生きたサイト運営を実現するための
実践CMS導入・運用ガイド
文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼンを手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒
第5回
ワークフローの本当の意義とは
CMSにはいろいろな機能があるが、実際のところどう役に立つのか? CMSの機能だけを見ていると、その本質が見えないことがある。今回は、誤解されがちなワークフロー機能について取り上げ、それがWebの運用をどう改善することができるのかを明らかにしていきたい。
■ワークフローでビジネスプロセスを管理しよう
さまざまな「ワークフロー」
多くのCMSが「ワークフロー」機能をもっているが、同じ「ワークフロー」でも開発者や製品ベンダーの考え方によって、実際の機能や使用感が大きく異なる。今回は、より包括的な「ビジネスプロセス管理」という考え方を理解したうえで、Web運用におけるビジネスプロセスを想定し、CMS製品を具体的に検証することで、何がどう違うかを徹底解剖していく。
この本質的な違いをはじめから理解しておけば、ワークフロー機能に関する要件定義がスムーズになり、効果的な製品選定や設計ができるようになるだろう。
ビジネスプロセスを図で表そう
ビジネスプロセス管理は、ほかのシステムとの連携や自動処理、オフラインの人間系プロセスも含む点でワークフローよりも包括的な概念といえる。この概念を用いて現状や理想の運用プロセスを定義してから、CMSの選定やワークフロー設計・実装を行うのがオススメだ。
概念といっても難しく考える必要はない。【1】のような表記方法でプロセスを表してみるだけで、いろいろな問題点や課題が見えてくるはずだ。このようなビジネスプロセスをシステムで管理することで、定型業務の効率や拘束性を高めることができる。なお、【1】はITコンサルティングの分野で標準化が進みつつある表記方法をシンプルにしたものだ。Webの運用プロセスの場合は、これだけ覚えれば十分だろう。
次項で行う製品評価の軸を固定するため、これらの表記方法を用いてコンテンツレビューの具体的なプロセスを定義しておこう。この段階では、CMSでどこまで自動化できるかを気にする必要はない。
【1】ビジネスプロセスの表記方法
■現場のワークフローはシンプルではない
Web運用プロセスの実際
現実のWeb制作では、締め切りが切迫した緊張感の中でレビューや承認を終わらせる必要があるため、現場が独自で複雑な運用ルールを築き上げていることが多い。それを十分に明文化し、システムとして対応できないと、ワークフローを導入したことでかえって時間がかかるようになったり、レビューの精度が落ちる、などの問題を抱えることになるので注意したい。
今回は、ある企業におけるコンテンツレビューの実態をヒアリングした結果をビジネスプロセス図で表した【2】。
【2】評価のために想定したワークフロー
段階的なレビュー
コンテンツ制作が終わったあとに、作業者が自分でHTML文法チェックやリンクチェックのプログラムを実行することになっている。自動で発見できる問題はあらかじめ解決しておきたい。
ここをクリアしたあとに、制作したコンテンツの内容に応じて、だれにレビューを依頼すべきかをディレクターが判断する。レビューのサイクルを繰り返すたびに関係者全員へ依頼をすると、レビュー者にとって関係性が低いスパム的な依頼メールが増えてしまう。ミスが多いのでディレクターから一度差し戻す、レイアウトの修正なのでデザイナーのみのレビューで済ます、小さな修正が積み重なったので最後に全員へレビューを依頼する、出張中の課長の代わりに主任を指名する、など臨機応変な対応が必要になる。
更新個所の特定
一部のみが更新されたページをレビューする場合、どこがどう更新されたかを把握していないと、効率が落ちてしまう。変わっていないと思い込んで、重要な更新を見落としてしまうこともある。このため、ディレクターが更新個所を整理して依頼メールに含めるようにしていた。この作業に時間がかかるだけでなく、手作業のために漏れが発生してしまうことがある。
レビュー結果の取りまとめ
レビュー者が多くなると、不明確な修正指示や、人によって異なる指示、指示ではない意見や提案などが増えてくる。一度ディレクターがすべてのレビュー結果を取りまとめ、不明点は明確にし、合意を得るために必要な調整を行い、最終的な修正指示を作業者に伝えるようにしている。
承認の条件
短期間でレビューを終わらせる必要がある場合、全員のレビュー結果を待っていられないことがある。レビュー対象コンテンツの内容と重要度によって、全員のOKが必須の場合、2人以上のマネージャーがOKの場合、24時間以内にだれからもNGが出ない場合など、柔軟な条件で承認プロセスを運用する必要がある。
