リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第1回 トヨタ自動車株式会社 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第1回 トヨタ自動車株式会社

2024.4.26 FRI

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第1回
トヨタ自動車株式会社


トヨタ自動車株式会社
e-TOYOTA部長
友山茂樹氏

1981年トヨタ自動車(株)入社。生産技術部、FAシステム部、生産調査部、国内企画部を経て、2000年GAZOO事業部部長、Eコマース/車情報サイト『GAZOO』を立ち上げる。2002年e-TOYOTA部部長、トヨタのインターネット戦略を統括しつつ、第二世代テレマティクス『G-BOOK』を立ち上げる。2003年トヨタモーターアジアパシフィック(シンガポール)に出向し、アジアにおけるCRM戦略、e-CRBを確立。2004年帰任しトヨタ自動車e-TOYOTA部長に復帰。現在はGAZOO、G-BOOK事業を運営するデジタルメディアサービス(株)の代表取締役社長も兼任。



トヨタ自動車が取り組む
新しいWEBコミュニケーションの形とは


昨年度売上高9兆2,183億円を計上する日本を代表するグローバルカンパニーであるトヨタ自動車。日本ブランド戦略研究所による日本の有力企業約250社のWebサイトの価値測定(2005年度)では、トヨタ自動車のWebサイトが同社の売り上げに貢献した金額は868億円。3年連続でのランキング1位を獲得している。

トヨタでは、2002年1月にITを活用したマーケティング戦略を統括する組織として『e-TOYOTA部』を設立。前身は同社のコンシューマー向け総合サービスの新しいビジネスモデルを立ち上げた『Gazoo事業部』。e-TOYOTA部ではGazooだけでなく、ITを活用したあらゆる情報提供サービスを統括・管理するという目的と、総合的なCRMを目指すものだ。

世界に君臨するトヨタ自動車の企業パワーの底流には、徹底的にムダをなくすという基本思想をもったトヨタイズムが流れている。この思想はe-TOYOTA部の活動にどう生かされているのだろうか。e-TOYOTA部長である友山茂樹氏にお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 CRMからCRBへ!
トヨタならではの一歩踏み込んだ顧客対応


Web STRATEGY(以下、WS) トヨタ自動車が展開するビジネスにおいて、Webというメディアもしくはツールをどのように位置付けて活用しているのか。まずはその点からお聞かせください。

友山氏 たとえば10年前と比較して、コンシューマーの方々がインターネットを利用する機会は劇的に増加しているといえるでしょう。それに伴い、Webコンテンツが果たす役割も人々のライフスタイル全般に及ぶほど、広範囲なサービスを展開する必要性があると思います。ただし多様なサービスを単にWebで展開するというのでは、コンシューマーの理解が及ばない可能性があります。

そこで当社では、Webの役割を6つに分けて考え、それぞれに必要な機能・サービスを展開しています。ひとつ目は『プロモーション』。商品を中心として周辺サービスまでをWebを通じてプロモートしていくというものですね。次に『ユーザー・コミュニケーション』。これも重要ですね。そして『IR』。企業としてのスタンス、環境への取り組みなども含めての情報公開。また『eコマース』やパートナー企業も含めてグローバルにオペレーションを共有するための『オペレーション・リンケージ』もあります。さらに顧客へのきめ細やかなサービスを行う『CRM』を機能的に展開するという役割もあります。

トヨタ自動車がWebに与える6つの役割
■トヨタ自動車がWebに与える6つの役割
トヨタ自動車がWebを使って展開する業務、サービスの6つの方向性


WS いまおうかがいした6つの役割の中で『ユーザー・コミュニケーション』と『CRM』とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

友山氏 『ユーザー・コミュニケーション』は、具体的には一般消費者さまからのカタログ請求やお問い合わせなどへの対応ですね。いわゆるBtoCの情報サービスです。ただ、当社が考える『ユーザー・コミュニケーション』は、さらに一歩踏み込んでCtoC、つまりコンシューマー同士での情報交換が行える場の提供も考えています。これに対して『CRM』は、当社の自動車製品のオーナーを意識したものです。今回『レクサス』においてより明確に打ち出したブランド戦略ですが、レクサスオーナーだけでなく、すべてのオーナーに対してよりきめ細やかなサービスを提供していくためにWebを活用することで、さらに“オーナーさまとの長期的な関係を築いていく”という目的をもっています。その意味ではCRMではなく『CRB』(B=Building)とも呼んでいます。

