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第1回 「モバイルマーケティング」とは何なのか? - モバイルマーケティング実践Hacks

2024.4.26 FRI

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モバイルマーケティング実践Hacks

右)吉田悟美一 (株)イオス 代表取締役社長 url. www.e-o-s.net/ ケータイショッピングモール「ブランドマニア」運営企画・文=中谷健一(写真左)
トリムタブJAPAN(有)代表取締役
モバイルマーケティングコンサルタント
url.www.trimtab.jp/

企画・文=吉田悟美一(写真右)
(株)イオス代表取締役社長
モバイルサイトプラットフォーム『Rockbird』開発・提供。
「ケータイ小説がウケる理由」(毎日コミュニケーションズ新書)
url.www.e-o-s.net/



第1回
「モバイルマーケティング」とは何なのか?


この連載では、モバイルマーケティング(携帯電話を通じたネットマーケティング)の、構築や運営に役立つ、実践的なノウハウ、ヒントをQ&A形式で紹介していく。第1回目の今回は、モバイルマーケティングについての基礎知識と、取り組み姿勢について取り上げる。


Q1→
「モバイルマーケティング」という言葉をよく耳にするようになった。
どういう理由で注目されているのか?


A1←
検索エンジンの普及と定額ブロードバンド化を背景にした、参入企業増加が理由。
しかし、話題だけが先行している感は否めない。


モバイルマーケティング市場とは、携帯電話インターネットを介したマーケティング市場全体を指す。着メロや占いサイトなど、iモードブームとともに伸びてきたいわゆる「モバイルコンテンツ市場」もここに含まれる。ただ最近、特に話題になっているのは、これまでにない新しい特徴をもつモバイルサイトが増えてきたためだ【1】。

【1】新しいタイプのモバイルサイトの特徴【1】新しいタイプのモバイルサイトの特徴


「なぜ、今なのか? iモードのスタートから8年も経過しているではないか」と疑問に感じるのもごもっともだ。モバイルマーケティングが注目を集めるようになったのにはいくつかの要素があるが、「検索エンジンの普及」「ブロードバンド通信料金の定額化」という、PCインターネット普及のきっかけとなった2条件が揃ったことで、「モバイルインターネットも普及期に入った」と判断した企業が増えたのだろう【2】。


【2】モバイルマーケティングが注目される原因


なかでも注目されているのはモバイルでの物品通販である。市場規模が急伸しており、PC通販ブームの前夜を思わせる【3】。通販企業はもちろん、新規参入企業も数多い。

【3】モバイル通販の伸び(出展:モバイル・コンテンツ・フォーラム調査・2007年7月)
【3】モバイル通販の伸び(出展:モバイル・コンテンツ・フォーラム調査・2007年7月)


PCで流行したビジネスをモバイルで追いかけるという戦略なのか、モバイルで動画を扱う企業も激増している。ドコモではFOMAのネットワークで2009年をめどに、下り最大300Mbpsという超高速ブロードバンドサービス導入を計画しているという。実現すれば携帯電話での映像コンテンツ視聴は劇的に変化する。連動する広告市場なども今後ますます大きくなっていくだろう【4】。

【4】モバイル広告市場の伸び(予測)(出展:電通総研2005年7月)
【4】モバイル広告市場の伸び(予測)(出展:電通総研2005年7月)


と、このようにポジティブなマスメディア報道が多い。つい踊らされてモバイルマーケティング導入を検討している企業もある。その実、現場に聞こえてくる成功事例はごくわずかで、むしろモバイルの取り組みから撤退する企業が少なくない。実際、「自社でモバイルサイトを運営している」という企業の数は05年から06年にかけて大きく減っている。

企業がモバイル活用に失敗する原因はいくつか考えられるが、筆者は「モバイルはPCとは別のもの」という認識の欠如が根本にあるのではないかと考えている。そう、同じWebではあるが、PCとモバイルはまったく異なるものなのだ。似ているのは技術仕様だけで、利用場所も、利用のきっかけも、利用のトーン&マナーも全然違う【5】。

【5】PC/モバイルそれぞれの利用のシーン
【5】PC/モバイルそれぞれの利用のシーン


モバイルマーケティングの強みは「ユーザーにもっとも近い」携帯電話を活用するところにあるが、裏を返せばユーザーの使い勝手を中心に設計されていないモバイルのコンテンツやサービスは提供する意味がない。PCでヒットしたコンテンツやサービスを載せても、モバイルでヒットするとは限らないのだ。

モバイルマーケティングはまだ成功法則や勝ちパターンが確立されていない、いわば「話題先行型の市場」であるといえる。導入を検討するとき、PCインターネットの成功法則やノウハウは「参考」程度にしかならないと肝に銘じることだ。


Mobile Marketing Hacks
PCのネットマーケティングの成功法則は使わない。モバイルの利用者を中心に据えたサービス設計を考える。



Q2→
「モバイルマーケティング」にはどんな方法があるのか?
予算はいくら程度と考えればよいのか?


