今回の「ザ・対談」は、年末年始を股にかけて掲載のスペシャル版。当サイトで連載中の白根ゆたんぽさん、同氏とユニット「YUTOONZ」を組む今井トゥーンズさん、二人の気鋭イラストレーターを迎えてお送りします。かつて、某誌の恒例企画となっていながらオトナの事情で中断していた歳末放談が奇跡の復活! 従来の「ザ・対談」と比べるとユルユルですが……年末進行も終わって忘年会モード→新しい年を迎えておとそ気分のみなさま、イラストレーション業界における「2.0」問題をツマミにお楽しみください。
第1話 2006年トピックス・ベスト3(前編)
12月中旬、某日──浅草・雷門前。年末進行の渦中を抜け出し、二人の絵描きが年の瀬の下町で待ち合わせ。観光客でにぎわう仲見世をひやかし、まずは浅草寺にお参り。その後、目指すはどじょう鍋! 某誌企画が頓挫してからも「これを食べなければ一年が終わらない」と希求した“どぜう飯田屋”の暖簾をくぐる。ネギとゴボウ山盛りの鉄鍋をつつきつつ、ビールのほろ酔い+山椒のピリ辛で今年を振り返ってみよう。
浅草・雷門前にて、白根ゆたんぽ(左)と今井トゥーンズ(右)
俺が「Amazon化」する社会?
──今年のトピックス・ベスト3からお話を始めましょう。まずは第3位からお願いします。
今井●僕は個人的に、いつものペースで仕事をしているようで、何もやってなかったような実感の一年だったのが第3位。結婚だの引っ越しだので貯金がどんどんなくなって……振り返ればプライベートが忙しかった印象ですね。
白根●ちゃんと貯金してたんだ?
今井●たいした額じゃないけど、一応ね。そういうちゃんとした自分に変わって、無駄遣いしないようになったのが今年のいいことかな。家族ができるとちゃんとするもんですね。でも、Amazonからはひっきりなしにモノが届いてる。なんか、気がつかないうちにワンクリックしてるみたいで(笑)。
──まさに“自分内ワンクリック詐欺”ですね。
今井●うん。だから、いらないモノをどんどん処分している。まんだらけとソフマップに売って、それでワンクリックの穴埋めを(笑)。
──白根さんは?
白根●僕の第3位は“俺がAmazon化”ですね。
今井●ん?
白根●たくさんモノを買うのも同じなんだけど……いま、ほとんど仕事の依頼がメールで来て、返信して、数回のやりとりでイラスト描いて送るとギャラも振り込まれる。そういう生活を続けていると、たまに編集者が俺を通販感覚で使ってるんじゃないかと(笑)。
今井●イラスト界のIT革命だねぇ(笑)。
白根●Amazonで買い物すると、すぐ確認メールが来るでしょ? こっちも即レスしないと問いつめられたり、仕事が流れたりするんですよ。
今井●サポートセンターも兼ねて「3日営業日以内に送ります」って(笑)。
白根●Amazonだったら、在庫なければないで諦めがつく。仕事の場合も、忙しいけれど期限を調整すればなんとか……という場合があるでしょ。でも「そこをなんとか」というのがない。大概「じゃあいいです」って。
今井●発注するほうも時間がないんだね。ほんと商品だ。
白根●だから編集・発注側の心が読めないことが非常に増えた。だけど、販売する側って通販でモノを買う人の気持ちまではわからないじゃないですか。配送のとき「この人、なんでこんなランジェリー買いたいのか?」と思いつつも(笑)、心をマシンと化して段ボールに詰めてるわけでしょ。
今井●うんうん。数年前と話題がすごく違うな(笑)。
白根●もはや未来に突入して、IT時代に翻弄されてますよ。
YUTOONZのライブペインティング同様、息の合った鍋のつつき方!
いかに「言い訳」は芸になるか?
