第12回 ニュースで振り返る「デザインと法律」

デザイナーのための著作権と法律講座


最終講 ニュースで振り返る「デザインと法律」


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 中川隆太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)



本連載も12回目を迎え、いよいよ最終講です。今回は、2013年から2014年の間の「デザインに関係する法律問題がポイントとなったニュース」を、3つの視点からピックアップして振り返りたいと思います。共通するテーマは「法律はツールであるということ」です。


■ 「契約」の重要性


アート/デザインと法律に関するニュースを振り返ってみて印象的なのは、基本的なことですが「契約の内容をきちんと理解した上で契約を結ぶこと」の重要性です。

2014年に入り、ローソンの電子書籍サービス「エルパカBOOKS」の閉店により、ユーザーが購入済みの電子書籍を読めなくなってしまうことが大きく報じられました。ユーザー側は、紙の本と同様に「一度購入すればずっと読める」と期待していたのに対し、電子書店とユーザーの契約内容がそうはなっていなかったためです。この点は、かつて「iTunes Storeで購入した楽曲を他者(別アカウント)に譲渡できない」ことが問題視された米国のケースも同様でしょう。 Book 消費者保護などの観点からユーザーが法律上どのように保護されるのかというのも大切な視点ですが、個々のユーザーの防衛策としては、やはりまず「その商品を購入する/サービスに申し込むと何ができて何ができないのか」をきちんと理解した上で利用することが重要です。


また、2月にはクリープハイプのベストアルバム「クリープハイプ名作選」について、メンバー自らが「自分たちの意思に反してレコード会社が一方的に出した」という趣旨のファンへ向けたメッセージを発表して、話題になりました。これも、アーティストとの契約でレコード会社がそうした権利を得ているからこそ起こる事態です(過去にも、YMOやスピッツなどのベストアルバムをめぐりアーティスト側とレコード会社側の意見の対立が一部表面化したケースがあります)。

作品を大切に思うならば、その取扱いを決める契約の内容も、同じように大切なはずです。皆さんが作品に関する契約を結ぶ際も、業界慣行や信頼関係だけに頼らずに、内容についても慎重に検討する必要があるでしょう。


■ ブランド戦略と商標権


商標権を利用したブランドの守り方についても考えさせられるニュースが続きました。例えば、大分県が行った「おんせん県」の商標登録出願に対し、温泉を観光資源とする多くの自治体を中心に批判が相次ぎ(さらに特許庁からも登録が拒絶され)、2013年5月、大分県は「おんせん県」の登録を断念しました。

また、同年11月には、NHKドラマ「あまちゃん」発の流行語「じぇじぇじぇ」について、NHKでも脚本を担当した宮藤官九郎さんでもなく、ロケ地となった久慈市所在の菓子店から商標出願されていることが発覚してちょっとした騒ぎになりました。 stick しかし、これらの出願がブランド戦略として有効だったか、少し疑問もあります。 商標権はブランド戦略上有効な「武器」となりえますが、決して「商標権さえ取れば安泰」というものでもありません。

特に、すでに知名度のあるフレーズやマークを商標出願する場合、たとえ「誰かに独占されるのを防ぐため」であっても、その独占につき共感を得られる実態がなければ、社会の反発を招くことも少なくないため、ブランド戦略上逆効果にもなりえます(なお、登録が認められない場合もあります)。
あくまで商標権も一つのツールに過ぎないことを前提に、戦略を練る必要があるでしょう。



■ 公共空間とアートの法的課題


公共空間とアート/デザインをめぐる法律関係についても、いくつかのニュースで問題となりました。

2013年6月には、大阪の新梅田シティの公共庭園内に、建築家の安藤忠雄さんの発案によって「希望の壁」という大型緑化モニュメントを設置するという計画に対し、庭園の元の設計者である吉村元男さんが、庭園(著作物)を著作者の意に反して改変するものであると主張して工事の差止めを求めるという事件がありました。もっとも、法律上、建築の著作物の改変(模様替え)が認められる場合と類似することを理由に、裁判所は工事の差止を認めませんでした。純粋な公有地ではありませんが、広く利用者に開かれた公共空間という性質に伴う要請と、デザイナー/アーティストの権利をどう調整するかが問われたという見方もできるでしょう。

