第6回 資産としてのテンプレート | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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生きたサイト運営を実現するための
実践CMS導入・運用ガイド


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒


第6回
資産としてのテンプレート


CMSにはいろいろな機能があるが、実際のところどう役に立つのか? 今回は、Webコンテンツを流し込むテンプレート機能について、違いの本質を徹底解剖していく。

テンプレートの管理者と利用者

前回のまとめ

CMSの導入は、コンテンツにかかわる業務フローを整理することを意味する。コンテンツや組織の成長に合わせて進化させられるサイト設計、CMS選定、運用を実現するために必要な情報を提供するのが本連載の趣旨だ。

前回は、コンテンツのレビューや承認に使われるワークフロー機能について取り上げた。今回は、単純な機能のように思えるが、実はCMSの考え方によって機能や操作性が大きく異なるテンプレートについて、要件を整理しながら、CMS製品による違いを明らかにしていく。

テンプレートの定義

ここでは、デザインテンプレートを「コンテンツを組み合わせてページを構成し、その結果をHTMLに変換するためのルール」と定義することにする【1】。コンテンツをページ単位で管理するCMSの場合、コンテンツを組み合わせるというよりも「本文」など大きなテキストの塊をHTMLの途中に挿入するだけになる。コンテンツを細かい部品として管理するCMSの場合は、どのコンテンツをどのような条件で抽出し、どこへどの順番で配置するのか、という複雑なルールをもつことになる。

テンプレートの仕組み
【1】テンプレートの仕組み


立場によって異なるニーズ

テンプレート機能に求められる要件は、CMSの管理者と利用者によっても異なってくる。

CMSを管理する側にとっては、テンプレートはサイト全体のデザインをコントロールするための手段といえる。ブランディングを規定し、デザインのガイドラインを配布したうえで、さらに仕組みとしてテンプレートを導入し、編集者やデザイナーの自由度を制限する。一方、CMSの利用者にとっては、テンプレートは選んで使うものであり、使い勝手の良さや高い生産性が求められる。


テンプレートでデザインを管理する

まずはサイト管理者の視点で、テンプレートのよくある機能とアプローチを分類してみよう。

1. 単一テンプレート

もっとも簡易的なアプローチだ。サイト全体でひとつのレイアウトのみを設定し、若干のバリエーションを設定できればよい、というシンプルな考え方に基づく【2】。Blogやオープンソース系CMSの多くがこのアプローチを採用している。

サイト全体でテンプレートがひとつ
【2】サイト全体でテンプレートがひとつ


サイトの規模が大きくなってくると、ページによってコンテンツの見せ方を変える必要性が生じる。このため、モジュールの表示やCSSに簡単なロジックを設定するなどの機能拡張がよくあとから行われる。が、ひとつのサイトにひとつのテンプレートという設計思想に基づく限り、それはハックでしかない。

2. 複数テンプレート対応

ページごとに適用するテンプレートを選べる。さらに、同じコンテンツでも異なるフォーマットや見せ方を同時に提供したい場合もあるが、これが可能なCMSは限られる。

たとえばEMC DocumentumのWeb Publisherでは、ひとつのページに対して複数のテンプレートを適用することができるが、コンテンツをページ単位で管理していて、かつURLをテンプレートごとに変更することができないため、拡張子が異なるテンプレートしか同時に適用することができない【3】。

ページとしてコンテンツを扱う場合
【3】ページとしてコンテンツを扱う場合


一方、FatWireの場合は、コンテンツをページではなく独立した部品として管理するため、コンテンツとテンプレートを無限に組み合わせてページを生成することができる【4】。ページ単位で管理してしまうと、将来コンテンツの活用を進める際のボトルネックになりがちなので、十分に吟味する必要がある。

部品としてコンテンツを扱う場合
【4】部品としてコンテンツを扱う場合


3. テンプレートの構造化

コンテンツが増えてくると、テンプレートの一部のみが異なるバリエーションが派生していくことが多い。必要に応じてバリエーションを増やし続けた結果、100を超えたサイトも実際に存在する。こうなってくると、ちょっとした変更でもすべてのテンプレートを開いて更新するのに時間がかかってしまう。

大量のテンプレートを効率よく管理するために、共通部分を部品化して管理するというアプローチがある。たとえばFatWireの場合、「ページ台紙」と、そこに入れ込む「ページレット」を区別する。ページ台紙にはレイアウトのみを、サイト全体で共通の要素であるヘッダーやフッター、サムネール画像とタイトルと概要で構成される小組みなどをページレットとして登録しておき、ページ台紙とページレットの組み合わせでテンプレートをつくるようにすれば、変更個所が少なくなるので、管理が楽になる。


テンプレートを利用してページをつくる

テンプレートにコンテンツを入れてページを作成するスタッフにとっては、テンプレートを利用するときの柔軟性や自由度、そして日常の作業は効率的に行えるか、が重要になってくる。

テンプレートを選択する

テンプレートの数が多いと、名前だけでテンプレートを判別するのが難しくなってくる。別のスタッフが作成して名づけたテンプレートの場合はなおさらだ。そのため、テンプレートを視覚的に選べるCMSが最近増えてきた。【5】はJoomla! 1.5のテンプレート選択画面だ。テンプレート名の上にカーソルを重ねると、小さなプレビュー画像が表示される。

CMS「Joomla!」では、テンプレートを目で選べる
【5】CMS「Joomla!」では、テンプレートを目で選べる。これはサイト全体のテンプレートを選ぶ画面だが、ページごとにテンプレートを選べるCMSでも同様のUIが普及することを期待したい