──では、第2位を。
今井●僕は今年、来年のことを考える仕事が多かったんですね。いつ創刊するのかまだ未定だけど、ある新雑誌に映画化前提のマンガを連載する企画が進んでて。それを進めながら1年過ごしていたので、話がハジけたらさびしいなあ。スタッフがワイワイ言っても、スポンサーがNGだったらなくなっちゃうから。鬼が笑うみたいなことしかやってなかったのが第2位。
白根●僕は“結果より過程”化ですね。納品が遅れていいわけではないけど、以前は遅れても結果、作品がよくてギリギリ間に合えばオールOKって空気があったのが、最近はない。むしろ、途中の過程が大事にされてて、対応なり返事なり、ちゃんとしないと次につながらない。周りの人が想像以上に真面目なのかな? というか、みなさん自分のペースを優先するようになってきてる気がします。
今井●性格も優先するよね。
白根●だからいま、年末進行が厳しくて……子供のミルク代のために断らずに全部受けてみたら(笑)すごい大変になっちゃったんだけど、そんなバタバタのなか来年の仕事を浮き足立って取りにくる人とかいて。ずいぶん前倒しで約束取り付けようとするな、この人……とか思って裏を調べると、翌日そこの編集部の忘年会とか(笑)。
──そこまで裏取りしますか!
白根●下請けの身だけど、だてに10数年やってるわけじゃないですよ。Amazonでいえばロングテール商品ですから(笑)。
──たしかに、締め切りのサバが読めなくなってきたとは実感します。
白根●うん。時間の調整がきかないのと、途中でどういう対応をとったのか、それが仕事にひびく。締め切り遅れて許されるのは、来年はもう安斎肇さんだけですよ(笑)。
今井●ああ……『タモリ倶楽部』でネタにされるぐらいじゃないと。
白根●あそこまで“芸”になって笑い話になればいいけど、普通はならないでしょ。
今井●周りに余裕がないんだね。なんでも回転が速いから。
──そういえば昔、今井さんにイラスト頼んだとき、電話で「できました」と言うから受け取りにいったら、それから3日待ったことがありましたっけ。
今井●すみません……ITのない良い時代でした(笑)。
白根●今井くんの家だけ、時空がゆがんで時計がゆっくり動いてたんだよ。
今井●あの頃は、とんでもない作業環境で……猫が暴れてコンセントが抜けて、データが全部消えちゃって。そう言っても、嘘にしか聞こえないんだけど。
白根●でもマシンのトラブルって、ほんと「このタイミングだと絶対嘘ついてると思われるじゃん!」ってときに起こったりしますよね。
──まあ、いろんな言い訳ありますよね。かつて、ライターのカーツ佐藤さんが「できてます、できてます、頭の中で」という豪気な言い訳をしてました(笑)。
白根●ハハハ。あとはアウトプットするだけっていいね。USB頭にさしてカラリオとかにつないで。
今井●そういう『攻殻機動隊』を観たいな。違うオレが描いてくれるのか!って。
白根●それ、パーマンのコピーロボットじゃん(笑)。
グツグツ煮えるどじょう鍋、火加減を調整しながらの対談も難しい……
次週、第2話は「2006年トピックス・ベスト3(後編)」を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)
[プロフィール] しらね・ゆたんぽ●1968年埼玉県生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィック研究科卒業後、フリーのイラストレーターとなる。現在、当サイトで4コマ漫画「ユタンポ300GT-B」を連載中。他にもいっぱい仕事してますが、以下サイトを参照していただいたほうが楽チンです。 Webサイト□http://yuroom.jp/yuroom/top.html ブログサイト□http://blog.so-net.ne.jp/YUROOM/ |
いまい・とぅーんず●1971年愛知県生まれ。多摩美術大学美術学部卒、同大学院研究科終了。90年代中盤よりイラストレーターとして仕事を始め、CFやアニメ、ゲームのキャラクターデザイン、スニーカー制作などにも携わる。2004年、劇場版アニメ『DEAD LEAVES』を企画・制作。2002年、白根ゆたんぽとユニット「YUTOONZ」を結成。 |