元欅坂46のメンバーで、武蔵美卒の佐藤詩織さんと、“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う連載企画。3回目は、佐藤さんも必ずチェックするという、展覧会や美術展の楽しみのひとつであり、進化を続ける“ミュージアムグッズ”をピックアップしました。
そこで注目したのが、東京都美術館で開催中の「マティス展」の特設ショップとグッズです。ショップを運営する「East」の代表・開永一郎さんに、コンセプト、グッズや空間作りに込めた思いなど、さまざまなことを教えていただきました。
鑑賞後もときめきが続く、マティス展の特設ショップへ
“色彩の魔術師”と呼ばれたフランスの画家アンリ・マティス。東京都美術館で開催中の「マティス展」は、日本で約20年ぶりとなる大回顧展。世界屈指のマティスコレクションを誇るパリの「ポンピドゥー・センター/国立近代美術館」から約150点の作品が来日しています。
「油彩画や版画、彫刻などマティス作品をこれほどまとめて見たのは今回が初めて。本でしか見たことのなかった作品や、晩年の切り紙絵もたくさんで見ごたえたっぷり。特設ショップにも期待が高まります」と佐藤さん。
マティス展の特設ショップを手がけるのは、「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」「特別展アリス ―へんてこりん、へんてこりんな世界―」など、これまで数々の展覧会で、商品の企画・デザイン・制作を行ってきた「East」。内装も担当したというショップには、鑑賞のときめきがそのまま続く空間が広がっていました。
コンセプト「Life with MATISSE」に込められた思い
佐藤 ショップの入口にも掲げられている、「Life with MATISSE(マティスを感じる暮らし)」というコンセプトがとても素敵ですね。どのような経緯でこのコンセプトになったのでしょうか?
開 画家マティスが繰り返し自室内や、お気に入りのアイテムを描き続けたこと、そして完成品も、未完成品も含めて、自らの作品を生活空間に飾っていたことから着想を得ました。
佐藤 ショップの空間作りにも、コンセプトが反映されていますか?
開 マティスの生活していた場所、時代に思いをめぐらせています。例えばパリ、南仏、20世紀初頭から中頃、そのことを大切に考えました。
佐藤 Eastのサイトに載っていたマティス展の特設ショップの求人案内に「世界初の、世界一のマティス展ショップをつくりたい。」とあったのもとても印象的でした。
開 マティスの作品は、欧米で著作権が残っていますし、ご遺族の気持ちが強くグッズ化がとても厳しく管理されている画家として有名です。そのため、これまでNYやロンドン、そしてパリにおいても、マティスの回顧展の際に、本格的なミュージアムグッズが揃ったショップは作られてきませんでした。「世界中のミュージアムが作りたかった(はず)」「世界中のミュージアムファンが見たかった(はず)」。そんなショップを世界に先駆けて実現したかったのです。
次に「世界一の」意味は、その厳しいマティスのグッズを作るには、世界一本気で、粘り強く、諦めずに交渉を重ねることを指しています。
佐藤 今回のマティス展に来られた方たちは、貴重な経験をしているんですね。
開 そんな積み重ねの結果として生まれたこのショップが、開幕から来館者の皆さんに、とても喜んでいただけていることを、毎日、肌でも、数字でも実感できる現状が今日も僕らを励まし支えてくれています。
佐藤 マティスだけでなく、作品を元にグッズを制作することは、一から作るオリジナルグッズとは違った苦労や配慮も多いと思います。
開 ミュージアムグッズは、デザイングッズや、アイデアグッズ、また一般的な生活雑貨とは、近いようで遠いものではないかと考えてきました。その小さくて大きな違いを、理屈でなくお伝えできるようにしたいと思っています。
そして、そのことには、来館者の皆さんの意識がいかなくてもよいように、最大限の工夫を重ねてきました。例えて言うと、「余計なことを一切していない」といいますか、「余計なことを一切感じさせないグッズ」というのが僕たちの仕事の役割なのではないかと思っています。
さまざまな人のお気に入りが見つかるグッズの多彩さ
佐藤 商品数がとても豊富なうえ、使用されている作品の幅広さにも驚きました。Tシャツやトートバッグなどには切り紙絵が用いられていますが、油彩でなくデザイン的な作品を意識的に取り入れているのでしょうか?
