたのがきっかけです。

ただ、色彩検定協会のプロジェクトに限らず、ブランド戦略を構築するにあたっては、まずはコンセプトへの落とし込みを行います。その際、最終的にデザインするロゴマークや名称は重要ではありますが、それ以前にブランド・エクスペリエンスをしっかりと考える必要があります。ユーザーはブランドの経験を通じて、その企業に何らかの印象を持つわけです。したがって、良い経験、良いイメージがブランドデザインにも落とし込まれていなければなりません。

しっかりとしたコンセプトに基づいたブランディングを行うことで、ロゴマークなどからブランドが広がっていく。また、ブランドという観点から事業戦略や組織戦略を構築していくものなのです。すべてのステークホルダーに対してコミットできるような施策や体制を考えることこそが重要なことなのです。そういった点を色彩検定協会の担当者にも話をして、プロジェクトを開始しました。

そもそもブランドとは何かを考えることから始まるのですね。

家田そうです。ブランドとは“独自性を与える有形・無形の特徴とその総和”などと表現しているのですが、要するに、単にロゴをデザインすれば良いということではありません。その企業の独自性とは何か? 

また、その独自性をどのように伝えるのか? 企業としての強み、コア・コンピタンスは何なのかを調査・分析することで、ブランドのコンセプトやメッセージ、タッチポイントにおけるコミュニケーションなどに繋がっていきます。こういったことに取り組んだうえで、初めてロゴデザインなどに落とし込めるわけです。新しいロゴをデザインして、それをペタペタと貼り付ければ良いというものではない、というところから始めるのです。

ありがちな話で「まずデザインはどうなのか?」とか、「WebサイトやSNSはどうする?」といった話に走りがちですが、要はコンセプトがしっかりとしていない状態では、そういったものを作ったところでゴチャゴチャになるだけ。コンセプトをしっかりと構築したうえで、必要であればロゴやWebサイトなどをデザインします。

特にWebやSNSは、オウンドメディアであるという認識が必要で、そのためにもブランドストーリーをきちんと作ったうえでなければメディアの運営もバラバラとしたものなってしまう。また、外部メディアに広告などを出すにしても、一貫したストーリーがなければ、その場しのぎの施策を続けるだけになってしまいます。

ブランディングの実践的な手法とは

調査・分析においては、具体的にどのような施策を取られるのでしょうか。

家田調査・分析にあたっては、現場スタッフを集めてワークショップを開いたり、マネジメント層へのヒアリングなども行ったりします。ワークショップは、いわゆるブレスト的なもので、その企業で働いているスタッフの方々に「自分たちの今は何か?」そして「未来は何か?」を議論します。分析手法にはいろいろなものがありますが、今回の事例でいえば、ブランドポジショニング分析を利用しています。自分たちの今や未来というキーワードに基づき、ポストイットで各人のイメージを思いつくままに書き出してもらい、それを「役割」「信頼性」「情緒的価値」「ブランドの拡がり」のフィールドに分類しています。

さらに、それらを「独自性」「優位性」「必然性」という3つの構造に分類していきます。こうすることで、自分たちの強みが見えてくる。そして、この3つの構造において、上位にある「独自性」および「優位性」こそが、その企業に独自性を与える特徴であり、メッセージとして訴求すべきテーマとなるのです。優位性とは、業界の中でリーダーシップを取れる要素ですが、現時点は優位性かもしれないが、いつ他社に抜かれるか分からないものです。他社が模倣することができない自分たちのオリジナリティはどこにあるのか? それが独自性であり、それを掘り下げて考えていくのがワークショップの狙いです。

