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第3回 その作品は誰のもの?

特集記事

デザイナーのための著作権と法律講座


第3回 その作品は誰のもの?


作品をクライアントに納品した場合、以降はクライアントが自由に作品を利用でき、作者は何も言えなくなるのでしょうか。今回は、作品に関する権利を誰が持っているかについて、お話ししましょう。

文:弁護士 松島恵美(骨董通り法律事務所 for the Arts)



■ 制作者=著作権者?


デザインやイラストを制作した場合、制作者は著作権者になるのでしょうか。

作品が創作的に表現されたものである場合、創作と同時に作品に著作権が発生します。その場合、作品の制作者は「著作者」です。そして原則として「著作権者」になります。

著作権者は、その作品を自らネットにアップしたり、作品からTシャツを作るなどの利用ができますし、他人にそのような利用をさせる(つまり、「利用許諾」する)こともできます。利用させるのに、使用料を取ったり、期間を限定するなど、利用に一定の条件を付けることもできます(これが、作品の利用を独占的にコントロールできる権利=著作権です)。また、著作権を他人に譲渡することもできます。

ちなみに、イラスト作品の原画を買った人は、その原画というモノの「所有権」を持っているだけです。イラスト作品自体の著作権を譲り受けていなければ、その所有者は、イラスト作品の原画というモノを展示すること以外、そのモノに含まれているイラスト作品という情報=知的財産をネットにアップしたり、そのイラストでTシャツを作るなどの利用はできません。

なお、作品の制作者は、著作者でもあり、自分の名前を作品に表示したり、作品の内容やタイトルを意に反する形で勝手に変更させないことを求めることができます(これを、著作者人格権といいます)。

Book 以上をまとめると、作品の制作者は、著作者として著作者人格権を持ち、また、原則として、著作権を持ちます。作品の所有者は、作品というモノの所有権を持っているだけで、著作者人格権や著作権は持っていません。



■ 著作権が制作者以外にある場合


作品の制作者は、「原則として」著作権者でもある、というお話しをしましたが、いくつか例外があります。作品がデザインやイラストである場合を想定して、説明しましょう。

(1)会社に所属して仕事で作品を制作し、会社名義で作品が発表される場合

会社で雇われている従業員が、会社の指示で仕事として作品を制作し、その作品が会社名義で発表される場合、会社が著作者になり(この場合だけは制作者は著作者ではありません)、また同時に著作権者にもなります(これを職務著作といいます)。

デザイン会社に出入りしているフリーのイラストレーターやデザイナーなど、会社から一定額の給与をもらわず、また、会社と雇用関係にはなく、発注ごとに仕事をしているなどの関係であれば、仕事で制作した作品は職務著作にはあたらない可能性が高いでしょう。ただ、その場合でも、発注ごとに、著作権を発注者である会社に譲渡している場合などもあるので、注意が必要です。



■ 著作権が制作者以外にある場合


(2)著作権を譲渡した場合

著作権者は、著作権を自由にコントロールできるので、他人へ譲渡することもできます。ただ、その場合でも、著作者としての著作者人格権を譲渡することはできません。

よく、クライアントが、「買取」にしてほしい、というのは、以降自由に作品を利用したい(つまり、作品を改変されて利用される場合もありますし、まったく利用されないこともあります)ということで、しばしば「著作権の譲渡」を意味します。また同時に、著作者に権利行使をされたくない、つまり、名前を表示してほしいと要求されたり、改変をやめてほしいと要請されることを防ぎたい、ということを要請している場合もあり、「著作者人格権を行使しないことの約束」をも意味することが多いと考えられます。「行使しないことの約束」とするのは、著作権と異なり著作者人格権は、他人に譲渡することも、放棄することもできないと解釈されているからです。

「買取」の意味は状況により異なるので、都度確認することが必要ですが、著作権譲渡の場合に気をつけなければならないのは、今後著作者が権利行使できないことに見合う適正な対価が支払われているか、ということです。特に、著作権譲渡を要求している相手が資本金1,000万円以上の会社で、制作者が個人である場合など、あまりに安いお金で権利が買い取られると、下請法上の問題(買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請)になることもあります。下請法の内容については、公正取引委員会のホームページの「パンフレット」が参考になります。また、疑問に感じた点は、「下請法かけこみ寺」で相談することもできます。

