スティーブ・ジョブズが遺した偉大なる遺産

スティーブ・ジョブズが遺した偉大なる遺産 2011年10月12日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

米国時間2011年10月5日、われわれのデジタルライフに多大な影響を与え、人類の進化の方向性にまで作用する大きな力をもった偉大な人物がこの世を去った。スティーブ・ジョブズはもともとエリートでもない、大学さえ出ていない。エンジニアでもないし、デザイナーもしくはクリエイターとしての正式な教育やトレーニングさえ受けていない。ジョブズはみずからの身中から湧き出るインスピレーションを類希なる情熱と信念をもって、形にすることができた真の天才だったといえる。ジョブズの凄いところは、自分ではプログラミングができないし、実際に設計やデザインを自分の手で行うこともできないからこそ、みずからの代わりに行ってくれるエンジニアやデザイナーを愛し、重用し、彼らの技量や発想をギリギリまで絞り出すように使い切ることに成功したことだ。

自分自身が妥協しないというのは、ある意味当たり前だが、部下やチームにも妥協のない仕事をやらせきることは非常に難しい。リーダーとしてみれば、その下で働くことをためらってしまうほど過酷な労働環境をチームに強いるのがジョブズのスタイルだったかもしれないが、彼は製品への愛や自分たちのブランドを、ひとつの宗旨(カルチャー)として高め、それをチーム全体のモチベーションの要とすることで、士気を保ち、最後までやり抜く開発スタイルをAppleの特長として焼き入れすることに成功した。

すばらしい発想を生み出すこと。余分な機能を足さない、間引く覚悟をもつこと。そしてそのスタイルを継続すること。妥協しないこと。これらがAppleをAppleたらしめている。

エントロピーの法則のように、いったんつくりあげたすばらしい組織でも、指導者が代わり、その構造を保ち続けるための要を失うと、簡単に瓦解する。しかし、ジョブズのつくりあげた組織はあまりにもすばらしいので、しばらくは彼の不在を忘れさせるほどの機能を保ち続けるだろう。

ただ、それがどのくらいの期間になるかは分からない。ジョブズの凄さを理解することは簡単だが、それをまねることは非常に難しく、彼のスタイルを長年間近で見続けた後継者たちといえども、コピーもしくはクローンになれる保証はまったくない。

ただし、すぐれた発想を生み出す人材はAppleに数多く、アイデアの量産はこれからも可能だろう。余分な機能を間引き、シンプルさを保つ大切さも理解しているはずだ。あとはそれを継続する、機能を足せとか、これが足りないから売れない!というような雑音にいかにNO!と言い続けられるか、そのときにその責任を引き受ける覚悟がリーダーにあるか。すべてはそこにかかっている。ジョブズの残した遺産を継承できるかどうかは、すべてその一点にかかっているのである。



スティーブ・ジョブズ



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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