その他には、どのようなことをするのでしょうか。

家田ブランドポジショニング分析などによるキーワードでの分析のほかに、その企業が持つイメージを視覚的に分析する手法も利用します。ビジュアルブランドポジショニングと呼んでいますが、その企業のイメージをたとえばスポーツや食べ物、動物など、視覚的に分かりやすいイメージで表すとどうなるのかを議論します。もちろん、その際に「今と未来」に対するイメージを考えていきます。たとえば、「高品質で丈夫で耐久性が高い高級車ブランドと言えば?」などと聞けば、ブランド名もそうですが、車自体のデザインやエンブレムなどで思いつく製品が出てきますね。

それは消費者が持っているイメージですが、当該企業が実施したブランディング戦略の訴求結果でもあるわけです。これをメッセージなどの言葉で表現しようとすると、膨大な量の文章が必要になります。ところが、画像や映像といったイメージであれば、瞬間的に理解される。つまり、イメージが持つ情報量はときに文字以上の力を持つわけで、自社のイメージを具体的な事例として落とし込んでいくことで、後々のVI設計にも絡んでくることになるのです。これは、単に企業をイメージ化するとか、ムードを表現するといった話ではなく、コンセプトに近いレベルで表現されるものなのです。

色彩検定協会のブランドプロジェクトはどのように開始されたのか

色彩検定協会のブランド計画においては、具体的にどのような
コンセプトづくりが行われたのでしょうか。

家田昨年夏ごろに、とりあえずのビジョンやタグライン、キービジュアルなどを探るために、ワークショップや理事長を始めとしたマネジメント層へのヒアリングを行って、キーワードを抽出する作業を行いました。今現在の協会の在り方から未来はこうあるべき、といったテーマで社員の方々が考える企業像を洗い出しました。

分析手法は、先ほど述べたような手法を使って社会的価値とか個人価値、情緒的価値など、さまざまな点でキーワードを出していただき、またビジュアルとしてのイメージもさまざまに検討したうえで、コンセプトへと落とし込んでいきました。それが「色の楽しさ、すばらしさを伝える能力を育成する」機関であるという世界観であり、まずはこのコンセプトを共有したわけです。

もちろん、分析結果からコンセプトとしてのメッセージはいくつか提案しましたが、最終的にスタッフの方々が共感したものが選ばれました。さらに言えば、色彩検定協会は公益法人であり、一般企業とは少し立場が違います。公益性ということを意識しなければならないという点から、色彩検定協会とは検定試験を実施する教育機関であると同時に、その事業を実施する先には「色の楽しさや素晴らしさ」という価値観の創造に寄与するものであることを実感することが大切だと考えたのです。

新たなロゴマークのデザイン制作に関しては、
どのようなアプローチをされたのでしょうか。

家田色彩検定協会は、1976年発足。すでに40年以上活動している組織で、「色彩検定」というブランドもすでに浸透していますが、元々は全国服飾教育者連合会という組織名だったのです。現在のロゴに付帯している「A・F・T」は「All Japan Fashion Teachers」なんですね。

そういった経緯があって今でもこの略称を使っている。すでに実体とはある意味乖離しているのですが、受検者などにとっては認知されている記号でもあるわけです。そこで、今回のプロジェクトにおいては、この「A・F・T」を活かしつつ、新たなメッセージを込めていこうと考えました。ただ、Fashionという用語を使う限り、どうしても業界的な偏りを感じてしまいます。したがって「A・F・T」という略称は変えずに、内容を変えることを提案したのです。

「A・F・T」となる英文を相当数考えて提案しました。最終的に選んでいただいたのが、「Advance Forward True Colors」になりました。全体としては「未来を拓く真の色」といった感じになりますが、「True Colors」はダブルミーニングなのです。色彩検定協会として「真の色」を考えることはもちろんですが、True Colorsには「真の姿、本当の自分」という意味もあり、そういった意味合いを含ませることで、新たな色彩検定協会のあるべき姿を表現したのです。

ここまでの作業でどのくらいの期間をかけられたのでしょうか。

家田2か月くらいですね。ワークショップなども含めて。こういう作業はあまりダラダラやるものではないんですよね。一定の期間で集中して作業することで、クライアントのモチベーションも下げることなく進められるのです。ただ、ここまでの作業では、まだコンセプトやキーワードの選定であって、ビジュアルデザインには至っていないのです。