WS 現在御社では「toyota.jp」や「toyota.co.jp」、「GAZOO.com」など複数のサイトを展開していますが、これらのサイトや各コンテンツは、それぞれどういった役割を持ち、どのような成果を期待されているのでしょうか。

友山氏 まずはtoyota.jpですが、これは明確にプロモーションを主要な目的として運営しており、コンテンツの役割としては、最終的にはコンシューマーが購入にいたるまでのプロセスを意識しています。当社のビジネスにおいては、トヨタ自動車はマニュファクチャアリングとして存在しており、販売はディーラーが担うもので、それぞれのビジネスは明確に区別しています。マニュファクチャアリング、ディーラー、そしてコンシューマーという三者で成り立つわけです。したがってtoyota.jpの役割としては、強力なプロモーションをコンテンツとして展開しつつ、購入プロセスとしてコンシューマーをディーラーへとつなげる機能が主要なものとなります。

toyota.co.jpのほうは、企業としての広報活動を主体としています。基本的な会社情報をはじめとして、IRはもちろん、技術開発だけでなく環境や安全への取り組み、社会への貢献、そして自動車事業およびそのほかの事業に関する情報を公開するものです。また、採用情報などもこのサイトで公開しています。toyota.co.jpは、当社それ自体を紹介するサイトですので、デザインに関しては風格と気品、真摯な真面目さを表すイメージになっています。

トヨタ自動車とディーラー各社の役割分担
■トヨタ自動車とディーラー各社の役割分担
上記の理念から、トヨタ自動車のサイトでは直販は行わず、トヨタ自動車に興味をもったユーザーをディーラーへ橋渡しする役割に徹している


WS ほかにも御社にはGAZOO.comというeコマースサイトがありますが、これはどのような目的で運営されているものなのでしょうか。

友山氏 toyota.jpもtoyota.co.jpも、ある意味ではトヨタ自動車のファンである方が主体的に閲覧するサイトですね。これに対してGAZOO.comは、より広い層をターゲットとして、いってみれば不特定多数のコンシューマーをターゲットとしたeコマースサイトです。しかも、単に自動車および関連製品を売るだけでなく、ユーザー同士でコミュニケーションを行う場としての機能も搭載しています。その大きな目的は、将来のトヨタファンをはぐくむことにあります。現在、車の購入サイクルは次第に長くなってきています。そこでGAZOOではより購入サイクルの短い音楽や本といった商品をラインアップすることで、長期的にサイトに集客し、いいタイミングで車の情報を流すことで、車の購入意欲も高めようというねらいがあります。将来的なトヨタファンの醸成という役割を担っているわけです。


2 ユーザーをディーラーへとスムーズに導く!
それがトヨタWEBサイトの最重要機能だ


WS Webサイトを媒体としてとらえた場合、ほかのテレビや雑誌なども含む全メディア戦略の中でWebはどのような位置づけにあり、ほかの媒体とどのように連携しているのでしょうか。

友山氏 メディアをテレビ、紙媒体、Webと大きく分けた場合、テレビという媒体には「短期・大量」という特性があると考えています。情報としては広く行き渡りますが、情報量としての深さはない。ただ、プロモーションとしての“圧力”は非常に強いメディアですね。雑誌などの紙媒体は、テレビよりは深度のある情報を提供できます。しかも媒体の特性によってターゲットを絞り込んだメディア戦略を仕掛けられる点も特性のひとつでしょう。これらに対してWebサイトは、情報の深さはテレビ・紙メディアに比較してかなり深いものを提供できます。時間的な経過によって、情報を追加・変更できるといった特性もありますね。ただし“圧力”という意味では弱い。というのも、Webサイトはユーザーの意思によって閲覧されるものだからです。

このような特性の違いを意識したうえで、クロスメディアとしてプロモーションを展開するわけですが、その目的はごくシンプルで“ディーラーで車を売る”ということにつきます。まずは圧力のあるテレビメディアを利用して短期間に情報を露出し、コンシューマーに“新しいものの登場感と期待感”を残像として残します。続けて紙メディアを活用してターゲットを絞り込んだより深い情報を提供する。当然、テレビ、紙媒体ともにWebサイトへ誘導するためのURL表示などを仕掛けることで、最終的にWebサイトへと導く。Webサイトでは深い情報と同時に、ユーザーの目的に応じてカタログ請求やディーラーの紹介など購入プロセスとしての機能性をもたせるわけです。

各メディアの特徴とリンケージモデル
■各メディアの特徴とリンケージモデル
トヨタ自動車が考えるテレビ、新聞、雑誌などの紙媒体、Webサイトのメディアとしての特徴と、それぞれをどのようにリンクさせているかを表している