■ハイエンドのCMS「TeamSite」の場合
さて、これらの現状をどう改善することができるかを、ハイエンドなCMSの代表格であるインターウォーブンのTeamSiteで実装し、検証してみた。【3】のようにワークフローをCMSアプリケーション上でグラフィカルに設定・確認することができ、わかりやすい。
【3】グラフィカルに設定可能なTeamSiteのワークフロー
【2】のビジネスプロセスを完全に再現することができた。表記方法も似ていることから、ビジネスプロセス管理の概念を、最初から想定してCMSが開発されていることがわかる。
1. レビュー者の指定
製品担当、IR担当など、レビュー者のグループを作成しておき、それをワークフロー実施時に指定することができる。さらに、Webコンテンツの所属セクション、タグ、キーワードなどによって、自動的にレビュー者のグループを選別することもできる。いずれの場合でも例外があるため、自動的に選別されたレビュー者がデフォルト値となり、必要があれば変更することもできる。
2. 委任・代行
レビュー者が不在の場合の対策として、メインとサブの担当へつねに同時に依頼をし、先にレビューを開始した方がレビューを行う、という方法が一般的だが、サブの担当へ不要な通知が送付されることになるというデメリットがある。TeamSiteでは、たとえば8時間以内にメイン担当がレビューを終了しなかった場合にサブへも依頼メールを送付する、というような柔軟な条件指定が可能だ。
3. 通知・レポート
ワークフローが同時に複数走るようになると、自分またはチーム全体が現在どのアクティビティを抱えているのか、もうすぐ回ってくるワークフローは何か、遅延中のアクティビティはないか、ということを確認する必要が生じる。
【4】は、現在進行中のワークフローをリスト化し、さらにどこでワークフローが止まっているかを図で表示した画面だ。
図の中で緑色に塗られたボックスが、現在進行中のアクティビティを表している。
【4】ワークフロー一覧から状況を把握可能
4. 自動処理との連携
コンテンツ制作後に、HTMLの文法チェックやリンクチェックのプログラムを起動する、コンテンツの内容を形態解析することでキーワードをMETAタグに自動セットする、更新通知をほかのサイトのCGIへポストする、などの自動処理を組み合わせることができる。
5. レビュー時の差分比較
レビュー時に、新旧のバージョンを左右に並べて比較し、何がどう変更されたかを知ることができる【5】。更新されたページのレビューに便利な機能だ。上側はブラウザによるプレビュー画面だ。下側はHTMLソースによる比較結果で、行単位で変更個所がハイライトされるため、見た目は変化しないタグの書式変更なども探知することができる。
【5】インターウォーブンのTeamSiteでは、レビュー時に何がどう更新されたかを比較できる
■オープンソースの「Silva」の場合
簡易実装の製品の場合
一方、【6】は、同じビジネスプロセスをオープンソースのSilvaで実装してみた結果だ。作業者がコンテンツを制作し、マネージャーがレビュー者をアサイン(ここは省略可)、最後に編集者がレビューと承認を行う、というシンプルなフローのみに対応している。リンクチェックプログラムとの連動や条件付き委任、グラフィカルな差分比較などには対応していない。
【6】CMS「Silva」のワークフローはシンプルな承認プロセスを想定している
機能は少ないが、必ずしもCMSとして劣っているというわけではない。シンプルなのでとっつきやすい、ワークフローの設計が容易、運用後の調整が気軽にできる、初期導入コストを抑えられる、などのメリットが得られる場合もある。
まとめ
このように、同じ「ワークフロー」機能でも、CMS開発者がWebの運用プロセスをどう考えるかによって、機能やユーザビリティの面で大きな幅がある。CMSを選定した後で、その製品の都合に合わせて運用プロセスを無理に変更してしまうと、運用の効率や品質が低下してしまうこともある。一方で、利用されない機能が盛り込まれた高価なCMSを導入しても、初期コストや運用コストが無駄になってしまう。期待と現実、機能とユーザビリティ、コストと効果の最適なバランスを見つけ出すことが重要だ。
次回は、CMSの主要な機能であるテンプレート機能について、一歩踏み込んだ検証と考察を行う予定だ。
本記事は『Web STRATEGY』2007年 11-12月号 vol.12からの転載です
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実践CMS導入・運用ガイド