したがって、作品をクライアントやデザイン会社に納品する場合に、支払われる金額が権利譲渡の対価なのか、それとも単に一定の利用目的や期間に限定した利用許諾の対価なのか(利用許諾の場合は、制作者に著作権が残ります)、都度、確認する必要があるでしょう。

なお、著作権を譲渡する場合でも、その後の制作者による一定の利用(例えば、制作者が自分のホームページで作品として紹介するなど)を認める合意をすることもできますので、そのような希望がある場合は、特約として書面に明記しておくとよいでしょう。


■ ©表示とクレジット


ところで、よく本の奥付やイラストの下に、©表示を目にしますが、これはどのような意味を持つのでしょうか。

かつて、アメリカなどでは、「©最初の発行年、著作権者の氏名」を表示することが、著作権保護の条件とされていました。現在では、そのような表示をしなくても、一部の例外的な国を除き、世界的に著作権が保護されることになっています。また、日本では、最初からそのような表示が著作権保護の条件にはなっていませんでした。

hat もっとも、巷に出回っている©表示は、著作権者だけではなく、著作者が表示されている場合もありますし、発行年が記載されていないものもあり、実質的にはクレジット代わりになっているケースもあります。そして、クレジットや©表示などによって作品に氏名が表示されていれば、その人が著作者であるという推定を受けるという法的な効果があるとされています。

従って、制作者としては、著作権が自分にあれば著作権者としてクレジットや©に氏名を表示して、無断利用を牽制することができるのはもちろん、先に述べたような「買取」などで不行使に同意していないのであれば、著作者人格権に基づいて自分の氏名を表示するように要請し、広く世間に対して自分が著作者であることをアピールして無断改変を牽制することなども考えられます。


  アートと権利、今月の話題 

  裁判(2013年7月分)

 「東京地裁、ファッションショーの著作物性を認めず」

ファッションショーの映像を無断で使用したとして、企画制作会社らがNHKなどに対して著作権等侵害に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

東京地裁は、使用された実際の映像中、1)モデルの化粧や髪型のスタイリング、2)衣装やアクセサリーの選択やコーディネート、3)モデルの決めポーズや振付、4)これらの組み合わせ、のいずれについても、特段新しいものではなく、作成者の個性が創作的に表現されているものとはいえない、として、その著作物性を否定した。また、実際の映像についても、創作的表現が感得できるような態様で放送されたとはいえないとして、企画制作会社らの請求を棄却した。



  動向

 「伸び悩む電子出版、安売り合戦の行く先は」

このところ電子書籍の安売りキャンペーンが活発だ。背景には、紙媒体の書籍に比べて電子書籍の作品数がまだ十分ではなく、当初の期待ほど電子書籍市場が伸びていないという実情がある。既刊の書籍について電子書籍化の許諾をとるのに、手間と費用がかかるという点も影響しているのかもしれない。

紙媒体の書籍は再販売価格維持制度によって一定の価格が守られている。これに対し、制度の適用がない電子書籍化の安売り合戦が進めば、出版社の体力が落ちて作家を発掘・育成する機能が弱体化する。その結果、売れ筋の書籍ばかりに隔たるなど、本来の制度の目的である著作物の多様性が確保できなくなる懸念がある。


●参考文献:福井健策『著作権とは何か―文化と創造のゆくえ』(集英社新書、2005)
●参考文献:三山裕三『著作権詳説・判例で読む15章』(レクシスネクシス・ジャパン、2013)
●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年10月号)の記事を再掲したものです。



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次回は「他人の著作物を安全に利用するために」をお送ります。「個別にライセンスを受ける方法」や「CCライセンス作品の利用」など、 著作権を侵害しないよう適法に素材を使うためには、どうすればよいかを解説します。

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2014/2/5




【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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