WS Webに購入プロセスの一翼を担わせるということですが、最終的にはディーラーによる販売活動を積極的にサポートするものだということでしょうか。

友山氏 そうです。現在、車を買うということを考えた場合、最終的には実車を見にディーラーに訪れるというのが一般的ですね。トヨタ自動車では、ディーラー、つまり販売チャネルはたくさんあり、取り扱う車種も異なるなど多様性を持たせています。購入者に対してきめ細かいサービスを提供するという意味では、チャネルは多様であることのメリットは大きく、基本的に統合は行わない方針なのですが、現実にはお客様が販売店を訪れたときに系列が違うので目的の車種がないといった問題もあるのです。これを解消するのがWebサイトです。購入を希望するお客様に多チャネルを意識させることなく、スムーズに最適な販売店へと導く。これが、マニュファクチュアとしてのトヨタ自動車が考えるのWeb活用なのです。

トヨタ自動車の全体のグロバールサイトのトップページ(http://www.toyota.co.jp/)
■トヨタ自動車の全体のグロバールサイトのトップページ(http://www.toyota.co.jp/)

トヨタブランドサイトのトップページ「toyota.jp」(http://toyota.jp/)
■トヨタブランドサイトのトップページ「toyota.jp」(http://toyota.jp/)


WS 御社ではかなり早い段階でネットをBtoBとして活用してきた経緯がありますが、Webの非媒体的な活用に関してはいかがでしょうか。

友山氏 Webの非媒体的活用はさまざまなケースがありますね。たとえばGAZOO.comも、当初はBtoBとしてのエクストラネット的な活用から始まったんです。1985年ごろにさかのぼりますが、当時ディーラーでは多くの下取り中古車を在庫として抱えており、それをいかにすばやく売るかという課題がありました。この中古物流を改善するために、ディーラーが抱える中古車情報をネットを通じて画像で閲覧できる仕組みを用意したというのが始まりです。つまり当初はバックオフィスの仕組みだったのです。実際、このシステムは非常に効果的に稼働し、従来であれば30~90日もかかっていた中古車展示情報の準備作業がほぼ1日で完了し、流通状況も飛躍的に向上するという結果につながります。
当初「画像システム」と呼ばれていたものが、次第に短くなり「ガズー」となったんですよ。いずれにしろGAZOO.comは、このようにバックオフィスの仕組みとして立ち上がり、次第に購入プロセスの一翼を担う情報サービスサイトへと進化したのです。つまり非媒体的な役割が先にあったということです。

総合情報ネットワークサービスGAZOO(ガズー)サイトのトップページ「GAZOO.com」(http://gazoo.com/)
■総合情報ネットワークサービスGAZOO(ガズー)サイトのトップページ「GAZOO.com」(http://gazoo.com/)




3 乱立するサイト・コンテンツを整理・集約!
一環したブランド戦略を推し進める!


WS プロモーションを中心としたtoyota.jp、オフィシャルな情報を発信するためのtoyota.co.jp。そしてGAZOO.comという3大サイトが、現在のトヨタ自動車のWeb戦略の中軸だということですが、こういったビジネス的なWeb戦略においてe-TOYOTA部はどのような役割を果たしているのでしょうか。

友山氏 e-TOYOTA部はGAZOO事業部を母体として設立されました。そのおもな目的は、トヨタ自動車としてのWeb戦略を統括的に推進するためであり、具体的にはWebコンテンツの開発・運用を統括的にマネジメントすることで、コンシューマーなどに対して整理された情報提供を行うことにあります。e-TOYOTA部の設立は2002年1月。その時点では、営業部やディーラーごとに独自のコンテンツを展開しており、さらには独自のドメインでWebサイトが乱立しているという状況でした。およそ60ほどのドメインが独自に展開されていたといってもいいでしょう。ドメインだけでなく、インターフェイスやデザインなども統一性に欠け、Webサイトを利用するユーザーにとってはどのサイトがどんな役割・機能をもっているかが把握できないという状況にあったと思います。したがってe-TOYOTA部として最初に取りかかったのが、これら乱立するWebサイト・コンテンツの整理という作業だったのです。

