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第2回 イラスト利用の作法:初級編-盗作しないために

特集記事

デザイナーのための著作権と法律講座


第2回 イラスト利用の作法:初級編-盗作しないために


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 中川隆太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)



■ マリメッコ盗作事件の衝撃


昨年5月、マリメッコのデザイナー、クリスティーナ・イソラによる盗作が発覚し、世界中に衝撃を与えました。下図の通り、彼女のデザインした「メトサンヴァキ」(左)は、マリア・プリマチェンコの「旅中のロッタ」(右)を下絵にトレースして作られたことが一目瞭然に思えます。そのため、残念ながらマリメッコの歴史に汚点を残す事件として批判を浴びています。

このような盗作は、著作権法上許されるものではありません。他方、「模倣なくして創造なし」「学ぶは真似ぶ」などの言葉が示すように、人類の創作活動の歴史には、常に先人の作品をまねるところから始まるという側面もあるように思います。

Marimekko Maria_Purimachenko
クリスティーナ・イソラ(マリメッコ)「メトサンヴァキ」(左)、マリア・プリ
マチェンコ「旅中のロッタ」(右)
url. http://bit.ly/1c2Z7NT


Book では、法的に許される「利用」と許されない「盗作」とのボーダーはどの辺りにあるのでしょうか。今回は、デザイナーがイラストを素材として別のイラストを制作する際に気をつけるべき「イラスト利用の作法」の初級編を、皆さんに伝授したいと思います。



■ 作法1:素材の著作権の確認を


まずは素材に著作権があるかどうかを確認してみましょう。著作権が認められるためには、素材が思想や感情の創作的表現であること、すなわち、その人の内面がオリジナリティをもって表現されたものであることが必要です。逆に、誰が表現しても似た作品となるようなありふれた表現であれば、自由に利用することができます(また、著作物として保護されるのは表現に限られるため、作品のアイデアは独占できません)。

しかし、著作物であるために必要なオリジナリティのレベルは決して高くはなく、例えば幼い子どもの描いた稚拙なイラストでもオリジナリティが認められると言われています。そのため、一般的には、イラストがありふれた表現として創作性を完全に否定されるケースはあまり多くはないでしょう。


なお、素材が著作物であっても、著作権の保護期間(原則として著作者の死後50年間)が切れていれば、誰でも自由に利用可能です。


■ 作法2:創作的表現の盗用は×


冒頭(前編)のような盗作は、日本の著作権法上も違法と考えられます。というのも、オリジナリティのある表現を別の作品の中で再現する権利、つまり、オリジナリティのある表現をそのまま真似する権利(複製権)や、オリジナリティのある表現を維持しつつ、新たな表現を付加して作品を作る権利(翻案権)といった、原作品の表現と似ている作品を作る権利は、原則として著作権者またはその許諾を得た人だけに認められているからです。プリマチェンコの「旅中のロッタ」には、葉の部分の表現(特に個々の葉の描写)や樹木の配置(構図)などにオリジナリティがあると思われますが、これらの特徴の大部分が、無断で作られた「メトサンヴァキ」において再現されてしまっています。

もっとも、オリジナリティのある表現「以外」の部分を真似して別の作品を作ることは、(たとえ別の作品を見た人がすぐに原作品を頭に思い浮かべるようなものであったとしても)著作権侵害にはなりません。例えば、ありふれた表現の借用や、(表現ではなく)アイデアの無断利用は、少なくとも著作権法上は自由に行うことができるものです。

とはいえ、作品が似ているかどうかは、冒頭(前編)のマリメッコの例のように創作的表現がそのまま利用されていることが明白であれば判断しやすいものの、難しい判断が求められるケースもたくさんあります。