A2←
マーケティング目標に合わせて、モバイルは実に多用な活用方法がある。
「予算は小さく始めて、頻繁に改良し徐々に大きくする」のがよい。


企業のモバイル活用例をリストアップしてみると、実にバリエーション豊富であることがわかる【6】。サイトから直接収益を上げる「事業エンジン」としての使い方、顧客との対話窓口としての使い方、あるいはセールスプロモーションツール、既存ビジネスの付加価値創造ツールとして…。モバイルは紙、Web、電話の「いいとこ取り」ができるマルチ・マーケティングツールだ。

【6】企業のモバイル利用例
【6】企業のモバイル利用例


コンシューマー向けビジネスならば、お客さまの大多数が一日中持って歩いているという事実は無視できないはずだ。事業やマーケティングの課題が明らかになりさえすれば、必ずどこかに「モバイルでビジネスを活性化するツボ」が見つかるだろう。実際に導入するかどうかは予算やリソースとの相談になるとしても、検討しておいて損はない。

逆にトップダウンでモバイル活用が検討されるケースは注意が必要だ。

「今、モバイルが熱いらしい。うちも乗り遅れるわけにはいかない。モバイルを活用して新規事業を立ち上げろ」

こういう指令が(細かい言い回しはともかく)各企業内で発せられているようだ。

ところがスタッフは、何をしたらいいのか見当もつかない。そこで、売り上げが見込めそうなモバイル通販事業を始めようという話になる。ところが自社には適切な商材がない。そこで、商材を探し【7】、サイト構築・運営の見積もりを取り、事業計画をつくってみる。ところが通販の利益だけでは投資回収に時間がかかりすぎる。そこで、サイト上に広告スペースをつくることにしようと右往左往。こうったらもう笑い話だ。ユーザーの使い勝手はそっちのけで、企業の都合だけでつくられたサイトが支持されるほど甘いマーケットではない。

【7】モバイル通販の売れ筋商品(出展:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007「携帯電話によるショッピングで購入したことのある商品のジャンル」)








【7】モバイル通販の売れ筋商品(出展:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007「携帯電話によるショッピングで購入したことのある商品のジャンル」)


既存プレーヤーでさえ弱音を吐いてしまうほど、モバイルはユーザーの動きが激しい。はやりすたりのサイクルは3カ月といわれる。

この激しい波を乗りこなすためのモバイルサイト運営Hackがある。「小さく始めて、頻繁に改良する」だ。小さな投資から始めれば「しまった!」となってからでも再チャレンジできる。うまく波をつかんでから(ファンのお客さまを増やしてから)、少しずつサイトを大きくしていけばよい。

モバイルへの新規参入もこのHackに習うことができる。新規サイト開発でのリサーチのプロセスに「モバイルを活用し」自社のお客さまに参加してもらうのだ【8】。

【8】お客さまをサービス開発に巻き込む













【8】お客さまをサービス開発に巻き込む


モバイル用アンケートASPを利用すれば、20~40万円程度の予算で簡単に実施可能だ。

実際にモバイルサイトを利用してもらうことで、自社のお客さまのモバイルへの親和性やアクション性向がリアルにわかる。どんなふうに案内したら何割のお客さまがサイトにアクセスしてくれるのか。どんな時間に、どの機種からアクセスされるのか。アンケートの設計次第で、どんな属性のお客さまがどんな情報やサービスを求めているかも明らかにできるだろう。

また、フリーコメント欄に「これ、本当にケータイだけで書いたの?」と、唖然としてしまうような長文メッセージが寄せられることもある。定量・定性データの収集と同時に、モバイルがどれだけディープに利用されているのかを実感するきっかけにもなり得る。サービス開発にこれらの情報・経験がどれだけ役立つか計り知れない。