もちろん、この段階でもキービジュアルというか、グランドデザイン案のようなものはお見せしています。文言だけでなく、ビジュアルを付けることで、クライアントのイメージも膨らんでいくのです。ただ、冒頭でも申し上げましたように、やはりコンセプトをしっかりと構築したうえでなければ、ビジュアルに落とし込むことはできないわけです。

色彩検定協会のブランド構築におけるVI設計とは

ビジュアルデザインを進める段階では、
どのような提案をされたのでしょう。

家田認識として共有したコンセプトを基に、ブランドデザインに使う基本要素などを選定したり、コミュニケーション計画などを作ったりしていきます。ロゴマークに関しても、具体的なビジュアルへと落とし込んで提案していきました。「A・F・T」というマークだけでなく、「色彩検定」というワードに関しても、既存のものは年代を感じるような堅さがありましたが、新たなイメージとして柔らかさや可読性を考慮した書体選定も行っています。「内閣府認定」や「文部科学省後援」といったワードも信頼性という意味で重要ですので、ロゴマークとどのようにカップリングすればよいのかをいろいろなパターンで検証し、提案しました。最も重要だったのは、やはり「色」ですね。今回のブランドプロジェクトの芯でもありました。

ロゴマークのデザインも含めたVIに関しては
どのように考えられたのでしょう。

家田一般企業であればコーポレートカラーの選定になりますが、色彩全体に関わる組織ですから、「色」そのものをいかに表現するかが課題でした。提案したのは「太陽の光」です。色彩の基となるのは光です。自然色の基となるのは太陽の光です。ご存知のように太陽光はすべての色を含んでいます。分光処理によってスペクトル分布すれば、いわゆるレインボーカラーが出てきます。最終的には、このレインボーカラーをロゴマークとして表現することを考えたのですが、スペクトルカラーをそのまま使うと、かなりドギツイ色になります。そこで、より柔らかな色を複数選び、ブランドカラーとして提案しました。

また、VIコンセプトとしては「太陽」をイメージしたわけで、「サークルレインボー」というコンセプトを提案し、色相環のようなものをモチーフとして、さまざまなデザインパターンへと落とし込んでいったのです。サークルをモチーフとしたことから、「A・F・T」などの書体にも丸みを帯びたものを想定しましたが、「A・F・T」に関してはもちろんオリジナルのロゴタイプとしてデザインしています。

最後に今回の事例を踏まえて、ブランディングとは
何なのかをお聞かせいただけますか。

家田プロジェクトにもよりますが、基本的にはロゴマークなどのデザインだけでなく、各種ツールもコンセプトに応じたデザイン変更を提案します。今回の場合では、合格証書や資格証などですね。検定試験に合格するというモチベーションを少しでもあげるようなデザイン的なアプローチがあります。そのほか、色彩検定に関わるいろいろなグッズにも、新しいデザインコンセプトを展開してくことも提案しています。受検生の方としては、20歳前後の女性が圧倒的に多いんです。そういった世代の女性に分かりやすく刺さるようなデザイン展開が方法論のひとつとして考えられます。

もちろん、それが全てではなく、あくまでも方法論のひとつです。今回も、実際には他のデザイン展開も提案しています。正解はひとつではないということですね。ブランディングという視点で考えた場合、如何に自社商品やサービスの独自性を訴えられるかがポイントではありますが、溢れるほどの情報がある現状では、ユーザーは瞬間的に判断するということも踏まえなければなりません。ロゴマークを見たか見ないか、良いイメージを持つかどうか。

