成人を迎えたWebは衰弱の道を辿るのか?

成人を迎えたWebは衰弱の道を辿るのか? 2011年8月9日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

WWW(World Wide Web)と書いても、もはやなんのことかわからない読者が増えている。たんにWeb、と呼ぶべきかもしれない。いずれにしても、Eメールと並ぶインターネット利用ツールとして最大のシェアを持つWebは、1991年に誕生し、今年ついに生誕20年を迎えた。人間でいえば成人だが、Webは今後どのような形で成熟していくのだろうか。

Webとはなにか、という問いに即答できるのは、インターネット業界で活躍している人に限られるだろう。WebとはHTMLを主要言語として書き出されたデータファイルに、URI(Uniform Resource Identifier)と呼ばれる、場所や名称などのデータリソースを識別するための記号を埋め込み、そのURI同士を相互参照(一般にはリンク)させる「ハイパーリンク」によって構築されるネットワークのことだ。

Googleのように卓越した検索エンジンの登場と、ブログの普及によるパーマリンク(上書きされることがない、つねに同一のデータリソースを識別できるURI)の考え方が一般的になったことによって、Webは非常に広大で有機的なデータベースとなった。

PCにおいては、「コンピューティング=Webを使うこと」(すなわちブラウザ上でWebアプリを使うこと)となったが、コンピューティングの舞台がPCからモバイルに移行するなかで、Webアプリではなくクライアントにインストールするネイティブアプリによるコンピューティングが復活し、さらにインターネットの利用もWebではなくネイティブアプリ経由が一般化しことで(代表なのはiTunes StoreやTwitterアプリなど)、一時Webは死んだという論調がわき起こった。

しかし、20歳を迎えたWebは、これから成熟していく。モバイルにおいてもスマートフォンのCPUやバッテリーの能力向上が進み、PCの後を追うようにクラウド化が進むことはまちがいない。現在のモバイルアプリの隆盛は、あくまでWebを十分に活用するにはハードウエア環境が貧弱であるためで、Webの利用が減衰しているように見えるのは、あくまで過渡的な現象なのだ。

GoogleのモバイルOS Androidは順調にシェアを伸ばしているが、この状況にもっとも歯がゆさを感じているのは、ほかならぬGoogle自身だ。なぜならAndroidは旧世代的な組込みOSであり、Webと一体化したOSとして本来全力で普及に努めなければならないのは、クラウドOSであるChrome OSだからだ。Googleは徐々にChrome OSへのコミットを強め、PC上ではダイレクトにChrome OS搭載機の継続的なリリースを繰り返していくだろう。モバイルについてはAndroidがここまで普及してしまった以上、いきなりの切替は不可能なので、Chromeブラウザ経由での、やや間接的なChrome普及を進めていくだろう。対してAppleはiOSとMac OS Xの融合とiCloudの普及により、Macとモバイルの両方で、ほぼ同時に自社OSのクラウド化を進めていくことになるだろう。

いずれにしても、現在のコンピューティングの中心にいるGoogleとAppleは、共に非常に似通った戦略をとりながら、競合と協業を繰り返していくだろう。






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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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