第1回「POWER PLANT No.33」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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日本アニメ(ーター)見本市から読み解く
アニメ制作現場の“モノづくり”


第1回 POWER PLANT No.33 制作:トリガー/監督:吉浦 康裕

2015年2月6日 Text:秋山由香(株式会社Playce)



アナログとデジタルをMIXし、アニメ的リアリティを作り出す


異なる技術を融合させるには、「愚直に学ぶ」ことが欠かせない

―― アニメ的リアリティを表現するため、具体的にはどのような工夫をされたのでしょうか?

吉浦● いろいろあるのですが、一つはいわゆる“モブ”と呼ばれるキャラクターたちでしょうか。キャラクターを「けれん味を持って、カッコよく動かしたい」という気持ちをグッと抑えてもらい、とにかくモブを地味に動かしてほしいとお願いしました。これによって、人がワチャワチャとひしめき合っている感じや、逃げ惑っている様子をうまく表現することができたように思います。怪獣の存在をよりくっきりと浮かび上がらせる、とてもいいバイプレイヤーが生まれたと感じました。

吉浦● もうひとつのポイントが“煙”。実は今回、2種類の煙を合成して使っているんです。ひとつが、デジタルエフェクトで作成した動きのある煙。もうひとつが、金子さんによる手描きの煙。金子さんが描く煙にはなんともいえない味があり、形といい佇まいといい、とにかくカッコいいんですよね。そこにデジタルの煙を重ねることで、ゆらゆらもくもくと動いているように見せることができる。上がりを見て「非常にいい塩梅で混ざり合ってくれたな」と嬉しく思いました。

吉浦● 他にも、カメラに付着する埃を表現したり、巻き上がる砂埃の向こうに透けて見える太陽を描いたり……。小さな努力を積み重ねることで、まるで現地に行ってロケハンをしてきたかのような臨場感を生み出しています。


(c) nihon animator mihonichi LLP.


―― なるほど。CGと手描き、フィクションとノンフィクション、いろいろな要素をMIXすることで、独特のアニメ的リアリティが生まれているんですね。しかし、異なる技術や要素をうまく融合させるには、かなりのワザが求められそうな気がします。なにかMIXのコツのようなものはあるのでしょうか?

吉浦● うーん。愚直にやる、これだけですね(笑)。今回の作品には、全体的に35ミリのフィルムっぽく見える加工を施しているんですが、「35ミリフィルムってこんな感じだよね」とイメージだけでやっていたら、恐らくうまくいかなかったと思うんですよね。

吉浦● 「フィルムって、そもそもなんだろう?」というところから考えはじめ、仕組みを紐解き、使われている銀化合物がどのようなプロセスで定着するかを理解する。すると、一定のセオリーが見えてくるようになり、今度は、「そのセオリーを表現するならこういうエフェクトをかけるべき」と、やるべきことが見えるようになってくるんです。

吉浦● 面倒でも手順を踏み、きちんと勉強する。これが、アナログとデジタルをMIXする上で欠かせない、強いていうならコツのようなものなのかな、と思います。


怪獣映画は、だいたい「とんち」でできている

―― 怪獣とロボットとの対決シーンを描く上で、ご苦労された点はございますか?

吉浦● オーバースケールの世界を描くにはどうしたらいいか、悩んだ時期もありました。そこで、「日本アニメ(ーター)見本市」でコンシェルジュをされているアニメ評論家の氷川竜介さんに、ズバリ「怪獣映画って、なんでしょう?」とお聞きしたんです。答えは「とんち」。怪獣の前にある建物も電柱もミニチュアですし、逃げ惑う人々は合成ですし、言ってしまえば怪獣ものの特撮映画って、完全にウソの世界ですよね。でも、本物っぽく見える。本物っぽく見えるよう、現場スタッフのとんちでもってレイアウトされているんです。それをお聞きしたとき、「特撮とアニメって似ているな」「怪獣の前になにを置くかが重要なんだな」と気が付きました。

吉浦● その後、 僕がCGで空間設計図を作り金子さんにお渡して、美術として描き起こしてもらうという作業に入りました。で、金子さんから「こんなのはどうだろう」と戦前の東京の写真集を見せてもらって。ビル群が立ち並ぶ、ノスタルジックだけれど近未来的な街並みに刺激を受けて「このぐらいのディテールのところに怪獣を置こう」とか、「それならこんなモチーフを配置しよう」などと、街のイメージを固めて行きました。

