第4話 エディトリアル・デザインのツボ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第4話 エディトリアル・デザインのツボ


白石良一氏

写真は「流れ」で見せる


――白石さんのデザインを拝見していると、写真の見せ方に独特のものを感じます。それは、木村さんの事務所での修業時代に学んだことですか?

白石●いや、木村さんのところではあまり学んでなかった。おそらく『SWITCH』をやりながら勉強したのかな。ちょうど写真ブームで、新しいフォトグラファーがいっぱい出てきた頃でしたから。あと……入社案内のデザインをしていたとき、鈴木理策さんとよく一緒に仕事をしてて。彼から教わったものは大きかったです。

――オーソドックスな写真の選び方をしますよね。

白石●エディトリアルとは基本的に、映画と同じだと思っているんです。ようはページをめくっていったときのテンポや止め方が大事で、1点1点の写真を見せようとする発想は捨てています。とにかく流れで見せる。それは映画と一緒で、このシーンの後にこのシーン……みたいな編集感覚。それを一所懸命、練習したんですね。

――右ページがいいか、左ページがいいか、とか。

白石●そう。事務所の床にレイアウト用紙を並べてね。いまもやってますよ。あと、以前はコピーで豆本を作っていたんです。仕事場が狭いから、特集40ページも並べられないじゃないですか。で、いちいち縮小したレイアウトをカッターで切って、ペーパーセメントで張り付けて(笑)。

――そういう作業を通して全体の流れを見る、と。

白石●見開きごと、こっちに移動かな……とか。そういうこと、割と『SWITCH』は自由にやらせてくれていたんです。

――いまは画面上で?

白石●ええ。でも、一応カラープリンターで出力して、いまも床に並べてますよ。そういう作業は、木村さんのところでもやってましたから。レイアウト用紙をバーと広げて、アシスタントが焼いた写真や本文組みのダミーを置き、いろいろ動かして試す。雑誌はいわば総合的なデザインですから、全部材料が揃わないと見えてこないんです。

――では、後送はいやですよね(笑)。

白石●うん。できるかぎり、材料が揃うまで待ちますよ。


『SWITCH』時代の作業で作った豆本

デザインの過程でレイアウトを縮小コピーして作った“豆本”のひとつ。個々のページの平面だけではなく、表1からの“流れ”をつかみ取る努力を怠らない。写真は『SWITCH』(December 1996 Vol.14 No.10/スイッチ・パブリッシング)のもの

白場のゆとりは読者のために


――その一方で、大胆な白場も特徴的です。

白石●よく言われますが、単純に白場があったほうがキレイだなって程度ですよ。写真を撮るときに、背景の構図を考えるのと同じこと。でも、雑誌で白場が多いと「もったいない」と言う編集者も多いです。大概「うるせー」と言って通すけど(笑)。

――頑に一貫してますよね。

白石●もちろん、白場を作れないほどビッチリ素材が入る媒体もあるから、ケース・バイ・ケースですけど。でもね、白場を作るのは、言ってみれば文字を読みやすく、わかりやすく伝えてあげる手段でもあるんです。

――雑誌の基本ですね。

白石●ええ。だから文字もしっかり組む。……ただ最近、目が悪くなってきて、以前は平気で8Qを使っていたんだけど、いまは使えない。キャプションは9Q以上、本文は13Qになってきてますね(笑)。

――タイポグラフィも堅いものが多いですよね?

白石●以前はこだわりを持っていたけれど、いまは書体のバリエーション自体が増えたからそうでもないです。結局、内容を伝えるための手段ですから。欧文でも和文でも、内容の気分を伝えるためにチョイスすることを心がけています。

――記事の内容というところでは、編集者とのコミュニケーションが必須ですね。

白石●お医者さんの問診と一緒で、打ち合わせで納得できるまでは手をつけない。納得できたら「この気分でやろう」と。あと、最初にタイトルだけはもらうんです。本文はできてない場合が多いから、タイトルからできるだけ読み取ることが大事になります。


オフィスで“床置き”チェック

現在手がけているフリーペーパー『ジェイヌード』のレイアウトを、事務所の床に並べながら確認している白石氏とアシスタント。このように俯瞰することで、画面上だけでは見えてこないデザインの緩急を見出すのがエディトリアルの“原点”である

次週、第5話は「クラシックを受け継ぎ続けること」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



[プロフィール]

しらいし・りょういち●1963年東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、木村裕治氏に師事。1994年に独立、白石デザイン・オフィスを設立する。以降、雑誌『SWITCH』『avant』『monthly M』などのエディトリアル・デザインを中心に活動。現在、雑誌『PLAYBOY』『OCEANS』『母の友』、フリーペーパー『ジェイヌード』などのアート・ディレクションの他、書籍装幀を手がけている。

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