日本上陸間近のソーシャルストリーム「Groupon」(後編)
日本上陸間近のソーシャルストリーム「Groupon」(後編)
2010年9月6日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
本記事は「日本上陸間近のソーシャルストリーム「Groupon」(前編)」の続きになります。前編をお読みでない方は先に前編をお読みください
Grouponが、なぜこれほど短期的に急成長を実現できたのか。
まず、クーポン販売という低コストのサービスモデルを採用することによって、彼らはほかのECとは違って在庫管理や物流にコストをかける必要がない。
Grouponでクーポンを購入したユーザーが所定の金額をクレジットカードで決済すると、Grouponからメールが送られてくる。このメールには使用方法や購入証明を兼ねたクーポンのURLが入っており、購入したユーザーはこれをプリントして店舗に持参する。これにより商品やサービスが50%以上の割引価格で購入できる。Groupon自体はクーポンの対象者である出品企業にクーポンの販売価格から所定のマージン(50%と言われている)を引いた金額を払う。つまりクーポンに魅力があってユーザーがそれを大量に購入してくれる味付けさえすれば、黙っていても儲かる仕組みだ。
Grouponの統計によると、2010年6月には約600万枚のクーポンが販売された。一方で出品企業も、過去に出品した企業の95%が「また使いたい」と回答しており、実際1日に1品しか販売しないというポリシーのためもあって、1日あたり出品希望者としてウェイティングリストに名前を載せている企業はなんと1000社を超えているという。
企業からすれば、相当な割引率で商品やサービスを提供し、さらにGrouponに販売手数料を支払ったとしても、このクーポン販売を通じて得られる集客やPR効果のメリットを感じる企業の方が圧倒的に多いということだ。
では、なぜそれだけの集客力をGrouponが持っているのか、それが焦点になるのだが、それは実のところよくわからないのだ。結果的によく言われることは、彼らが従来型の広告やSEM(リスティング広告)などにコストをかけておらず、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアからのトラフィック流入の最大化(僕たちはそれを「SMO」と呼ぶ)に成功している。
Grouponの割引率の高さや、クーポンの販売期間を24時間以内とする、敢えての制限事項がユーザーの購買意欲を煽っているのは事実だが、その情報の拡声器として利用されているのがソーシャルメディアのトラフィック(「ソーシャルストリーム」)なのである。
「ソーシャルストリーム」とは、ソーシャルメディア上の人間関係(ソーシャルグラフ)の濃淡によって流れが決まってくる、複雑なトラフィックだ。信頼できる友人による情報、お勧めであればこそ、Grouponが提供するクーポンを購入してみようという気になる。いとクーポンの売買が成立しないため、購入したいユーザーはこのクーポンの情報を自ら積極的にTwitter等で瞬時に広める。FacebookにTwitter、これらソーシャルメディアがグルーポンの集客力の基盤となっているのだ。
Grouponのようなサービスは、時限的に商品と消費者を結びつけることなどから「フラッシュマーケティング」とも称されるが、そのように短時間における購買活動を実現しているのが、急激にWebをリアルタイム化した新世代のソーシャルメディアなのである。つまり、Grouponの本質は、ソーシャルメディアに寄生するECであるといえる。
Grouponらは「ソーシャルコマース」と呼ばれているが、それ自体がソーシャルメディア的というよりは、FacebookのようなメガSNSが生むトラフィックをうまく利用しているのが本当のところだ。もちろん共同購入という人と人とのつながりを必要とするルールがソーシャル的であるとは言えるし、24時間に制限された中で生まれる突発的な購買意欲発生への刺激がGrouponの特長ではあるが、Blogやクローズドな従来型のSNSではない、オープンでトラフィックを共有しあうソーシャルメディアの存在、そしてそこに横断的・波状的に流れるソーシャルストリームという新しいトラフィックがなければ、このモデルは成立しなかったのである。
Groupon
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。