第1話 ニッチなジャンルの展覧会 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第30回目はパンゲアの青木康子氏。第1話ではゴス/ゴシックをテーマにした展覧会のポスターとカタログ本に注目。

第1話
ニッチなジャンルの展覧会
「ゴス展 GOTH:Reality of the Departed World」


マニアックな方向に偏らせない


2007年12月から2008年3月まで、横浜美術館で「ゴス展 GOTH:Reality of the Departed World」が開催された。青木さんは、そのポスターやチケットなどの各種アイテムを手がけた。

「ゴスロリも含め、ゴスは見る人に強烈な印象を与えます。この展覧会でも、やはりそうだったのですが、そのダークな雰囲気をポスターで強調しすぎるとマニア限定に偏ってしまうのが心配でした」

極端に言えば、コアなファンはポスターがどんな風であろうと会場に足を運ぶ。そうでない人を、どれだけ振り向かせられるかが今回のポイントだ。そこで青木さんは一般的な視点を大切にしながら制作に臨んだ。

「ゴスについて自分が深く知る必要はないと考えました。ゴスの世界そのものを表現するのは美術展の役割で、むしろポスターでは展覧会が何を訴求するものなのかを広めることが重要なのです」



ポスターのメインビジュアルに用いられたのは、出展者の1人、Dr.ラクラの作品。彼のアートにもショッキングな作品は多いが、そのなかでも「毒があるけれどかわいらしさも感じられる」ものが選ばれた。

「原画とポスターとでは色味が大きく異なります。ポスターではCMYKにベージュ版を重ねて、うっすらとグラデーションの“汚し”を被せています。そのほか、外枠も均等ではなく歪ませたり、ところどころに極細の線を描いたりしました。死の世界にも関連して、精神の不安定さを表現したのです」

蛍光ピンクで少し狂ったポップに


本展に合わせてカタログの役割を果たす書籍も発行された。表紙には金の紙を使用して、UV加工で作品写真を掲載。透明のカバーには、メインとなる白インキ、バーコードやキャプションのための黒インキのほか、ワンポイントでピンクも刷られている。



「見返しの紙の色や、三方の小口もピンクで統一しました。ゴスの重い雰囲気を、少しだけポップな方向に押し上げたいと考えたのです。ただ、正当なポップではなく、どこか常規を逸した感じを出したかったから蛍光色を選びました」

前小口には、さらなる工夫も見られる。本文ページの見開きのうち、左端と右端の裁ち落とし部分に数ミリのスペースを設け、イラストや文字を分割した印刷を施した。辞書のインデックスなどに用いられる、いわゆる「小口印刷のように見えるテクニック」である。

「左端には蜘蛛とドクロ、右端にはタイトルのGOTHと、それぞれ異なる要素を印刷しています。だから、束を左に曲げるとイラスト、右に曲げると文字が現れます。通常の状態では両者が重なってしまうことになりますが、小口印刷のピンク色がそれを隠す役割も果たしているのです」


(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第2話は「素材感に溢れた制作物」について伺います。こうご期待。


[プロフィール]
あおき・やすこ●アートディレクター。1988年からサイトウ・マコトデザイン室に在籍。1994年に設立。2001年有限会社パンゲア設立。美術展のグラフィックやアパ レルブランド「LOWRYS FARM」のクリエイティブディレクション、その他、広告、パッケージ、CM、ロゴなど分野を問わず幅広く活動。NY ADC国際展・銀賞、ブルーノ国際ビエンナーレ・入賞、東京タイポディレクターズクラブ・TDC賞入賞、日本パッケージデザイン大賞2005・入選など受 賞歴も多数。



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