「音楽シーンにもみられるストリーム化現象──後編」
「音楽シーンにもみられるストリーム化現象──後編」
2009年7月13日
TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
ストリーム化現象とは
日本のネットの業界では、残念ながらこのストリーム化についての論議をする傾向はまだまだ少ないが、米国のネット業界では、ストリームは最もホットなトピックのひとつであり、インターネット全体の変化を図るうえで非常に重要なコンセプトになっている。
ストリームとは見た目には単に時系列順に情報を記載していく手法であるが、Twitterにみられるようにリアルタイムで情報がアップロードされ、即時に掲示されることで、明示化された非常に動的な情報の“流れ”だといえる。
BlogであるとかTwitterであるというようなひとつのサイト内の話だけではなく、さらにWebサイト同士のリンクやマッシュアップが進み、多くのサイトがRSSフィードへの対応やAPIを公開することで、コンテンツや独自の機能、表現方法などが水平的に移動し、ストリームはいまや異なる複数のサイトをまたがるデータの流れとなった。
米国では、もはやストリームとWebは別物であるような論調も多く、Web2.0を超えた新しい概念と言っていい。
音楽の入手方法や聴き方を一変させたiTunes Store
iTunesが発生させたミュージックストリーム
ストリームはさまざまな世界へと伝播しており、リアル世界にも大きな影響を与えつつある。これは音楽の世界でも同じだ。というより、音楽業界は実はWebよりもっと早くストリーム化が始まっていたともいえる。
それはiTunesの存在がきっかけだ。iTunesは、当初から他のMP3管理ツールとは違って、いったんCD(アルバム)をリッピングしたらアルバム内の楽曲をばらしてしまい、複数のCDの楽曲をシャッフルしてしまう、つまり、DJのようなもので、CDというパッケージをばらしてしまうのである。
よって、ユーザーはそれらの楽曲を聴くときに、アルバムの製作者の意図通りの順番では聴かず、自分の好きな順番で聴く。つまり、CDというパッケージは、サイトというパッケージが意味をなさなくなったように、単なる一時的な箱に過ぎなくなったのである。
さらにiTunes Storeが登場し、ユーザーはアルバムとしてアーティストが発売したパッケージから、好きな曲だけをダウンロードしてしまう。iTunesはさらに全世界のユーザーの嗜好を分析して、独自のパッケージ(Genius)で提供する。これはまさしくストリームだ。
このストリームという概念はありとあらゆるところでみられるようになっており、今後インターネットを用いたクリエイティブ作業を行う場合には、この世界的にみられるストリーム傾向に即しているかどうかを検討していく必要があるだろう。
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。