あらためてiPhone 4のデザインを考える(前編)



あらためてiPhone 4のデザインを考える(前編)
2010年8月17日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

最近街中でiPhone 4のユーザーが増えてきた。同時に、カフェなどでのコンピューティングをiPadで行うビジネスマンの姿も良く見るようになったが、今回はiPhone4に話を絞ろう。

いまさらながら、Appleのモノづくりのすばらしさに感動するのだが、iPhoneは外見上は非常にシンプルな携帯電話でありながら、画面を見ながら歩いている多くのユーザーとすれ違うたびに、それがiPhoneであることを瞬時に知覚できることがスゴい。そして、iPhone 3Gと3GSの区別は外観からはわからないが、iPhone 4はわずかなデザインの変更でしかないのに、その違いがわかる。iPhoneというアイデンティティを継続したまま、シリーズの違いを見事に認識させるのはクリエイターの非常な技量の高さだ。

翻って日本の携帯電話を考えると、まずどのメーカーのどの機体を見ても、ロゴや製品名を見るまではどれがどれだかほとんどわからない。同じメーカーの同じシリーズであっても、都度ころころデザインを変えてしまうから、やはりどれがどれかわからなくなる。デザイン言語に一貫性というか、核となる背骨をもたないから、変化の歴史を筐体にDNAとして残しておくことができないのだ。

実はこれは携帯電話に限ったことではない。

クルマも同じで、Audi(アウディ)もBMWもPeugeot(プジョー)もMercedes(メルセデス)も、ある程度の世代によって変化はするものの、数年単位で一貫したデザイン言語をもち、どの車種であっても統一した印象をもたせている。特にフロントデザインはクルマの顔であり、このデザイン次第でブランドの方向性が決まっていく。

日本のクルマには、このフロントデザインに対する思い入れが少ない、と思う。一台一台では特長あるクルマもあるが、メーカー全体のブランドコントロールは正直いまだにヨーロッパ車には遥かにおよばない。だからあれがどうしてもほしい、と思わせる製品があまり出なくなってしまっているのだ。

話をiPhoneに戻すと、Appleは携帯電話がつねにユーザーの30センチ以内の超短距離エリア(手の届く範囲)にあると同時に、人の目に触れるところで利用されるという、あたりまえのことを良く知っている。だからそのためのデザインを施している。強い愛着は、自分にとっての美しさや使いやすさだけではない。自我だけではなく“他我”の視点が必要だ。つまりそれを使っている自分がだれかに見られているという事実まで想いを寄せてデザインしているのがAppleなのだ。



iPhone 4

少し話を変えるが、iPhone 4のCMを見たことがあるだろうか。
現在は「FaceTime」という、いわゆるテレビ電話機能を紹介することで3GSからの買い替えを促す内容だ。そのクリエイティブがまさしくすばらしい。ろうあ者同士と思われる遠距離恋愛中のカップルが、iPhoneのテレビ電話機能を使って手話で会話している。ろうあであれば電話はできない、それがいままでの常識だが、iPhoneならばそうした人達にも、遠くにあっても互いを想う気もちをリアルタイムで伝え合うことができる。そういうエモーショナルな感動を、そもそもまったく音声を使わないCMで表現している。あまりにもすばらしいではないか。(後編に続く)


■著者の最近の記事

ソーシャルメディアマーケティングの主軸=SMO(Social Media Optimization)とは(後編)
ソーシャルメディアマーケティングの主軸=SMO(Social Media Optimization)とは(前編)
Apple vs Googleの“次”の市場
「Google Me」はFacebookに対抗するための武器になるか(後編)
「Google Me」はFacebookに対抗するための武器になるか(前編)
iOS 4がもたらす“革命”とは(後編)
iOS 4がもたらす“革命”とは(前編)
iPadをビジネスツールとして使う方法とそのためのアプリ【2】
iPadをビジネスツールとして使う方法とそのためのアプリ【1】





[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

MdN DIのトップぺージ