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大谷和利のテクノロジーコラム

2021.08.30 Mon

この秋に発表予定のiPhone 13(仮称)はどのような変貌を遂げるのか?

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

今年もAppleは9月に恒例のスペシャルイベントを準備中といわれ、複数の新製品の先陣を切って、まずiPhone 13(仮称)が発表されると見られている。iPhone 12シリーズが大ヒットとなっただけに、その後継モデルにも期待が集まるが、前モデルを超えることが運命づけられた製品の仕様とはどのようなものなのか? Appleの視点から考えてみた。

発表は9月中?

2020年リリースのiPhone 12は、新型コロナウイルス禍の影響で例年よりも1ヶ月遅れの10月発表となった。今年は、半導体メーカーの工場火災や、巣ごもり需要によるノートPCや大型テレビの生産拡大、自動車生産の急回復などによって半導体が不足気味だが、Appleだけは(影響がゼロとはいえないものの)他社に先んじて必要分を確保できているとされ、新型iPhoneの発表も9月に戻る公算が強い。

このような状況下でも、半導体の確保が可能だったのは、過去にも自社製品の需要予測に応じて大胆な決定を行なってきたサプライチェーンの専門家、ティム・クックがCEOを務めているからだろう。彼は、自社にまだ潤沢な資金がなかった初代iMac発表時に、オペレーション担当の上級副社長としてその需要を見据え、生産拠点から消費国への輸送便を前もって大量に押さえる決断を行い、同製品の爆発的な人気を供給面で支えた人物でもある。

そのときにも、他のコンピュータメーカーは自社製品の輸送にかなり支障をきたしたわけだが、今また半導体に関して、それもIT業界だけでなく家電や自動車産業も含めた混乱の中で、Appleは着実に我が道を歩んでいるといえる。

今年の新型iPhoneは実質的には「iPhone 12s」

Appleは、iPhone 7シリーズ以降、iPhone XSを除いて、中間的なモデルチェンジに相当するs(S)モデルの名称をやめ、毎年、モデルナンバーを1つずつ上げるやり方に切り替えた(ただし、iPhone 9はスキップ)。

これは多分にマーケティング的な判断といえ、実際の変更点とは無関係に、マイナーチェンジを想起させるs付きの名前よりも、フルチェンジの印象が強いナンバー自体の変更を採用するようになったと考えられる。

その意味で、筐体デザインの一新をはじめ、5G対応や上位モデルのLiDAR採用などの大きな変更があったiPhone 12シリーズの後継モデルである新型iPhoneは、実質的にはiPhone 12sに相当する存在といえよう。製品構成も、標準モデル、mini、Pro、Pro Maxからなる4モデル体制が継承されるはずだ。

2020年発売の「iPhone 12」
2020年発売の「iPhone 12」

しかし、Appleとしては次期モデルをiPhone 12シリーズ以上のヒット製品にすべく、iPhone 13と呼ぶ公算が強い。文化圏によっては不吉な数字とされる13を避けるという見方もあるが、自社CPUでは普通にA13も存在したので、特にそのような配慮はないものと思われる。

A15 Bionicの採用と5Gミリ波への対応は?

変更点として、まず間違いなく行われるのは、CPUのランクアップと対応通信規格の拡充だ。前者はiPhone 12シリーズのA14 BionicからA15 Bionicへと変更され、後者はiPhone 12シリーズでも一部の国向けには提供されていた5Gのミリ波対応をシリーズ全機種に拡大するだろう。

A15 Bionicは、基本的にはA14 Bionicと同じ5nmプロセスで製造されるものの、プロセス自体の改良によってチップの内部構成が同じでもパフォーマンスは最大5%向上し、消費電力は最大10%削減されるといわれる。A15 BionicはA14 Bionicに準じた6コア構成(高性能2コア+高効率4コア)で大幅な性能アップにつながらないとしても、それなりの向上は見込めそうだ。

通信規格については、日本を含め世界的に見て5Gのミリ波のインフラはまだ不十分な状況だが、対応端末が増えなければ通信キャリアとしても投資を行いにくい、ニワトリとタマゴ的な関係にある。iPhoneは、今秋リリースのiOS 15がiPhone 6sをサポートしているようにOSアップデートで長期に渡って使われる可能性の高いスマートフォンでもあり、新型iPhoneの訴求ポイントを増やすと共に、今後の5Gミリ波インフラ拡充を促す布石としても、この時点で全機種ミリ波対応を果たすことが妥当といえる。

