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世界を意識した学生たちの作品づくり――「NYC x DESIGN」

2024.4.24 WED

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ニューヨークのデザイン&アートめぐり

第1回 世界を意識した学生たちの作品づくりーー「NYC x DESIGN」


明日の成功を夢見て、世界中から才能あふれるクリエイターたちが集まる街、ニューヨーク。数々のデザイン・美術学校、美術館、ギャラリーがあり、街頭や地下鉄など、いたるところでパブリックアートやストリートパフォーマンスなどを目にすることができる。デザインやアートがより身近に感じられる街であり、クリエイターならば誰でも一度は行ってみたい場所だろう。

今年5月に同市で開催された大規模なデザイン振興イベント「NYC x DESIGN」の開催期間中、筆者は私用でニューヨークを訪れる機会を得た。今回から数回にわたり、滞在中に見学した展示やイベントのほか、ニューヨークで活動する日本人デザイナー、クリエイターの感性を刺激するスポットなどについて紹介していきたい。



市街地のあちこちで「NYC x DESIGN」の旗が見られ、デザインウイークの雰囲気を感じることができた

「NYC x DESIGN」は、5月8日から21日まで、ニューヨーク市長室、市議会をはじめ、美術館、デザイン学校、団体、企業などの代表からなる運営委員会によって開催されたデザインウィークだ。市内の美術館、ギャラリー、デザイン学校などの主催者が、グラフィックデザインをはじめ、プロダクト、インテリア、建築、ファッション、アート、都市設計など、幅広いテーマの展示会やイベントをそれぞれの場所で開催し、街全体でデザインを盛り上げるというものだ。

なかでもニューヨークでデザインを学ぶ若者たちがどのような作品を作っているのか見てみたいと思い、デザイン学校、美術学校での展示イベントに足を運んでみた。

まず、米国を代表する美術学校の一つ、プラットインスティテュートの「THIS IS NOT GRAPHIC DESIGN」を訪れた。同展は、修士過程・コミュニケーションデザイン専攻の卒業制作を展示するものだ。

発声された言語をタイプフェイスで視覚化する、特定のイメージがアイコンとなって社会やメディアに影響を与えていく過程を分析するなど、高度な研究を通じてグラフィックデザインの新たな潮流を探っている。学生たちは調査や考察の過程を、印刷物、ビデオ、インスタレーション、シルクスクリーン、写真など、さまざまなメディアを使ってまとめ上げている。その仕事量と幅広さ、表現のクオリティの高さが印象的だった。こうした研究の成果は、グローバル広告戦略やサイン計画といった、彼らが卒業後に進むであろうと思われる分野の仕事に活かされるのだと思われる。


名門美術学校のひとつ、プラットインスティテュートを訪れた
 名門美術学校のひとつ、プラットインスティテュートを訪れた
「THIS IS NOT GRAPHIC DESIGN」は、コミュニケーションデザイン修士課程の研究発表の場だ
「THIS IS NOT GRAPHIC DESIGN」は、コミュニケーションデザイン修士課程の研究発表の場だ

「情報のアイコン化」をさまざまなメディアで実践するAndre De Castro の研究
「情報のアイコン化」をさまざまなメディアで実践するAndre De Castro の研究
「発声した言語」をタイポグラフィで視覚化するLeigh Mignogna の試み
「発声した言語」をタイポグラフィで視覚化するLeigh Mignogna の試み


続いて、ファッションやグラフィック、アートの分野で世界的なクリエイターを多数輩出しているパーソンズ美術大学を訪れた。「パーソンズ・フェスティバル」と題し、市内各所のキャンパスで開催されている10以上の展示イベントのなかで、修士課程・デザイン&テクノロジー専攻の展示を見学した。

インスタレーションやゲーム・映像など、さまざまなメディアを見ることができたが、特に注目したいのは、インタラクティブな教育アニメーションや、スケートボード愛好者、自転車愛好者やストリートミュージシャンのためのモバイルサービスだ。まだ開発中のものが多かったが、社会意識の高いそれらのコンセプトに好感を抱いた。



「パーソンズ・フェスティバル」デザイン・テクノロジー修士過程の展示会場となったキャンパス
 「パーソンズ・フェスティバル」デザイン・テクノロジー修士過程の展示会場となったキャンパス
人間の行動が海洋環境にどんな影響を与えるかを学ぶ、子ども向けのインタラクティブ教材「greg underwater」(Sylvia Yang)
人間の行動が海洋環境にどんな影響を与えるかを学ぶ、子ども向けのインタラクティブ教材「greg underwater」(Sylvia Yang)


Greg Underwater_2013 Parsons MFDT thesis show from Sylvia Boomer Yang on Vimeo.


 子ども向けのインタラクティブ教材「greg underwater」の動画





Project: Pivot from Joseph Volpe on Vimeo.


 センサーを取り付けたスケートボードとスマートフォンを連携させ、愛好者同士がテクニックを共有し、競い合うAndroid アプリ「pivot」(Joe Volpe) 





Cyclee for Cyclists from Cyclee on Vimeo.


 サイクリスト同士で都市のルート情報やアクシデントなどを共有し、近隣のコミュニティを育てるモバイルWebプラットフォーム「cyclee」(Matthew Willse)




モバイル端末でニューヨークのストリートミュージシャンの情報や演奏を共有し、彼らの活動をサポートするプラットフォーム「Busker」(Alessandra Melo da Silva) モバイル端末でニューヨークのストリートミュージシャンの情報や演奏を共有し、彼らの活動をサポートするプラットフォーム「Busker」(Alessandra Melo da Silva)


2つの名門美術学校の展示を見学してみて感じたのは、それぞれの学生の研究に明確なビジョンが見え、そのデザイン表現にも文化や言語の違いを超える「分かりやすさ」があることだ。

アメリカ国内だけでなく、アジア、南米、ヨーロッパなど、世界各地からやってきた学生たちと一緒に学ぶなかで、彼らは世界を当たり前のように意識し、卒業後に自分が活動するフィールドを見据えながら、積極的に社会と関わる姿勢でいるのだろうと想像できた。

これらの大学院は、基本的には英語力の基準(応募時にTOEFLの成績を提出)を満たし、ポートフォリオ審査をクリアすれば入ることができる。実際、出展者のプロフィールでは、会社勤務を経てから入学した学生や、美大出身でない学生も少なからず見られた。また、パーソンズ美術大学では、民間企業や他の大学、あるいはNPOと共同でプロジェクトを実施したり、企業スポンサーの援助を受けられる…といった各種プログラムも充実している。学校という枠にとらわれず、実践を通じて時代をリードするクリエイターを育てていく「場」を作るというわけだ。



■「NYC x DESIGN」公式サイト
URL:http://nycxdesign.com/

■プラットインスティテュートの展示「THIS IS NOT GRAPHIC DESIGN」
URL:http://not.prattgradcomd.com/

■「パーソンズ・フェスティバル」デザイン&テクノロジー修士課程の展示(英語)
URL:http://mfadt.parsons.edu/2013/thesisprojects/





佐藤勝氏近影

[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集を手がける。電子出版を活かした地域再生の動きや、電子書籍によるセルフパブリッシングの動向に注目し、取材を続けている。
URL:http://55vintageworks.com/



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