第3話 手帳のジャケットデザイン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、名久井直子氏の手がけた作品を紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。第3話では、シックで大人っぽい雰囲気の漂うクロス装の『夢かな手帳 N-07』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)に注目。



第3話 手帳のジャケットデザイン



毎日使う手帳だからこそ
スピンへのこだわりが重要



──今回ご紹介いただけるのは手帳のデザインですね? どのような経緯で依頼をされたのでしょうか?


名久井●この『夢かな手帳』は、以前から発行されていて、とても売れているシリーズなんです。通常は、ビニールの表紙のフォーマットで制作されていて、中にコラムやワークシートが盛り込まれ、「夢を叶えるために、毎日このように手帳を書こう」といった説明などが書かれています。ただ、何年も『夢かな手帳』を使っている方は、そのメソッドがすでに身に付けてしまっている。そこで、その解説が記載されてない限定版の手帳を作ることになり、その表紙周りなどの構造をデザインする依頼をされたのです。

──手帳の表紙デザインでは、通常の書籍を装丁する場合と、大きな違いがあるのでしょうか? たとえば、今回の作品は布を用いているわけですが。


名久井●普段は紙媒体を手がけることが多いので、コストについては少し分かりにくくて、しっかり確認と相談を行うことが必要でした。ただ、基本的なデザインの考え方については、それほど大きく変わりませんでした。


──通常のビニール装のものは、名久井さんが手がけられているわけではないとのことですが、限定版を手がけるにあたって通常版と大きく違いを出すことは意識されましたか?


名久井●はい。判型を変えたクロス装になっているので、そこでも大きな違いが出ていると思いますが、ビジュアルの雰囲気もガラリと変えています。通常版は、イラストなどが入っていたりして、親しみやすくかわいい印象だったんです。だから、限定版のほうでは、もう少し大人っぽくすることを狙いました。表紙のビジュアルは、自分で描いたイラストに黒箔を使用しています。


──あまり派手な色使いにしなかったのは、やはり大人っぽさを意識した結果なのでしょうか?


名久井●それもありますが、偏った趣味に走りすぎるのが怖かったことも大きな理由の1つです。柄の異なるバージョンをたくさん制作して販売できるのであれば、もっと個性を強く出したデザインや色づかいも考えられましたけど、この限定版の『夢かな手帳』の場合はそうではありません。そこで抑えめに仕上けることによって、このビジュアルを好きになって買ってくれる人はもちろん、そうでない人にとっても嫌がられることが少ないように仕上げました。


──なるほど。特定の人だけに好かれるデザインではなく、できるだけ多くの人に受け入れられる方向性を目指したわけですね。


名久井●それと、デザインする前にリサーチしてわかったのですが、手帳を愛用する人は、お手製のカバーを上にかけてカスタマイズすることも多いようなのです。だから、表紙のビジュアル以上に気を配ったのが、実はスピンの部分なんです。書籍は毎日の付き合いではなく、読み終わったらしばらく手に取らないことが多いですが、手帳は一年間、ほぼ毎日のように手に取って、しかも栞のある場所を見るものです。だから、手帳をデザインしようと考えたとき、特にスピンは大事だと思いました。


──確かに、この作品ではお洒落なスピンが印象的です。


名久井●これは、東京都の蔵前にあるリボン問屋で探し出しました。外国のファッション関係の方も買いにくる有名なリボンの専門店なんです。


──ご自分で探し出したのですか? 通常はスピン見本の中から選びますよね?


名久井●そうですね。スピンの会社が何社かあるので、その見本から選んで番号を指定することが多いです。ただ、今回の手帳では、そのようなスピン見本の中には、イメージ通りのものがなかったんです。最初は、レース工場に新しく編んでもらおうと打診していたのですが、その方法だと予算と時間が合わなかった。それでもスピンにこだわることを諦められなかったので、既成のリボンを買ってきて提案したんです。それで再検討してもらった結果、コストの問題もクリアでき、このようなスピンを付けることができました。


──あきらめずに工夫した結果、スピンへのこだわりを形にできたわけですね。

名久井●やはり、何らかのアイデアを思いついても、検討の結果、NGになることは多いものです。ただ、そこで実現したい野望をあきらめず、何らかの工夫をすることで、いつかは叶えられるものだと思います。今回のように、プレゼンテーションの際に、そのアイデアを実現するために必要なものを用意して、実際に見てもらうことも大きな効果がありますよ。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第4話は「楽しみながら本を作ること」について伺います。こうご期待。


[プロフィール]
名久井直子(なくい・なおこ)●1976年盛岡市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 広告代理店勤務を経て2005年に独立。装丁デザイン、エディトリアルデザインを中心に、印刷媒体のグラフィックデザインを主に手がけている。2005年 11月に長嶋有、柴崎友香、福永信、法貴信也と同人誌「メルボルン 1」を創刊。

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