瞬間的なYes/Noが判断されるのです。昨今、いろいろな商品がコモディティ化している中、他社との差別化はとても重要なポイントになりますが、瞬間的な判断にどう対応するのか? それが大きな課題ですね。最近のバッグなど良い例ですが、ブランド製品はエンブレムを付けている。ユーザーはそのエンブレムでまず判断するわけです。もしくは、コモディティ化している現状ではノンブランドや価格だけで選んでしまう可能性も高い。それでも選ばれるだけのブランド力を如何にデザインするかが我々の仕事であるわけです。

逆の例としてはコンパクトデジカメがあります。いずれの製品も見た目では独自性がよく分からない。どれも似た印象でしかない。機能性であるとか、製品自体が持っている独自性がデザインに表現されていないため、ユーザーは主に価格で判断してしまうわけです。ブランディングにおいては、プロダクトデザインでももっと中味がデザインとして表現されなければいけないと、よくデザイナーなどと話をしています。最終的には、その企業が存在するための世界観を構築して、お客様とのタッチポイントを想定したうえで、ブランドストーリーを考えることが重要なのです。

家田律 氏

1956年愛知県名古屋市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン専攻を卒業後、広告代理店等に勤務した後、1985年にLandor Associatesに入社。日本航空など数々の大手企業のプロジェクトに参画。10年ほど前から色彩検定協会でセミナー講師を務める。現在は独立し、フリーランスとしてさまざまなブランディングプロジェクトに参加している。

色彩検定に挑戦してみよう!

文部科学省後援の技能検定試験「色彩検定」は、誰もが「理論に裏付けられた色彩の実践的活用能力」を身につけることができる資格として広く知られている。難易度や学習範囲によって3級から1級までの3段階が設置されており、どの段階からも受検は可能。3級と2級は年に2回、1級は年に一度、試験が行われるが、1級と2級、3級と2級は同じ日にまとめて受検することもできる。

高校、短大、大学、専門学校の学生を中心に、インテリア、ファッション、プロダクト、グラフィックなどの現役のデザイナーや一般的な職種の人たちまで、社会人層にも幅広く受け入れられている。色彩についての知識は、仕事でもプライベートでも活かすことができるのも人気の秘密かもしれない。色を体系的に学ぶひとつのきっかけとして、ぜひ活用して欲しい。また、2018年冬期より「色覚の多様性に配慮した誰もが見やすい色使い」を学ぶ「UC(色のユニバーサルデザイン)級」がスタートする。webデザイナーなど多くの人の目に触れる制作物に携わる人にオススメする。

■受検者データ(2017年度 受検状況)

1級 2級 3級 合計
志願者(人) 1,689 11,182 25,227 38,098
合格率(%) 35.6 64.9 73.6 ※合格率は対実受検者

■2018年度 色彩検定

1級 2級 3級 UC(色のユニバーサルデザイン)
2018年冬期 第一回開催
受検資格 何級からでも受検可能
試験方法 1.マークシート方式(一部記述式)
2.記述式(一部実技)
マークシート方式
(一部記述式)
マークシート方式 マークシート方式
(一部記述式)
試験時間 【1次】90分 【2次】90分 80分 70分 60分
検定料 15,000円(1次免除者も同じ) 10,000円 7,000円 6,000円
受検地 北海道から沖縄まで各地域の公開会場
(1級2次試験のみ札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の6エリア)
UC級は第一回のみ上記6エリア、第2回より全国の公開会場
試験日 【1次】11月11日(日)
【2次】12月16日(日)
※1級は冬期のみの実施
【夏期】6月24日(日)
【冬期】11月11日(日)
12月16日(日)
申込期間 8月1日(水)~10月4日(木) インターネット申込:
〜10月11日(木)
【夏期】3月12日(月)~5月17日(木) インターネット申込:〜5月24日(木) 【冬期】8月1日(水)~10月4日(木) インターネット申込:〜10月11日(木) 8月1日(水)~10月4日(木) インターネット申込:
〜10月11日(木)
申込方法 インターネット・書店・郵送