WS 各営業部ごとで展開するコンテンツを整理するといっても、それぞれの思惑などもあり、かなりたいへんな作業だったのではないでしょうか。

友山氏 ええ。実際、この作業は現在も続いているといえますね。確かに当初は各営業所やディーラーごとの思想や手法といったものがあり、ある種の反発といった反応もありましたが、e-TOYOTA部はトヨタ自動車としてのWebサイトを統括する権限をもつと同時に、具体的な施策を各部署に提案するといった形で理解を得ていきました。現在では、何らかのコンテンツを立ち上げるにあたっては、e-TOYOTA部に対して申請を行うというフローが構築されています。ただし、単に申請許可を行うということではなく、申請された企画に対して、システムを含めた提案を行うなど、積極的に担当者とコミュニケーションをとり、場合によってはさらに別の部署との連携を図って情報の共有化を行うなど、社内横断的な活動を行うことで、よりフレキシブルなWebコンテンツ展開へとつなげているのです。

WS 乱立するサイトを整理して三大サイトに集約する。そこにはやはりブランディングの確立という側面も大きかったのでしょうか。

友山氏 もちろんそうです。ユーザーにとってはばらばらのイメージで展開されていたコンテンツを統括的に管理することで、トヨタ自動車自体のブランディングを確立し、より強力なプロモーションを行っていくということも大きな目的のひとつです。e-TOYOTA部は広報、宣伝、営業といった部門間の調整役となることで、マーケティング的な観点から一環したブランド戦略を推進していくものです。


4 グローバルカンパニーとして
WEBブランディングをワールドワイドに展開!


WS 三大サイトとは別に、今回新たにレクサスブランドによるLEXUS.jpを立ち上げていますが、これはビジネス戦略の中でどのような位置づけとなるのでしょうか。

友山氏 レクサスに関しては、高級車ビジネスという非常にターゲットの絞り込まれたマーケティングとなります。最高級の車のオーナーに対して、上質なサービスを提供するというのが主要な目的ですが、このLEXUS.jpによってトヨタ自動車が提案する最新の情報サービスの施策のあり方をコンシューマーに伝えるという目的もあります。アフターケアはもちろんのこと、オーナーとしての専用コンテンツを用意することで、つねに1対1で顧客に対するサービスを提供していきます。また、これにはレクサスをはじめとした各車種に搭載される車載通信端末「G-BOOK」も連動します。G-BOOKはカーナビに加えて、電子メールなどのネットサービスとエンターテインメントを融合した端末ですが、オーナーの車の状態をつねにケアし、適宜オーナーに対して有益な情報を発信することができます。これは冒頭にもお話しした『CRB』、つまり顧客とのより緊密なリレーションシップを構築するための施策のひとつですね。わかりやすくいえば、「おもてなしの心」をもって、つねにお客さまをケアするということになるかもしれません。

細やかなサービスでユーザーを迎えるレクサスのショールーム
細やかなサービスでユーザーを迎えるレクサスのショールーム
■細やかなサービスでユーザーを迎えるレクサスのショールーム
「おもてなしの心」をショールーム全体で具現化するレクサスの店内。高級車を求めるユーザーを満足させる調度品や接客サービスなど、細かな部分まで行き届いたつくりとなっている


WS 最後に今後のビジネス戦略におけるWebの理想像や将来的な展開についてお聞かせください。

友山氏 そうですね。現在では顧客によってさまざまなカーライフがあります。また、ひとりのお客さまでも年齢の経過によって、カーライフのあり方が変化します。トヨタ自動車では、すべてのシーンに向けて最適な情報発信を行うことを目指しています。そのためにはITおよびWebという技術は必須であり、わかりやすいインターフェイスと必要な情報へすばやくアクセス可能なコンテンツの提供を行っていくことが理想ですね。また、Webマーケティングというバーチャルと、ディーラーによるリアルな営業を有機的に結合して、いわゆるクリック&モルタルを推し進めていく点も重要です。そしてブランディング。特にリソースの共有を図ることで、グローバルな視点でのブランディング戦略を展開していきたいと考えています。

レクサスブランドサイトのトップページ「LEXUS.jp」(http://lexus.jp/)
■レクサスブランドサイトのトップページ「LEXUS.jp」(http://lexus.jp/)

レクサスブランドサイトのオーナー専用コンテンツの入り口ページ
■レクサスブランドサイトのオーナー専用コンテンツの入り口ページ
G-BOOKと有機的に連動している。たとえばオーナーは、車自身が走行距離から判断したタイヤ交換時期を、インターネットを経てこの専用ページで確認し、ディーラーで交換する日時を予約できる。そして交換日当日ディーラー側は、該当のタイヤ準備して万全の体勢でオーナーを迎えられる、といったような連携が可能になっている


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2005年 創刊号 vol.1からの転載です
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在