「世界の気になるデザイナーたち(6) petronio associates」
「世界の気になるデザイナーたち vol.006
──petronio associates」
2008年10月10日
TEXT:蜂賀 亨
(クリエイティブディレクター/エディター)
「petronio associates」と聞いても、すぐにわかる人は少ないかもしれない。しかし、デザインスタジオ「work in progress」、あるいは、ファッション雑誌『self service』のアートディレクションをしているデザインチームといえばわかる人もいることだろう。petronio associatesはクロエ、プラダ、イブ・サンローラン、コレット、などラグジュアリー系ファッションクライアントのブランディング、アートディクションなどを手掛けているパリのデザインチームで、年2回発行のファッション雑誌『self service』の編集・発行、およびアートディレクションを担当している。今年になって名前をwork in progressからpetronio associatesと変え、同時にニューヨークにあったwork in progressのニューヨークオフィスもLi inc.と別会社になったようだ。
彼らが得意としているのは、ファッションクライアントを中心としたブランディング、アートディクションだが、彼らがデザインチームとして高く評価されたのは、会社設立とほぼ同時に創刊された雑誌『self service』があったからといってもいいだろう。創刊当時は、まだページ数も少なかったが、ファッション業界やデザイン業界では話題になった雑誌で、現在ではページ数も膨大に増え、世界を代表するファッション雑誌になっている。24号からはなんとハードカバーになり、雑誌関係者を驚かせた。
『self service 29』 最新号、毎号表紙がダブルカバーになっている
イネス・ヴァン・ ラムスウェルド&ヴィヌード・マタディンやマリオ・ソレンティといった世界的に有名なファッション写真と、ハーブ・ルバリンの「アヴァンギャルド誌」のようなタイポグラフィを使ったファッション誌のレイアウトは美しく、他のファッション雑誌にはない個性的なスタイルを持っている。彼らにとって年に2回発行する『self service』は、自分たちのアートディレクション能力をプレゼンテーションしているメディアにもなっている。クライアントからデザインを受注するだけではなく、自分たちでファッション雑誌を編集、発行、デザインしてしまうことで、彼らはファッション業界とのネットワークをさらに深いものにした。
おしゃれなファッション関係の仕事をしたいデザイナーはたくさんいるだろう。しかし、自分たちでファッション誌をつくれば、彼らと同じようにファッション関係の仕事ができるかというと、けっししてそうではない。ファッションの中心地パリにスタジオがあるという立地条件、デザインや写真に対する深い知識と経験、ファッション業界に関するネットワーク、そしてなにより世界クオリティの雑誌をつくること。それができるのはやはりpetronio associatesというチームだからだろう。まずは、自分たちでできるところからはじめようではないか。
デザインスタジオ「work in progress」の作品集(ガスアズインターフェイス刊)
[筆者プロフィール]
はちが・とおる●クリエイティブディレクター/エディター。ピエブックスを経て、クリエイターマガジン『+81』を企画/創刊させて11号まで編集長。その後ガスプロジェクトにあわせて、書籍「GAS BOOK」シリーズ、雑誌『Atmospehre』編集長などを担当。現在はフリーとしてグラフィックデザインを中心に企画/ディレクションなどで活動中。
http://www.hachiga.com/