ディスプレイ性能とカメラ機能の改良

iPhone 13では、もちろんディスプレイとカメラについても改良が見込まれている。

一部モデルのディスプレイは、先にiPad Proで実現されている120Hzリフレッシュレートへの対応によって、より滑らかな表示が可能となるだろう。その場合、Appleが「ProMotionテクノロジー」と呼ぶ制御技術も必然的に組み込まれ、実際のリフレッシュレートはコンテンツの種類や動きに合わせて24Hz、48Hz、120Hzというように自動調整されるため、単純な高リフレッシュレート化よりも消費電力が抑えられるはずだ。

実はiPhone 12シリーズでも120Hzリフレッシュレート対応が検討されたものの、5G化によっても消費電力が増えるので、両者を天秤にかけて5Gを優先したともいわれている。iPhone 12シリーズのLTPS(Low Temp Polycrystalline Sillicon)TFT OLEDディスプレイは消費電力が比較的大きいが、これを最新のLTPO(Low Temp Polycrystalline Oxide)TFT OLEDディスプレイに変更することで約5~15%の削減が期待できるため、今回は満を持しての対応だ。

ただし、120Hzリフレッシュレートのディスプレイ仕様はPro/Pro Maxモデルのみの付加価値として位置づけられそうであり、iPadと同様、製品名にProと付かない他のモデルは60Hzリフレッシュレートに留まるものと思われる。

一方で、カメラ機能はすでにスマートフォンにおける最もわかりやすい差別化のポイントとして認知されている。iPhone 13も例外ではなく、さらなる画質の向上を目指してカメラユニットサイズの拡大やコンピューテーショナル・フォトグラフィの深化(暗所撮影性能の向上、ポートレートモードの動画撮影対応など)、Pro/Pro Maxにおける広角カメラの光学手ぶれ補正機能、および超広角カメラのオートフォーカス機能の付加などが予想される。

さらに、ARを推進するAppleだけに、iPhone 12シリーズではPro/Pro Maxのみの仕様だったLiDARセンサーを全機種に装備することも考えられ、そうなればAR関連アプリの開発も一層促進されていくだろう。

外観の変化はわずかだが際立つ

冒頭で触れたように、外観デザインはiPhone 12で大きな変更が行われたため、iPhone 13では基本的にそれが継承されるはずだ。しかし、カメラユニットサイズの拡大に伴って、複数のメインカメラを収めたクラスターのサイズも大きくなり、これまで以上にカメラ部が目立つことは間違いない。

特にメインカメラが2眼タイプのモデルでは、これまで縦方向に配置されていたレンズが対角線配置に変更される見込みで、すでにリーク画像も出回っている。また、同じく3眼タイプのモデルでは、レンズの三角配置は変わらないものの、2眼タイプ以上にクラスターサイズの拡大が際立つことになろう。こうしたカメラ周りのデザイン変更には、ケース装着時にもひと目でiPhoneとわからせるための意図も感じられるが、すぐにまた追従するメーカーが現れそうだ。

他には、iPhone X以来の特徴であるFace ID用のTrueDepthカメラによるノッチ部分が(消失はしないが)薄くなる可能性が高く、そうなれば、ディスプレイサイズや解像度に変更がなくても有効表示面積は広がることになる。この点も、新型を見分けるポイントとなろう。

iPhone 13は、過去の最新モデルがそうであったように、最良のiPhoneとして登場し、まだ5G対応のスマートフォンを購入していない層に対して強くアピールすると考えられる。逆に、iPhone 12シリーズ、特にLiDARセンサーを備えたPro/Pro Maxのユーザーにとっては急いで買い換えるだけの差が感じられないかもしれず、iPhone 12 Pro Maxを愛用する筆者も、現状では買い替えを見送る考えだ(実機を前にしたら食指が動くかもしれないが)。

いずれにしても、9月の前半にはその答えが明らかとなる。その日を楽しみにして待つこととしたい。

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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