旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと、創作のスタンスに迫るコーナー。第34回目は板倉敬子氏。第1話では今年4月を機にリニューアルがはかられたヨックモックのパッケージデザインに注目する。
第1話
過去のイメージと新しさのバランス
「ヨックモック」
「パーソナルギフト」というキーワード
全国百貨店などで販売されてきた洋菓子「ヨックモック」。スウェーデンの街の名前を冠したそのブランのはじまりは1969年。贈答用ギフトとしても定着した感のあるブランドだが、今年4月を機にブランド・コンサルティング会社であるCIA Inc.|the brand architect groupのプロデュースによりリニューアルがはかられた。
「 バターをふんだんに使い、風味が良いにも関わらず良心的な価格で日持ちするという、過去にはなかった商品が魅力のヨックモックですが、そんな時代を超えて愛される味わいが、さまざまな洋菓子ブランドが台頭する中で埋もれないように、リニューアルされることになりました」
そこで掲げられたのが「パーソナルギフト」というキーワード。これまでのヨックモックといえば、個人が自分のために購入するというよりは、贈答用に缶入りパッケージで購入することのほうが主流だった。しかし、ここではより「パーソナル」な側面に重点を置き、あわせてパッケージも一新。
「 気軽に試してみる、あるいは自分にご褒美でもいいのですが、 8つのお菓子から好きな組み合わせで選んで購入できるようになりました。以前はそれを可能にする小さめのパッケージがなかったのです」
リニューアル時には「時代にフィットさせる」ことと同時に、従来の顧客を維持することも求められる。一新した途端、従来からの顧客が離れてしまっては元も子もないからだ。すると、これまでのイメージも踏襲しながらの試行錯誤が続くこととなる。
「ヨックモックが商品を訴求できる場所は、基本的に店舗とパッケージだけ。そこに、今までのイメージから離れたパッケージはふさわしくないでしょうし、新しさがなくてもリニューアルの意味はない。それに、お菓子職人が手作りしたような手作り感こそが、この商品のシズルですので、それはしっかり伝えたいと思いました」
さまざまな要素を前にバランスをとる
筒状のケースにパターン(模様)がシュリンクされ、くもりガラスのように仕上げられた新たなパッケージ。焼き菓子の焼き目が上品に目に入るとともに、キービジュアルともなっているパターンが洗練されたイメージを付加する。手作り感のある焼き菓子といってもカントリーテイストに転んではいけない。そこはカッチリとした書体をセレクトすることなどで、全体としてのバランスを保った。
「パッケージをデザインするにあたって目標にしたことは、シンプルでありながら、モダンすぎず、真っ当にデザインされていること。このパターンは現代のハナミズキ。もともとヨックモックのロゴがハナミズキをモチーフにされていることから得られたアイデアです。定番商品になるアイテムですので、やはりこういったブランドアイデンティティが使用されているべきですからね」
数年にわたって使用されるパッケージに関しては、デザイナーはもちろんクライアントも慎重になるもの。今回も例外ではなかった。決定に至るまでには、大きなプレゼンが3回以上、そこでの提案内容をもとに方向性は絞られていった。
「パッケージにお金をかけすぎることで、商品価格が跳ね上がって売れなくては元も子もない。そのあたりのバランスも大事。やはり時間はかかりますし大変ですが、やるからには売れるものにしたいんですよね」
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「 展覧会自体のアイデンティティ」について伺います。こうご期待。
●板倉敬子(いたくら・けいこ) |