また、公共空間とアートに関する法的課題として最近議論されているのは、プロジェクションマッピングに関する法的規制の問題です。近年、プロジェクションマッピングは、テクノロジーにより都市をアート化する試みとして本格的な広がりを見せていますが、hatこの分野の最前線で活躍されるライゾマティクスの齋藤精一さんも、都市でプロジェクションマッピング等の作品を作る際の最大のハードルはレギュレーション(法的規制)と認識されているように(WIRED.JP 2014年3月17日付記事)、景観保護や道路交通法、屋外広告物規制などの行政規制が実施へのハードルとなっています。


屋外広告物規制を一例にとれば、都道府県毎に条例が定められ、看板やポスターなどの屋外広告物につき一定の制限(エリアやサイズなど)が課されており、プロジェクションマッピングも「広告板」の一種として規制対象になるというのが行政の典型的理解です。(東京都では、2013年3月の屋外広告物審議会で、①映像内に企業名、団体名、商品名などが一切含まれず、②イベントなどでの一時的な利用に留まる場合には、「屋外広告物」に該当せず規制対象外であると整理されています。なお、規制対象となる場合も、禁止区域でなければ、一定の条件(公道を越えての投射はNG/規定のサイズの上限など)に従えば、許可を得て実施することが可能です。)

東京都のこのような指針は、柔軟な対応の一例と言えます。しかし、東京オリンピックを6年後に控え、テクノロジーを活用した都市型のパブリックアートにより東京や日本の魅力をアピールすることが、hat景観保護や道路交通法などを含む行政規制により不可能(あるいは不十分)となってよいのかという課題は、今後ますます浮上してくるでしょう。このように、たとえ行政規制でも単純に絶対視せずに、都市/国家をコントロールするためのツールであると認識して、これからの都市の在り方を再考し、より柔軟なルールを模索することも必要だろうと感じます。


■ 連載のおわりに


さて、本連載ではこれまで様々な角度からデザイナーと法律の問題をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。本連載でお伝えした内容が、一人でも多くのデザイナーやクリエイターの方にとって、法律という「ツール」を理解し、これを使いこなしていくためのきっかけになれば、これ以上嬉しいことはありません。またいつか、お会いしましょう!


  アートと権利、今月の話題 (2014年4月分)

  裁判

 「ダンス営業規制をめぐる『NOON』裁判で無罪判決 風営法改正に弾みか」

クラブ「NOON」を経営していた金光正年さんが「無許可で客にダンスをさせていた」として風営法違反の罪に問われた裁判で、4月25日、大阪地裁は無罪を言い渡した。風営法が規制する「客にダンスや飲食をさせる営業」は、性風俗の乱れにつながるおそれが現実的に認められる営業に限られるが、摘発当時の客のダンス(ステップを踏む、腰をひねる等)は性風俗の乱れにつながるものだったとはいえず、許可を得ずに営業しても風営法違反ではなかったと判断した。この営業規制をめぐっては、超党派の議連が規制撤廃/緩和の方向で今国会での風営法改正を目指しており、今後もこの問題から目が離せない。


  動向

 「デジタルコンテンツの海外からのネット配信に消費税を課税する方針」

政府の税制調査会は、4月4日、海外から日本国内の消費者に向けた電子書籍などのデジタルコンテンツのネット配信に対し、消費税を課税する方針を明らかにした。来年度の改正を目指すという。現在、海外からのネット配信については消費税が課税されていない。そのため、海外配信事業者は、事実上、国内の配信事業者よりも消費税相当額だけコンテンツを安く販売できており、国内事業者から、不公平であると指摘され続けてきた。海外からの国内向けネット配信額は、2012年には5119億円だったとの試算もあり、仮に来年度も同程度であれば、単純計算すると400億円を超える税収増が見込めることになる。


※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年7月号)の記事を再掲載したものです。



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2014/9/3





【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


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