Google+が狙う検索とソーシャルのハイブリッド戦略

Google+が狙う検索とソーシャルのハイブリッド戦略 2011年8月22日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

Googleは、検索エンジンによるWeb上のトラフィックを広告によって換金する企業だ。ネットユーザーはWeb上のコンテンツを見るために、リンクをクリックする。クリックすることで、Web上にトラフィックが発生する。Googleは検索エンジンを使って、ユーザーにほしい情報の場所(Webサイト)を教え、その場所を示すリンクをクリックさせることでユーザーを特定の場所に誘導する。企業からすれば、Googleの検索エンジンから発生するトラフィックを自社に誘導したい。そのためにお金を払うのである。Googleはそういう企業から広告費の名目でお金をいただく。それがGoogleの事業である。Googleにとって、世界中のありとあらゆるWebの情報を検索できるという状況こそが望ましいわけだ。

つまり、オープンなWebがあってこそ、あれだけの巨大な存在感を維持している。しかし、いまやそのWebは、スマートフォン上のアプリケーション群によってネット利用の最大シェアの座を奪われ、さらにFacebookという閉鎖的な空間がWeb上に広がることで、Googleが検索できない領域が加速度的に広がりつつある。体内に巣食う癌細胞のように、Googleが理想とするWebの健全なオープン性を徐々に蝕みつつあるのである。

そうした状況を見のがせるわけもなく、Google Wave、Google Buzzなど、さまざまな手法でFacebook対抗のソーシャルネットワークサービスをリリースしてきたGoogleだが、ことごとく失敗に終わってきた。ソーシャルとは端的にいえば人間関係のことだが、Googleはその距離感を数値化したがる。しかし、現実には数字で割り切れないのが人間関係であり、すべてのネットサービスをアルゴリズムで組み上げてきたGoogleにとっては、このあいまいな距離感を許容することに価値があるソーシャルネットワークサービスの運営は、もっとも不得手な分野であることはまちがいない。

とはいえ、FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービスが発生させるトラフィックが、検索エンジンが生むトラフィック量を完全に凌駕してしまえばGoogleは存在価値を失う。Web 2.0以降、ネットユーザーおよびネットサービスはソーシャル化の一途をたどっている。だからGoogleからすれば、トラフィックエンジンとしての検索エンジンの相対的な地位の低下は避けられないとしても、少なくともFacebookやTwitterらと等質のトラフィックエンジンを自前でもつことにより、ハイブリッドトラフィックエンジンとして生き残りを賭けるのだ。

トヨタのプリウスはガソリンエンジンと電気モーターの双方を組上げた、いわゆるハイブリッドエンジンを搭載している。自動車業界ではエンジンからモーターへのパワーシフトが始まっており、電気自動車がやがては主流になると思われているので、トヨタもやがては電気自動車に経営資源を集中するかもしれない。しかし、プリウスはエンジンとモーターを併せ持つ交配種(ハイブリッド)として現時点では好セールスを記録し続けており、当分はハイブリッド戦略をとり続けるだろう。

同じように、インターネットのトラフィックエンジンは検索エンジンからソーシャルネットワークへとシフトするかもしれないが、現時点ではハイブリッド戦略をGoogleは採択しているといえるのだ。それがGoogle+であり、Google+は検索エンジンとソーシャルネットワークサービスのハイブリッドトラフィックエンジン、と僕は考えている。






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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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