第1話 4コマ漫画とストーリー漫画 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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いま、破竹の勢いで広がるWeb広告界。その最前線で活躍する中村洋基さん(株式会社電通)と佐野勝彦さん(株式会社博報堂アイ・スタジオ)が、さきごろ開催されたアドビ システムズ主催のイベントに講師として登場。今回の「ザ・対談」は、イベント終了後のお二人に話をうかがった。互いの制作スタイル、ルーツ、発想と日常の裏話、Flash、インタラクティブ広告の現在と未来……気鋭のWebクリエイターによる、ざっくばらんなトーク・セッションをお楽しみください。


第1話 4コマ漫画とストーリー漫画



中村洋基さん佐野勝彦さん


中村洋基さん(左)と、佐野勝彦さん(右)

アイデアを出すのが一番の苦しみ



──お二人とも、世代的にほぼ一緒で。

佐野●年齢は、僕の方がちょっと上ですね。

中村●佐野さんはド真ん中な世代というか、いま30〜31歳の人たち、Web系に携わる人がどっと増えた世代ですよね。デザイナー以外にも“ナナロク世代”と呼ばれる方が数々活躍している。ちょっと下の僕らからすると、そういう人たちをリスペクトしてやっていますよ。

佐野●ほんとに?(笑)僕らは逆にプレッシャーをかけられて、やばいやばい、頑張らなくちゃって。

──お互いの作品、お互いにどう思っていますか?

佐野●中村さんはバナーが多くて、僕はサイトをやってる感じですよね。バナーもたまに作るのですが、やっぱりアイデアを考えるのがすごく大変。いろんな選択肢がありますからね。サイトは全体設計を考えた後、こうやっていかないと……と、ある程度のシボリがある。

中村●バナーは広げていく感じですね。

佐野●その中で幅広いものがあって、いつもアイデア出すときに悩む。あーでもない、こーでもないと。きっと、それを中村さんは何回もやっているのだろうと思ってて。それは凄い。しかもあの量だから、相当考えているんだろうなって。

──今回は、そうした裏側の苦労も聞いてみたいと思っています。

佐野●仕事してて、やっぱりアイデアを出すのが一番力を使いますよ。というか、作る部分はもう勢いでやってしまう。でも一番最初、決めることが大変なことなので。

──中村さんの作風は、よく漫画っぽいと言われますよね?

中村●ええ。実際に僕は、発想が4コマ漫画っぽいですよ。作ったもの、ほんとにコンテを見ると起承転結になっている。あまり自分では意識してないのですが、できるだけ「自分だったら楽しいな」という発想でいる。もうちょっとオトナなところに持っていきたい感じなんですけど……みんなから「漫画っぽい発想だね」と言われますね。

佐野●あの感覚、僕には真似できない。

中村●逆に僕は、佐野さんの仕事、純粋に「カッコイイ」と思ってて。僕が作ったものを見せても、その場で受けはするけど、流れちゃいそうな気がする。瞬発的なものが多いですから。それは考え方の違いではなくて、指向が違うだけなのだと思いますが。

佐野●ほんと指向性、全然違う(笑)。

中村●だから、僕が4コマ漫画に近いとすれば、佐野さんはストーリー漫画に近いのかもしれない。


公共広告機構「過去」

中村さんの仕事より、公共広告機構「過去
フマキラーA、クレラップ、ダイハツ「Tanto」……バナー広告の世界において、まさに「インタラクティブ」かつ奇想天外な
クリエイションをみせる中村さんが、2006年カンヌ広告祭金賞をはじめ各賞を獲得したHIV検査の啓蒙広告。
カーソルを重ねてみると、恋人の彼女から元カレ、その元カノ……とラインが繋がり、最後にこのメッセージが登場する

「もっと自由」の可能性を知る



中村●一方、自分でアップするサイトの場合、逆にできることがいくつもあって苦労するんです。できることを取捨選択して、どこまでいけばカタルシスを得られるだろうか……自分がユーザーの視点で考える。で、あれも欲しい、これも欲しいと思ってしまう。

佐野●いくらでも、ぶら下げていけますからね。

中村●でも、統一感も大事。そういうふうに考えると、僕の方こそ、どういうふうにまとめあげようか……いつも佐野さんみたいにカッコよくまとめたいなと思う。でも、結局あれもこれもってなるから「きょうのおむすび」みたいになっちゃうんですよ(笑)。

──どんどんシンプルになっているのは共通しているのでは?

中村●そうですね。さきほどのイベントで「技術よりアイデア」という話をしてきたのですが、そのアイデアも人に伝わらないと意味がない。やっぱりカンヌ広告祭などで受賞している作品って、すごいところが一言で言えるアイデアなんですよね。サイトでもバナーでも、僕もいつも“びっくり”を一個作るようにしている。そういうところに収束しようとしているんです。多分アウトプットは違うけれど、佐野さんも同じようなところに収束したいんじゃないかな……と。

佐野●Webサイトは、既存のマスメディアよりもたくさんの情報を詰め込めるメディアという位置づけがありますよね。その中で、イメージとして一本の線が残るような努力はしています。そのへん、僕も中村さんもカンヌに20代のうちに行ったことが大きく影響しているのかも。ああいうところに行くと、日本の広告の狭さ、表現の狭さをすごく痛感して。で、もっと自由なことできるじゃん……と思う。そういうアイデアの幅の広がり方は、方向がちょっと違っただけで。

中村●そうなんですよね。で、カンヌで見たものはサイバーなものではない。グラフィックや世界おもしろCMみたいなものをずっと見て「こんなことやっていいんだ!」という驚きが一杯ある。それを自分に引き当ててみたら、サイトでもバナーでも、こういうのもできるじゃん……という考え方が身に付いた。それは経験上、大きかったですよ。


Vodafone Design FileVodafone Design File

佐野さんの仕事より「Vodafone Design File」
近未来の機能やサービスをもとに、新たな携帯デザインを提案する「Vodafone」のプロジェクト・サイト(2004年)。
ダイナミックかつ流麗なデザイン、細やかで有機的なアクションを生むFlashワーク、みずみずしいBGMサウンド……
コンセプチュアルなテーマを申し分なく昇華し、Webクリエイティブの“現在形”を随所で形作った。
第52回カンヌ国際広告祭・サイバー部門銅賞ほかを受賞

次週、第2話は「Webクリエイターになるまで」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏 取材協力:アドビ システムズ株式会社)


*中村洋基さん、佐野勝彦さん両氏が講師を務めたイベント「Adobe Creative Suite 3 Web Edition TOUR−Deep Dive
キモチヨクハタラク!?」のレポートは、こちらまで。


中村洋基さん

[プロフィール]
なかむら・ひろき●1979年生まれ。株式会社電通IC局に勤務。アート・ディレクター/プログラマー。大学在学中よりWeb制作に携わり、ニッポン放送を経て、2002年に電通入社。以降、Flashディレクション、バナー/サイト制作業務に携わる。カンヌ国際広告賞金賞をはじめ、ロンドン国際広告賞グランプリなど、国内外で多くの受賞歴をもつ。


佐野勝彦さん

さの・かつひこ●1976年生まれ。株式会社博報堂アイ・スタジオに勤務。クリエイティブ・ディレクター/アート・ディレクター。企画、デザインからFlashまでトータルにサイト制作を手がける。Cannes Lions 銅賞、NY Fest.銀賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞など、国内外のアワードを多数受賞。個人での作品制作を行い、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作にも選出されている。http://www.30k2.com


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