また、選ぶべきではないテンプレートは、最初から選べないようにしてほしいところだ。会社案内のページをつくろうとしているのに、製品情報用のテンプレートを使うことはあり得ない。

FatWireやInterwovenでは、ユーザーのロールやコンテンツの種類に応じて、選べるテンプレートを絞り込むことができる。エンタープライズ系のCMSの場合、テンプレートもコンテンツと同じように内部で扱うため、細かい権限の設定が可能なのだ。

このようなニーズや課題は、CMSを導入してしばらく運用しないと顕在化しないので見落とされがちだが、長い目で見ると重要なポイントだ。何年でどれくらいサイトやコンテンツ、テンプレート、ユーザーが増えるのか想定しておこう。

配置を変える

ページ上のレイアウトは、本来どのようなコンテンツをどれくらいの量で掲載するかによって変わるものだ。上下左右などの位置関係も、情報の関係性を表すために重要な要素だ。コンテンツの量によって、左右のカラムに振り分ける方法を変えたい場合もあるだろう。

このようなニーズに応えるために、テンプレートのどこに何を配置するかをページ作成時に決められるCMSもある。たとえばFatWireでは、画像やテキストなどのコンテンツ部品、そしてそれらを組み合わせた「小組み」をライブラリ化することができる【6】。

コンテンツを組み合わせる小組み
【6】コンテンツを組み合わせる小組み


【7】はテンプレート上のあらかじめ設定されたエリアにコンテンツをあてはめてページを構成するときの画面だ。ブラウザ画面の左側に、コンテンツを検索するフォームが表示されている。ここで掲載したいコンテンツ部品を検索すると、その下にプレビューが表示される。そのプレビューを、ページ上の配置したい場所にドラッグすることができるのだ。直感的で達成感のあるユーザーエクスペリエンスと、テンプレートと小組みの組み合わせによるデザインの統制の両方を同時に達成している点が優れている。

FatWireでは、コンテンツ部品を台紙へドラッグ&ドロップできる
【7】FatWireでは、コンテンツ部品を台紙へドラッグ&ドロップできる


配置されたコンテンツを編集する

テンプレートを使って生成された既存コンテンツを編集する方法は大きく分けて二通りある。管理サイトにログインして該当コンテンツを探し出し、編集モードに入ると表示される入力フォームを使う方法が一般的だ。フォームの並んだ画面で入力してはプレビュー画面で確認する、という往復を繰り返すことになる。

操作性を重視するCMS製品の中には、ブラウザでサイトを閲覧しながら該当コンテンツを特定し、編集ボタンをクリックしてそのまま画面上で編集を行えるものもある【8】。

プレビュー中に編集モードへ移行することも可能
【8】プレビュー中に編集モードへ移行することも可能


テンプレートやモジュールも資産として扱おう

コミュニティによる共有

オープンソース系のCMSの場合、テンプレートやモジュールが多くのユーザーによって開発され、コミュニティによって育てられている。自社のニーズを満たすような資産がすでにどれくらい存在するか、が重要だ。逆にいうと、自社にとって役に立つ資産が少ないオープンソースのCMSは、導入する必然性が低くなる。

商用製品の場合でも、デベロッパー向けサイトでコミュニティによるディスカッションや共有がどれくらい行われているか、デフォルトで利用可能なテンプレートやモジュールがどれくらいあるか、CMSを実際に導入して利用している企業の声が聞けるカンファレンスはどれくらいの頻度で行われているか、などが導入後の生産性を左右する。

さらに、第三者による書籍やサイトなどのリソースも、CMSを活用するための重要な資産といえる。検索サイトなどで事前に調べておこう。

オープンソース系やエンタープライズ系のCMSは海外で開発されていることが多く、情報が日本語に翻訳さるのに時間がかかることがあるので注意したい。逆にいうと、英語がわかれば、先進的で膨大な情報源を手に入れることができるということだ。筆者も毎年米国で行われるユーザーカンファレンスに足を運んでいるが、欧米のCMSコミュニティは日本とは比較にならないほど充実していて、ベンダー、開発パートナー、制作会社、企業側担当者が一堂に会して発表や議論を行っている。

資産としてバージョン管理する

コンテンツの管理と活用を重ねると、テンプレートやモジュールが増えてくる。これは好ましいことであり、この蓄積によって、さらにコンテンツを活用できるようになる。そのため、テンプレートやモジュールも、コンテンツと同じくらい重要な資産と考えるべきだろう。

エンタープライズ系のCMSの場合、テンプレートやモジュールも、コンテンツと同じようにリポジトリで管理するため、バージョン管理や権限制御、監査ログなどの基本機能の対象となる。たとえばテンプレート自体にライフサイクル(承認状態)をもたせ、テンプレートが更新された場合にコンテンツと同様の承認ワークフローを実行し、承認後にそのテンプレートを使ったすべてのページを更新する、というような運用も可能だ。

人や組織に合わせてCMSも成長を

CMSを導入する際は、企業がコンテンツをつくり管理し活用するプロセスを見直す必要があるため、導入後に多少の混乱や試行錯誤を経験することになる。先行者がどのようにそれを乗り切ってきたのかの事例やノウハウ、そしてそれらが反映された機能やテンプレートは、ライセンス費や開発費のように明確にすることは難しいが、大きな価値がある。

だからこそ、CMSは導入したあとのほうが重要といえる。既存の資産を活用して導入直後のスタート地点をレベルアップしたあとに、コンテンツにかかわるすべてのスタッフのコンテンツ管理スキルを継続的に育てることができれば、ビジネスそのものにインパクトを与えることができるはずだ。CMS導入はそのためのきっかけでしかない。


本記事は『Web STRATEGY』2008年 1-2月号 vol.13からの転載です
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