街の線画。いかに細かく描き込んでいるかが見て取れる
街の線画。いかに細かく描き込んでいるかが見て取れる

こちらは線画を基に色付けされた原画
こちらは線画を基に色付けされた原画

―― 街の描き込みは、凄まじいものがありますよね……。細かいところまで、とても緻密にていねいに描かれている。金子さんのこだわりがよく表れているなと思いました。

吉浦● 金子さん曰く「存在感のあるディーゼルパンクっぽい街並みを徹底的に描き込むことで、『美術で怪獣が動く』という印象をぼかしている」とのことでした。一見すると街が主役のように思えるのに、しばらくすると怪獣が現れて「こっちが主役かよ!」と気付くようになっているという。

吉浦● 「同業者から『バカだね~』と言われるようなことを真面目にやりたかった」と話していました(笑)。だけど、描き込むばかりではなくて。怪獣の移動に合わせてスムーズに目線が動くよう、引き算もされているんですよ。約5分の短編アニメなので、あまり描き込みすぎると食あたりを起こしちゃう。その辺りも計算して、視聴者に負荷をかけすぎない美術にしているそうです。

「街の真俯瞰図を、こんなに綺麗に描ける人はいない」とは吉浦監督の評
「街の真俯瞰図を、こんなに綺麗に描ける人はいない」とは吉浦監督の評
(c) nihon animator mihonichi LLP.


「日本アニメ(ーター)見本市」だから実現できた、挑戦的アニメ作品

―― キャラクターについてはいかがでしょう? どのようなテーマで、形づくっていったのですか?

吉浦● コンセプトは「電気の中で窮屈そうに生きている人」。ですから、歩きにくく暑そうな絶縁服を着ています。また、ヒロインは、だからこそ清楚でかわいく、普通の女の子にしたいと考えました。怪獣とロボットがいる暑苦しくて窮屈な世界と、ごくごく普通の清楚なヒロイン。その対比やギャップが、双方を引き立せるのではないかなあと。

―― ヒロインが最後にポツリとつぶやくセリフも、ものすごく普通ですものね。

吉浦● はい。当初から結末は、明るく楽しいものにしたいと考えていました。どこかユーモラスで、ナチュラルで。そういう終わり方にしたいと思っていたので、ヒロインが怪獣に見とれてしまう様子やずっこける姿なども、シリアスにならないように描いています。また、冒頭をあえて暑苦しく重たいシーンにして、最後の爽やかさが際立つよう意識しました。心地よい鑑賞後感が得られるような、前向きな作品に仕上がったと思います。


(c) nihon animator mihonichi LLP.

―― 理屈抜きで楽しめる特撮的要素と、なぜかホッとするエンディング。約5分という短い作品ではありますが、5分とは思えないほど贅沢な内容だと感じました。

吉浦● ありがとうございます。「POWER PLANT No.33」は、「日本アニメ(ーター)見本市」でなければ実現しえなかった挑戦的なアニメ作品です。このような機会をいただけて、とても幸せでした。素晴らしいクリエイターが参加し、日々、挑戦と実験を続けている。この活気や熱量は、きっと近い将来、アニメ業界全体に波及していくことでしょう。日本へ、そして世界へと、この取り組みが大きく発展することを願っています!




第11話「POWER PLANT No.33」
原案・監督・脚本:吉浦 康裕
原案・怪獣&ロボデザイン・美術監督:金子雄司
キャラクターデザイン・作画監督:斉藤健吾
アニメーション制作:スタジオ六花/TRIGGER


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吉浦 康裕

【プロフィール】
吉浦 康裕(よしうら やすひろ) /1980年生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)にて芸術工学を専攻。平成15年3月、同大学卒業。大学時代に自主制作でアニメーション制作を開始し、作品を国内外で発表する。卒業後に個人制作アニメ「ペイル・コクーン」を発表、DVDを販売。その後、東京に移住。Webアニメ「イヴの時間全6話を制作し、さらにその後「劇場版 イヴの時間」を全国で公開する。2013年に劇場アニメ「サカサマのパテマ」を全国公開。続く2014年には「アニメミライ2014」にて短編「アルモニ」を公開。
●スタジオリッカ:http://studio-rikka.com/

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