開 まさにその通り「相性」のようなことはとても大切に考えます。そして、それらは製作技法、数量、時間、価格、すべてをそろえていないと、ミュージアムグッズとして、誰かに喜んでいただけないので、とても難しく、苦労するところでもあります。
佐藤 トートバッグはサイズ展開が多彩ですよね。サイズや素材に応じて作品が異なり、デザインもそれぞれで、こだわりを感じました。
開 こだわっているといいますか、大切にしているのは、作り手の都合、例えば、効率、能率で、判断しないことです。「最善」とはなんだろう?「正しい」とはなんだろう?答えはひとつではありませんよね、だからこそ常にその答えを意識して追いかけ続けるように努力しています。
佐藤 Tシャツは白地のものがあったり、ボディカラー有りの商品もあったり。制作するとき、どんな点を重視されましたか?
開 製法やデザインを決める要素はトートバッグと同じですが、Tシャツは実際に身につけていただいたときに嬉しいモノになるように、また、年代、性別を超えて、すべての来館者の皆さんに喜んでいただきたい。それがいちばんの望みですが、それがいちばん難しい点でもあります。
でも世界中を探しても、こんなに幅広い方たちが手に取ってくださる衣服は少ないのではないでしょうか。日々、ショップでそれを実感し、とても嬉しく思うのと同時に、会期後半までこの種類の在庫を保てるようにがんばりたいと思っています。実はそれがとても難しいのですが。
佐藤 ショップを入ってすぐ、ポストカードがずらりと並ぶディスプレイにも圧倒されました。ポストカードと組み合わせて使える、専用マットにもワクワクしましたし、額装+マット+ポストカードのセットは、絵画を買うような楽しさがありますね。
開 過去にも専用マットを販売したことはありましたが、この規模でご用意したのは初めてです。ポストカードというもっとも手軽で、もっとも基本のミュージアムグッズを、これまで以上に生活の中に取り入れて、「Life with MATISSE」を感じていただけたら。
佐藤 ポストカードのコーナーで気になることがもうひとつありまして。ディスプレイに「Lamp Gras」を使用していると聞きました。
開 グラのランプは、ル・コルビジェも愛用していた、当時人気だったものです。その無骨なデザインには機能という美があります。それはマティスが写った写真に残る普段着的なランプの使い方からも感じます。ショップの入り口となるポストカードの売り場に設置した4本は、フランスでグラを復刻させたメーカーの代表に直接連絡して事情を話し、今回のために送っていただきました。
ショッパー、パッケージなどから感じるメッセージ性
佐藤 今回、マティス展の特設ショップを訪れて、全体を通して、大量生産にはない魅力を感じました。素材選び、ものづくりには、どんなこだわりがありますか?
開 これは、ちょっと答えきれないです(笑)。ただ根本は、繰り返しになりますけれど、さまざまな条件をひとつ残らず満たすことができて、初めて多くの人たちに喜んでいただけるので「丁寧に大切に」がいちばんかもしれません。
佐藤 べたな質問ですが……、いちばん人気の商品はなんでしょうか?これだけの品揃えなので選ぶのに迷ってしまいそうです。
開 単純に数量で言えばポストカードですが、今回、感じているのは、このマティス展のショップが、これまで僕らが20年以上もの間、作り続けてきたミュージアムショップで追いかけてきたその先にあり、それに対する評価がいろいろなことに表れているように思います。
佐藤 ショッパー、Tシャツや手ぬぐいの商品オビ、缶バッチの台座なども、とっておきたくなるデザインですよね。
開 例えば、《オセアニア》という作品の、七宝のジュエリーの入る箱に貼られたシールの印刷方法は、白い紙にカラー印刷をするのではなく、色紙にオセアニアの全体図をプリントしています。だから、白い部分がヌケているのではなく盛り上がっています。
とても小さな商品パッケージのその細かい違いに、一体、どれだけの方々が気付いてくださるでしょう。でも、それでいいんです。すべてのアイテムのすべての箇所をそうして作ることしか、ショップ全体を通じてメッセージをお伝えする方法はないと思っているのです。
佐藤 セレクトアイテムも充実していますが、どのような基準で選ばれたのですか?
開 マティスが見ていた「色」や「カタチ」は、その時代の空気のようなものですよね。来館者の皆さんにも、その空気みたいなものを擬似体験してもらえたらと思っています。それが、いつの日か、アイテムが生まれた場所に行くきっかけになったら素敵だと思いませんか。そんなことを想像しながら選んでいます。
佐藤 それでは最後に教えてください。マティス展のグッズからは、どんなことを感じ取ってもらいたいですか?