文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼンを手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒
第5回
ワークフローの本当の意義とは
CMSにはいろいろな機能があるが、実際のところどう役に立つのか? CMSの機能だけを見ていると、その本質が見えないことがある。今回は、誤解されがちなワークフロー機能について取り上げ、それがWebの運用をどう改善することができるのかを明らかにしていきたい。
■ワークフローでビジネスプロセスを管理しよう
さまざまな「ワークフロー」
多くのCMSが「ワークフロー」機能をもっているが、同じ「ワークフロー」でも開発者や製品ベンダーの考え方によって、実際の機能や使用感が大きく異なる。今回は、より包括的な「ビジネスプロセス管理」という考え方を理解したうえで、Web運用におけるビジネスプロセスを想定し、CMS製品を具体的に検証することで、何がどう違うかを徹底解剖していく。
この本質的な違いをはじめから理解しておけば、ワークフロー機能に関する要件定義がスムーズになり、効果的な製品選定や設計ができるようになるだろう。
ビジネスプロセスを図で表そう
ビジネスプロセス管理は、ほかのシステムとの連携や自動処理、オフラインの人間系プロセスも含む点でワークフローよりも包括的な概念といえる。この概念を用いて現状や理想の運用プロセスを定義してから、CMSの選定やワークフロー設計・実装を行うのがオススメだ。
概念といっても難しく考える必要はない。【1】のような表記方法でプロセスを表してみるだけで、いろいろな問題点や課題が見えてくるはずだ。このようなビジネスプロセスをシステムで管理することで、定型業務の効率や拘束性を高めることができる。なお、【1】はITコンサルティングの分野で標準化が進みつつある表記方法をシンプルにしたものだ。Webの運用プロセスの場合は、これだけ覚えれば十分だろう。
次項で行う製品評価の軸を固定するため、これらの表記方法を用いてコンテンツレビューの具体的なプロセスを定義しておこう。この段階では、CMSでどこまで自動化できるかを気にする必要はない。
【1】ビジネスプロセスの表記方法
■現場のワークフローはシンプルではない
Web運用プロセスの実際
現実のWeb制作では、締め切りが切迫した緊張感の中でレビューや承認を終わらせる必要があるため、現場が独自で複雑な運用ルールを築き上げていることが多い。それを十分に明文化し、システムとして対応できないと、ワークフローを導入したことでかえって時間がかかるようになったり、レビューの精度が落ちる、などの問題を抱えることになるので注意したい。
今回は、ある企業におけるコンテンツレビューの実態をヒアリングした結果をビジネスプロセス図で表した【2】。
【2】評価のために想定したワークフロー
段階的なレビュー
コンテンツ制作が終わったあとに、作業者が自分でHTML文法チェックやリンクチェックのプログラムを実行することになっている。自動で発見できる問題はあらかじめ解決しておきたい。
ここをクリアしたあとに、制作したコンテンツの内容に応じて、だれにレビューを依頼すべきかをディレクターが判断する。レビューのサイクルを繰り返すたびに関係者全員へ依頼をすると、レビュー者にとって関係性が低いスパム的な依頼メールが増えてしまう。ミスが多いのでディレクターから一度差し戻す、レイアウトの修正なのでデザイナーのみのレビューで済ます、小さな修正が積み重なったので最後に全員へレビューを依頼する、出張中の課長の代わりに主任を指名する、など臨機応変な対応が必要になる。
更新個所の特定
一部のみが更新されたページをレビューする場合、どこがどう更新されたかを把握していないと、効率が落ちてしまう。変わっていないと思い込んで、重要な更新を見落としてしまうこともある。このため、ディレクターが更新個所を整理して依頼メールに含めるようにしていた。この作業に時間がかかるだけでなく、手作業のために漏れが発生してしまうことがある。
レビュー結果の取りまとめ
レビュー者が多くなると、不明確な修正指示や、人によって異なる指示、指示ではない意見や提案などが増えてくる。一度ディレクターがすべてのレビュー結果を取りまとめ、不明点は明確にし、合意を得るために必要な調整を行い、最終的な修正指示を作業者に伝えるようにしている。
承認の条件
短期間でレビューを終わらせる必要がある場合、全員のレビュー結果を待っていられないことがある。レビュー対象コンテンツの内容と重要度によって、全員のOKが必須の場合、2人以上のマネージャーがOKの場合、24時間以内にだれからもNGが出ない場合など、柔軟な条件で承認プロセスを運用する必要がある。