ちなみにサイト開発にかける費用相場は、前提条件や獲得目標によって大きく変化するので一概には言えない。ただし、ASPを利用して構築する(特別なアプリケーション開発を必要としない)一般サイトであれば、初期費用300~500万円、月額システム利用料15~30万円程度、それに運用の人件費を見ておけば、かなり高度なチャレンジができるはずだ【9】。廉価で高機能なASPが次々登場しているので、これらをいかに活用するかがポイントだ。

【9】サイト構築の初期費用相場
【9】サイト構築の初期費用相場



Mobile Marketing Hacks
モバイルサイト運営は、小さく始めて頻繁に改良して大きくする。




Mobile Marketing Hacks
サービス開発の前に、モバイルアンケートASPで自社顧客にアンケートをするところから始める。




Q3→
「モバイルマーケティング」はどんなターゲットに有効なのか?
またこの先、どんな可能性があるのか?


A3←
「既存顧客が有効ターゲット」と想定してサービス開発するのが正解。
リスクを恐れなければ、可能性は無限に広がる。


モバイル利用者のうち、特に積極的な利用態度を示すのはF1層(エフワンそう:20~34歳の女性)だ。モバイルの利用に慣れ親しんでいると同時に、自由に使えるお金を持っており、モバイル通販などの利用意欲も高い【10】。だからといって彼女たちだけがモバイルの利用者というわけではない。モバイルはだれもが利用しているデバイスなのだ。モバイルマーケティング導入の是非を決めるのは「F1層の有無」ではない、想定する利用者にどうアプローチし、どんな利用のきっかけをつくるかにある。

【10】モバイル通販の利用経験(出展:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007「携帯電話によるショッピングの利用経験(年代別と性別)」)
【10】モバイル通販の利用経験(出展:インプレスR&D/モバイルコンテンツフォーラム2006-2007「携帯電話によるショッピングの利用経験(年代別と性別)」)


最近モバイル業界で注目を集めているのはティーンエイジャーの男女だ。ゲームサイトやプロフ(自己紹介)サイト、投稿型ケータイ小説サイトなど、最近の一般サイトのブームは彼らがつくったといえる。自由に使えるお金は少ないがそのぶん時間があり、モバイルを介した横の情報伝達力がある。「利用料がかからず、好きなとき好きなだけ暇つぶしできるサイト」の存在が知れるや、口コミによって驚異的なスピードで広まった。結果的にゲームと連動したポイント広告市場やケータイ小説の出版市場など、まったく新しいビジネスモデルとマーケットを創出した。

また東北を拠点とするスーパーマーケットが独自におサイフケータイの活用を推進し、平日の来店者(中高年層を含む)の約半数をモバイル電子マネー決済に変えた例がある。モバイルの施策に中高年層を巻き込み、顧客囲い込みに成功した事例として流通・モバイル業界では有名だ。このスーパーではモバイルの電子メールを活用して新聞チラシにかけるコストの削減をも果たしている。

「お金を持っていない層はビジネスにならない」「F1層じゃなければモバイルは利用されない」などなど、こうした先入観に縛られていたら、これらの成功事例は生まれなかっただろう。モバイルマーケティングは関連市場全体が成長途上であり、また、新しいパラダイムを迎え入れたばかりの新興産業だ。まだだれも知らないビジネスチャンスがたくさん埋もれている。

「ほかに成功例がない」「リスクはないのか?」を気にするなら、モバイルへの参入は5年ほど先送りしたほうがいい。アップル社のiフォンが日本のモバイルの趨勢を大きく塗り替え、対抗するために巨額のシステム投資が必要となるかもしれない。SIMロックが外されて海外製端末が市場に増えれば、サービスレベルにムラが発生してクレームが増えるかもしれない。日々進化と変革を続けるモバイル業界は、いまなおこんな経営環境リスクが見え隠れしている状態なのだ。その都度、右往左往するのは時間の無駄でしかない。

もっとも、「リスクを恐れて何もしないことが最大のリスク」という言葉もある。リアル店舗での販売とモバイル通販の融合、モバイルを活用したブランディング、モバイルサイトを通じたユーザー共創マーケティング、BtoBのモバイルサービス、モバイル動画による付加価値サービスなど、少なくともビジネスの可能性はたくさんあり、まだほとんど手がつけられていないのだから。


Mobile Marketing Hacks
「モバイル向きの層への迎合」という、先入観に縛られない。




Mobile Marketing Hacks
リスクを恐れて何もしないことが最大のリスク。




本記事は『Web STRATEGY』2007年9-10 vol.11からの転載です
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