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紀里谷和明氏のWebマガジン『PASSENGER』に見るオウンドメディアの役割(前編)

特集記事

 スポットインタビュー 
紀里谷和明氏のWebマガジン『PASSENGER』に見る
オウンドメディアの役割(前編)


この春、映画監督の紀里谷和明氏が立ち上げたオウンドメディア『PASSENGER』。紀里谷氏みずからが“実験室”と語る『PASSENGER』は、異国の風景スナップから、女優をモデルとした撮り下ろしの刺激的な写真、撮影現場の模様を伝える動画、エッセイなどのさまざまなコンテンツが登場する。今回は紀里谷氏本人と制作を支えるクリエイティブディレクターの引地耕太氏のおふたりに、制作の裏側についてうかがった。

>>> 後編:『PASSENGER』へのこだわり

紀里谷和明氏と引地耕太氏

映画監督、写真家
紀里谷和明氏(左)

アートディレクター、クリエイティブディレクター
引地耕太氏(右)


『PASSENGER』とは

映画監督の紀里谷和明氏が立ち上げた、月額課金制のオウンドメディア(月額864円 ※税込/2014年6月時点)。創刊に向けて紀里谷氏は「購読者という立場から紀里谷和明を監視し、半熟の作品もおもしろがってつくらせるパトロンになっていただきたい」と語っており、その言葉どおり、紀里谷氏の創作活動を「いつ・どこで」行われたものかがわかる状態で、読者は見ることができるようになっている。
Webサイト:http://passenger.co.jp/



 Interview 

『PASSENGER』創刊への想い


渡邊大介さん
PASSENGER
http://passenger.co.jp/
――『PASSENGER』創刊のきっかけを教えてください。

紀里谷●2年前くらいにある人から「メールマガジンを出さないか」という話をいただいたのがはじまりですね。でも、やるんだったら文章だけじゃつまらなくて、写真や動画もやりたいなと。写真だけならPDFでいいわけなんですが、それだと動画ができない。それで、引地に「Webアプリケーション」という概念でどうにかならないかという話をしました。というのも、当初から特にiPhoneで見てもらいたいという思いがありまして。

――「iPhoneで見てもらいたい」という思いには、どのような背景があったんでしょうか。

紀里谷●毎日、出勤途中の電車の中などで見てくれたらいいなという思いがあったんですよね。今の時代は情報化社会で、情報がどんどん送られてくるんですけれども、「情報じゃないものを見てもらいたい」という思いが僕の中には強くあります。


[紀里谷和明氏プロフィール]
1968年、熊本県生まれ。15歳で単身渡米、マサチューセッツ州ケンブリッジ高校卒業後、パーソンズ大学にて環境デザインを学ぶ。1994年、写真家としてニューヨークを拠点に活動を開始。数多くのアーティストの写真、ミュージックビデオの撮影などを手がける。2004年、映画『CASSHERN』で監督デビュー。2009年、映画『GOEMON』を発表。2015年にはクライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン出演の映画『The Last Knights(仮)』を発表予定。2009年4月、クリエイターのためのSNS『FREEWORLD』を開設。2014年4月、『PASSENGER』をスタート。
――“情報じゃないもの”というのは、具体的にどういうことでしょうか。

紀里谷●簡単に言うと、美しさや豊かさ、わぁ、といえるような……感動をともなう“感触”のあるもの。情報は一回読んだら使い捨てで、そこにはもう戻らない。でも、写真や絵、音楽などには戻るんですよ。『PASSENGER』は今のところ毎週発行ですけども、いつでも見返せる、情報ではないものがいいなと思ったんですよね。……最初にインターネットが登場した1990年代、僕はアメリカにいましたけれど、向こうでは“インフォメーションスーパーハイウェイ”という言葉がはやってて。なにか盛り上がるのはわかるんだけど、僕にはあまり関係ないやっていう気分だったんですよね。つまり、インターネットは“情報”でしかなくて、そこに美しさや感動みたいなものはまったく関与しないメディアだなと思っていました。ところが「Web 2.0」が出てきて、少し自分が思い描いている理想と近くなったかなと思ったんだけど、蓋を開けてみたら、まだまだ遠くて。今回、この『PASSENGER』で少しだけ近づいた感じはするんですけれどもね。でも、まだまだ発展途上ではあります。

――ちなみに、紀里谷さんの思い描く理想とは、どういったものなのでしょうか。

紀里谷●今の技術でいえば“シームレスでインタラクティブなBlu-ray”っていうことになるのかな。でもまあ、Blu-rayといってもそれもまた問題があって……多分まだ存在しないんだよね、思い描いていることは(笑)。自分の頭の中だけにある。今なら「Oculus Rift」(オキュラス リフト)がいちばん近いのかなという感じはしますけどね。『PASSENGER』では、見ている人がこれキレイだなとかすごいなとか、こういうところに行ってみたいなとか――そういう気分になってくれればいいなという思いはあります。

齋藤隼一さん
[引地耕太氏プロフィール]
1982年、鹿児島県生まれ。東京造形大学卒業。卒業後、都内デザイン事務所にて数多くのブランディング 、CI、広告制作に携わる。その後独立し、アートディレクター/クリエイティブディレクターとしてグラフィック、デジタル、エディトリアル、パッケージ、映像、内装など包括的なブランディング、企画、制作を行う一方、近年はパーソナルワークとして写真家としての活動もはじめている。
――『PASSENGER』の中身は、多彩ですね。紀里谷さんの撮影現場のムービーがあったり、ロケで訪れた異国のスナップ写真があったり、テキストだけのエッセイやQ&Aコーナーなどのコンテンツがあったり。これは、最初にコンテンツのバリエーションを想定して開発していったわけですよね。

引地●そうですね。テキストだけのものと、写真だけのものと……さまざまなコンテンツを想定していたので、内容に合わせて見せ方を考えました。テンプレートとしては10種類くらいでしょうか。これをどんどん増やしていけるような形にしたいと思っています。オウンドメディアは「コストをいかに抑えるか」というのも重要なポイントだったりするので、そのあたりもなるべく想定して、毎回デザインし直すという手間をかけずにできるように、持続性を重視して、こういうやり方をとっています。


――課金システムについては、現在、ニコニコ動画のシステムを利用されてますが、これには理由があるのでしょうか。

引地●もともと『BACKSTAGE』というニコニコ動画の紀里谷さんのチャンネルがありまして、そのチャンネルでは「創作活動の裏側を見せる」というのがコンセプトになっていました。その下地の延長線上で『PASSENGER』が生まれたため、そうなっています。今後はほかのメールマガジンスタンドからでも購入できるようにしたり、将来的には独自課金の方向性も探っていきたいと思っています。


(取材・文:草野恵子、撮影:片桐圭)


>>> 後編:『PASSENGER』へのこだわり


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