■ハイエンドのCMS「TeamSite」の場合
さて、これらの現状をどう改善することができるかを、ハイエンドなCMSの代表格であるインターウォーブンのTeamSiteで実装し、検証してみた。【3】のようにワークフローをCMSアプリケーション上でグラフィカルに設定・確認することができ、わかりやすい。
【3】グラフィカルに設定可能なTeamSiteのワークフロー
【2】のビジネスプロセスを完全に再現することができた。表記方法も似ていることから、ビジネスプロセス管理の概念を、最初から想定してCMSが開発されていることがわかる。
1. レビュー者の指定
製品担当、IR担当など、レビュー者のグループを作成しておき、それをワークフロー実施時に指定することができる。さらに、Webコンテンツの所属セクション、タグ、キーワードなどによって、自動的にレビュー者のグループを選別することもできる。いずれの場合でも例外があるため、自動的に選別されたレビュー者がデフォルト値となり、必要があれば変更することもできる。
2. 委任・代行
レビュー者が不在の場合の対策として、メインとサブの担当へつねに同時に依頼をし、先にレビューを開始した方がレビューを行う、という方法が一般的だが、サブの担当へ不要な通知が送付されることになるというデメリットがある。TeamSiteでは、たとえば8時間以内にメイン担当がレビューを終了しなかった場合にサブへも依頼メールを送付する、というような柔軟な条件指定が可能だ。
3. 通知・レポート
ワークフローが同時に複数走るようになると、自分またはチーム全体が現在どのアクティビティを抱えているのか、もうすぐ回ってくるワークフローは何か、遅延中のアクティビティはないか、ということを確認する必要が生じる。
【4】は、現在進行中のワークフローをリスト化し、さらにどこでワークフローが止まっているかを図で表示した画面だ。
図の中で緑色に塗られたボックスが、現在進行中のアクティビティを表している。
【4】ワークフロー一覧から状況を把握可能
4. 自動処理との連携
コンテンツ制作後に、HTMLの文法チェックやリンクチェックのプログラムを起動する、コンテンツの内容を形態解析することでキーワードをMETAタグに自動セットする、更新通知をほかのサイトのCGIへポストする、などの自動処理を組み合わせることができる。
5. レビュー時の差分比較
レビュー時に、新旧のバージョンを左右に並べて比較し、何がどう変更されたかを知ることができる【5】。更新されたページのレビューに便利な機能だ。上側はブラウザによるプレビュー画面だ。下側はHTMLソースによる比較結果で、行単位で変更個所がハイライトされるため、見た目は変化しないタグの書式変更なども探知することができる。
【5】インターウォーブンのTeamSiteでは、レビュー時に何がどう更新されたかを比較できる
■オープンソースの「Silva」の場合
簡易実装の製品の場合
一方、【6】は、同じビジネスプロセスをオープンソースのSilvaで実装してみた結果だ。作業者がコンテンツを制作し、マネージャーがレビュー者をアサイン(ここは省略可)、最後に編集者がレビューと承認を行う、というシンプルなフローのみに対応している。リンクチェックプログラムとの連動や条件付き委任、グラフィカルな差分比較などには対応していない。
【6】CMS「Silva」のワークフローはシンプルな承認プロセスを想定している
機能は少ないが、必ずしもCMSとして劣っているというわけではない。シンプルなのでとっつきやすい、ワークフローの設計が容易、運用後の調整が気軽にできる、初期導入コストを抑えられる、などのメリットが得られる場合もある。
まとめ
このように、同じ「ワークフロー」機能でも、CMS開発者がWebの運用プロセスをどう考えるかによって、機能やユーザビリティの面で大きな幅がある。CMSを選定した後で、その製品の都合に合わせて運用プロセスを無理に変更してしまうと、運用の効率や品質が低下してしまうこともある。一方で、利用されない機能が盛り込まれた高価なCMSを導入しても、初期コストや運用コストが無駄になってしまう。期待と現実、機能とユーザビリティ、コストと効果の最適なバランスを見つけ出すことが重要だ。
次回は、CMSの主要な機能であるテンプレート機能について、一歩踏み込んだ検証と考察を行う予定だ。
本記事は『Web STRATEGY』2007年 11-12月号 vol.12からの転載です
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