例えば、右図のミッフィーとキャシーのイラストが、オリジナリティのある部分で似ているかどうかは、議論の分かれるところです(オランダで実際に争われ、和解で終了)。「似ている」派は、両者のシルエット、服装(丸襟のワンピース)、手足や耳の描き方が似通っている点などを理由に挙げます。これに対し「似てない」派は、そもそもうさぎを女の子に擬人化する場合、描き方の選択肢が限られており、「似ている」派の根拠とする共通点は、いずれもそのような擬人化の表現としてありふれているとの反論に加えて、リボンの有無や目と鼻の位置関係、鼻と口の形、ワンピースの色や形(キャシーのワンピースは台形に近い)が異なることなどを根拠としているようです。筆者としては「似てない」派の方にやや分があると考えますが、皆さんはどう思われますか? miffy
ディック・ブルーナ「ミッフィー」(左)、サンリオ「キャシー」(右)
url. http://bit.ly/1mriiT9


■ 作法3:トレースは慎重に


グラフィックデザインやマンガの世界では、時として、イラストや写真などをトレースした上で、それに手を加えて作品を完成させるケースもあるようです。これらのケースが著作権侵害となるか否かも、上記と同様、素材の中のオリジナリティのある表現が作品に再現されているか否かで判断されます。

例えば、ユニークなシルエットのイラストを素材とする場合、シルエットをそのままトレースするだけで著作権侵害となる可能性があります。他方で、素材イラストのオリジナリティのある部分を避けてトレースしていれば、著作権侵害にならない可能性もありますが、先ほどのミッフィーとキャシーの例でも分かる通り、どこがオリジナリティのある部分なのかという判断は難しく、慎重な対応が必要です。

また、写真のトレースについては、別の角度からの検討が必要となります。イラストのオリジナリティは描かれたイラストそのものに認められるのに対し、写真のオリジナリティは撮影対象そのものではなく、シャッターチャンス、構図や撮影のアングル、露光時間の選択などに認められると考えられているからです。

hat そのため、写真を参考にしてイラストを描く場合、同じ対象を描くこと自体は問題ありませんが、構図やアングルを全てそのままトレースすると著作権侵害となる可能性が高いと思われます。従って、角度や縮尺を大きく変える、異なる構図を採用するなどの工夫が必要となるので注意しましょう。


  アートと権利、今月の話題 

  裁判(2013年6月分)

 「知的財産戦力本部、知的財産政策ビジョン及び知的財産推進計画2013年を策定」

6月7日、知的財産戦略本部は、今後10年間の知的財産政策の4つの柱とそのための政策課題などを盛り込んだ「知的財産政策ビジョン」を決定し、同月25日、このビジョンをふまえた政策実現のための初年度の行動計画として、「知的財産推進計画2013」を策定した(いずれもWebで公開)。

この計画で示された知財政策は幅広く、クリエイターに関連する政策だけでも多岐に渡るが、例えば、コンテンツ制作関連の取引の適正化によるクリエイターの保護や、3Dプリント技術などのコンテンツ制作に有効な先端技術開発の促進、コンテンツ人材の育成などが実現すべき政策として掲げられている。



  動向

 「文化庁、中国における著作権侵害等の実態調査の結果を公表」

5月28日、文化庁は、中国本土における日本のアニメやコミックなどのコンテンツに関する著作権侵害の実態を調査・分析した結果を報告書にまとめて公表した(文化庁HP)。

報告書では、仮定に基づく中国全土のネットユーザーの侵害規模の推計額が「有償ダウンロード換算で年間約3兆8000億円」と算出されたほか、中国のユーザーの意識に関し、「『日本のコンテンツをネットで入手・視聴する場合、正規版があれば正規版を選択するが、なければ海賊版を選択する』と回答した割合は6~7割(アニメ)、5~6割(アニメ以外の映画、テレビ番組)、6割強(コミック)」など、興味深い調査結果が報告されている。


※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年9月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



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第3講では「その作品は誰のもの?」をお送ります。作品をクライアントに納品した場合、以降はクライアントが自由に作品を利用でき、作者は何も言えなくなるのでしょうか。次回は「作品に関する権利を誰が持っているか」について解説していきます。

つづく

2014/1/15




【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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URL:http://www.kottolaw.com/index.html




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