開 おひとりずつ、お好きなように楽しんでいただけたらそれがいちばんですが、マティスは、日本で大きな展覧会が約20年開催されなかったこともあり、最近それほど話題になることも、熱烈なファンが増えていくこともなかったように感じます。
そんな中、世界で数カ所でしか開催されない大回顧展において、日本の会場だけ、このミュージアムショップが付属しています。展覧会は8章までですが、展示室内に作られたミュージアムショップを、第9章のように感じてもらえたら嬉しいです。
専用マットも!選ぶ楽しみに満ちた約50種のポストカード
約50種類そろうポストカード。専用マットはポストカードの裏に記されたアルファベットA~Gに対応。長方形、正方形、縦横の比率など作品にぴったりと合う形・サイズに窓がくり抜かれています。
佐藤さんが選んだポストカードは、マティスが繰り返し描いたヴァンスのアトリエシリーズ最後の作品《赤の大きな室内》。「E」のマットを組み合わせてみると、作品がぐっと引き立ちます。/ポストカード 165円(税込)、専用マットのカラーは全5色・A5 350円(税込)、インチサイズ 400円(税込)
マグネット、ガチャガチャetc.マティス展の注目グッズ
マグネット
ミュージアムグッズの定番のひとつ、マグネットも油彩画あり、切り紙絵ありと種類豊富。ぱっと見、同じ大きさのようですが、よく見るとサイズが異なります。余計な余白は付けたくないとの思いから、作品をそのまま小さくしたようなマグネットに。/660円(税込)
カフェオレコーヒーバッグ
マティス作品に登場しそうなカフェオレボウルに見立てたパッケージには、京都のオオヤコーヒー焙煎所が本展のために焙煎・ブレンドしたカフェオレ用のコーヒーバッグをイン。作り方の解説付きで、マティスに思いをはせるおいしい時間がかないます。/390円(税込)
ポスター
展覧会の6章「ニースからヴァンスへ」に展示されている《赤の大きな室内》や《マグノリアのある静物》、ロバート・キャパ撮影のマティスのポートレートをデザインしたものなど、ポスターのバリエーションもいろいろ。どれもインテリアに取り入れやすいサイズ感や雰囲気で、展覧会の余韻により浸れそう。/1,800円~(税込)、額装は別途
PINS
マティスが晩年に展開したハサミで描く切り紙絵による作品をデザインした全20種類のPINSは、特設ショップの出口に設置されたガチャガチャで。なにが出るかは、そのときのお楽しみですが、この日の佐藤さん。いちばんのお目当て《コドマ兄弟》を、たった1回のガチャでゲットしてしまいました。みなさんもぜひ挑戦を。/1回500円(税込)
画像左)ブロンズみたいな黒蜜のかりんとう
ブロンズ作品をデザインした紙管のパッケージの中には、どこかブロンズ像に見える黒蜜のかりんとうが。パッケージは食べた後に再利用できるよう丈夫な作りにしているそう。かりんとう個包装10本入り。/860円(税込)
画像右)缶バッジ
大型の切り紙絵をもとにした《オセアニア、空》《オセアニア、海》。作品に描かれた鳥や魚、植物などをリネン生地に刺繍したバッジのほか、七宝焼きのアクセサリー、トートバッグ、クッションカバーなどを展開。/990円(税込)
画像左)カットアウトカード
こちらも《オセアニア、空》《オセアニア、海》から。紙には作品の一部を原寸大でプリント。薄く細い線に沿ってハサミを入れていくと、マティスの創作を追体験できるかも。カットしたら、マティスのように部屋に飾ってみて。/660円(税込)
画像右)ミニチュアパネル
約10点の油彩画がミニチュアのパネルに。パネルの裏にフックが付いているので、壁にかけて飾るもよし、手軽にラックに立てかけるもよし。コンパクトなサイズで、インテリアのアクセントにもぴったり。/7900円~(税込)
※掲載の商品は品切れの場合があります
※商品は、再入荷のお知らせ、取り置き、通販は行っていません
※今回掲載している商品は、2023年6月12日時点で販売されていたものです
マティス展 DATA
会場 | 東京都美術館 企画展示室 |
会期 | 2023年4月27日(木)~ 8月20日(日) |
休室日 | 月曜日、7月18日(火) ※5月1日(月)、 7月17日(月・祝)、 8月14日(月)は開室 |
開室時間 | 9:30~17:30、金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで |
観覧料 | 一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円 、高校生以下は無料 |
問い合わせ | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
アクセス | JR上野駅、公園口より徒歩7分 東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、7番出口より徒歩10分 京成電鉄京成上野駅より徒歩10分 |
公式サイト | https://matisse2023.exhibit.jp/ |
備考 | ※チケットの購入及び入場方法は、最新情報を公式サイトでご確認ください ※特設ショップは展覧会観覧者のみ入店可能 |
2023.06.29 Thu