「メディアアートの人にもっとゲームをつくってほしい」と宮本茂氏
第13回文化庁メディア芸術祭でシンポジウムが開催される


2010年2月5日
(取材・文:MdN Design Interactive)


任天堂の宮本茂氏

任天堂の宮本茂氏

ゲームクリエーター宮本茂氏が登壇

2010 年2月14日(日)までの日程で、東京・六本木の国立新美術館にて「第13回文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が開催中だ。同展では期間中、作品展示と同時にアート、エンタテインメント、アニメ、マンガの各部門における受賞者を招いたシンポジウムも12本開催される。

2月5日(金)に行われたシンポジウムでは、長年にわたるゲーム業界での功績を称えて「功労賞」が授与されたゲームクリエーターの宮本茂氏(任天堂専務取締役情報開発本部長)が登壇した。シンポジウムは約1時間で、宮本氏の話を生で聞くことのできるまたとない機会とあって若年層を中心に聴講者が多数集まった。


自分の足元を見てコツコツと取り組むこと

『ドンキーコング』『スーパーマリオブラザーズ』『ゼルダの伝説』などのヒット作の生みの親として知られる宮本氏に、ゲームデザイナーの河津秋敏氏が聞き手となって質問をする形で会は進行。河津氏もRPG『サガ』シリーズで知られるゲーム業界の重鎮で、株式会社スクウェア・エニックスのエグゼクティブプロデューサーだ。

ゲームデザイナーの河津秋敏氏

聞き手となったゲームデザイナーの河津秋敏氏

まず河津氏が功労賞受賞についての感想を質問。宮本氏は「年輩の方がいただくような名前の賞で、まだまだ現役のつもりの自分としては……(笑)」と冗談を交えながらも、受賞の喜びを表した。

続いて「世界的ゲームクリエイターの立場から、宮本さんを目指す若い人に向けて」という河津氏の問いに対して、「憧れや有名になりたい、という気持ちがあることもわかりますが、奇を衒って世界を、などと意識はせずに、自分の足元を見てコツコツと取り組むこと、作り手自身が面白いと素直に思ってコツコツとやっていくことが大事だと思います。ゲームというメディアが偶然それに向いていたのかもしれないが、ちゃんと取り組んでいれば、きちんと評価はされる」と自身の姿勢を紹介。


変わらなくてもいい

この後、宮本氏のこれまでに手がけたゲーム作品を映像とともに紹介しながら、自身の約30年にわたる経歴を説明。人形劇の人形作家や漫画家、アニメーターになりたかった少年時代から、工業デザイナーを志して金沢美術工芸大学へ進学したこと、任天堂入社後の『ドンキーコング』誕生前後の話、プロデューサーと現場とをかけもちしたNINTENDO64時代、また『Wii Fit』のような家庭内コミュニケーションのゲームが生まれた秘密など、数々の興味深いエピソードを、宮本氏らしく誰にもわかりやすい軽妙な語り口で披露した。

手がけてきた作品の特長や開発時のエピソードを宮本氏が映像つきで紹介

手がけてきた作品の特長や開発時のエピソードを宮本氏が映像つきで紹介
(C)Nintendo


最新作である『New スーパーマリオブラザーズ Wii』では、元祖であるファミコン版『スーパーマリオブラザーズ』と同じコンセプトでありながら、複数人で協力プレイや対戦プレイができるようになったことについての理由を河津氏が質問。宮本氏は、「シリーズ物の企画を任せると、若い人は変えよう変えようとする。でも、変わらなくてもいいものがある。変えるには、それがなぜそうだったのかを知る必要があるし、ただ変えるだけなら、その人がやってきたことと同じ体験をまたするだけ」と説明。複数名で遊べるようにしたことについては、2人で遊ぶことのできた30年前のアーケードゲーム『マリオブラザーズ』のエピソードを用いながら、初心者も熟練者も同時に複数で楽しく遊べることが長年やりたかったが、Wiiでようやく技術的に可能になったこと、そして対戦する遊びというのは誰もが普遍的に面白いと感じていることだからと説明した。


ジャンルにとらわれない仕事を


10 年以上前からメディアアート展によく通っているという宮本氏は、「ゲーム展よりも面白いぐらいで、今日見た作品もゲームより面白いものがいろいろあった。ただメディアアートの人たちは、“作家”なので“俺の作ったものを見ろ!”という臭いがする。しかし、人に使ってもらうことを考えて取り組んでほしいし、同時に、そういう作家の人たちにゲームというジャンルの仕事をもっともっとしてほしい。各ジャンルがつながっていってほしいし、もっと言うなら、ゲーム、マンガ、アート、アニメとジャンル分けしていないで、全部いっしょになっていってほしいなと思います」と同展についての感想で締めくくった。

宮本茂氏

(C)Nintendo

シンポジウムは、柔らかな語り口の宮本氏から飛び出すエピソード混じりのスピーチに場内が何度も笑いに包まれ、宮本氏の生み出すゲームと同様に楽しい雰囲気の中で進んだ。


■第13回文化庁メディア芸術祭 開催情報

会期:2010年2月3日(水)~2月14日(日) 10:00~18:00
金曜は20:00(入館は閉館の30分前、2月9日休館)
会場:国立新美術館(東京・六本木) 東京都港区六本木7-22-2
料金:観覧無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
(文化庁・国立新美術館・CG-ARTS協会)
問合せ:CG-ARTS 協会「文化庁メディア芸術祭事務局」フリーダイヤル 0120-45-4536

URL: http://plaza.bunka.go.jp/festival/