Android普及の裏にある、アンディ・ルービンの思惑

Android普及の裏にある、アンディ・ルービンの思惑 2011年09月12日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

GoogleのモバイルOSであるAndroidは、現在1日50万台のペースでアクティベートされている。アンディ・ルービンは、そのAndroidの開発を中心として、Googleの技術部門担当副社長を務めている人物だ。

彼はもともとAppleでも勤務したことがあるエンジニアで、Danger社というスマートフォン開発ベンチャー(Sidekickというスマートフォンで有名)を興したことでも知られているが、やはり彼の名前を世界に広めたのは、Danger社がMicrosoftに買収された際に創業したモバイルOS開発ベンチャーのAndroid社が、Googleに買収されたことだろう。その結果「無償で世界中の携帯電話メーカーに提供するモバイルOS」というコンセプトで再開発されたAndroidは、名実ともに世界でもっとも普及したモバイルOSとなった。

彼はカメラの高性能レンズで知られる光学機器メーカー、Carl Zeissを経て、1989年にAppleへ入社している。その翌年、Appleの子会社だったGeneral Magicに出向し、そのときにモバイルデバイスのOSやUI設計に携わったとされている。現在GoogleはAppleにモバイルOSの特許がらみでの訴訟問題に悩まされているが、その一端はルービンのこのキャリアにあるといわれている。General Magic所属時に得たアイデアを盗用している、というのだろう。

それはともかく、ルービンは2003年10月Android社を設立したのちに、先述のごとくGoogleによって買収され、世界的なAndroidの人気を受けて、経営幹部に抜擢されている。AndroidがスマートフォンのOSとして世界中の携帯電話メーカーに採用されるまでには相当の紆余曲折があり、iOSを脅かす存在へと成り上がることができたのはひとえにルービンの熱意の賜物だ。Android発表当時は、スマートフォンのOSはWindowsやRIM(Blackberry)全盛であり、多くの携帯電話メーカーから冷ややかな対応を受けていたものだ。iTunes Storeを世界中の音楽レーベルと根気よく交渉して認めさせてきたスティーブ・ジョブズに似て、のちに偉大な成功と称される素晴らしいテクノロジーやアイデアが、粘り強い個人技によって支えられていることが多いということを再認識させられる。

逆にいえば、PCもモバイルもひとつのOS、かつクラウドベースのOS(すなわちChrome OS)に統合していきたいGoogleからすると、このAndroidの驚異的な成長はうれしい反面、若干複雑であるはずだ。Appleはスティーブ・ジョブズの置き土産のひとつであるiCloudによって、OS統合がGoogleに先んじて進みつつあるうえ、インストール型のOS(Mac OS XもiOSも、Androidもそうである)をベースに、データ連携をクラウドを介して行うスタイルの擬似的なクラウドコンピューティングを展開しつつある。これはGoogleが望むほんとうのクラウドコンピューティングとは違う。だからGoogleとしてはChrome OSを早くPCからモバイルに展開したいのだが、いまのところPC側でも普及に加速がついていないし、モバイルではAndroidが強すぎて市場からChrome待望論は出てこない。GoogleにとってはAndroidの普及はiOS対抗上でも良いことであるが、Chrome OSへのシフトを遅らせる要因になっている。だから会社としては多少複雑と思われるが、起業家ルービン個人としては、ある意味してやったりという気分かもしれない。

アンディ・ルービンは今年10月19-21日に香港で開催されるAsiaD(AllThingsDigital Asia - http://allthingsd.com/conferences/asiad/register/)というイベントに、Yahoo!のジェリー・ヤンやTwitter共同創業者のジャック・ドーシーらとともにスピーカーとして登壇予定だ。僕もこのイベントに参加予定なので、非常に楽しみにしている。





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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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