ソーシャルゲームの光と闇

ソーシャルゲームの光と闇 2012年02月27日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

ソーシャルゲーム市場は、2011年度には2500~2600億円ほどの規模に達したと見られており、さらに2012年度には3500億円ほどに急成長するとされる。 

海外ではFacebookのプラットフォーム上で大躍進を遂げたZyngaが有名であるが、国内においてもGREE、DeNA、mixiをプラットフォームにさまざまなSAP(ソーシャルアプリケーションプロバイダ)がしのぎを削りながら驚くほどの高収益を挙げている。ゲームごとに見ると、売り上げ一位と目されるのはMobageの怪盗ロワイヤルが月商10億円、同じく戦国ロワイヤルが月商6億円という。開発費はせいぜい2000~3000万円程度と思われるので、確かにROIをみてもすぐれたビジネスモデルである。

しかし、最近ではGREEとDeNAが係争状態に突入したり、GREEの人気カードバトルゲーム「ドリランド」で有料カードの不正複製問題が表面化するなど、あまりに加熱した市場に対して警鐘を鳴らす者が多くなってきているのも事実だ。

そもそも、ソーシャルゲームはこれまでのゲーム機のパッケージソフトとはまったく異なるビジネスモデルをもっている。WiiやPlayStation 3などのプラットフォームのうえで操作されることを前提につくられたゲームは、最初に有料で購入する必要がある。購入させるためには、それだけの価値があるということをユーザーに理解させなければならないから、巨額の広告費をかけて存在を知らしめるとともに、エンターテイメントとしてほかの商品やサービス(雑誌、映画、音楽コンテンツ、あるいはテーマパークなどのリアルなエンターテイメント)と比べても購入する価値のあるクリエイティブとテクノロジーを備えた“芸術品”である必要があるのだ。

ところがソーシャルゲームは携帯電話プラットフォームを利用し、まずは無料で提供することで多くのユーザーにリーチし、よりゲームを楽しむためのアイテムを購入させることで課金する。つまり全体的には無料を装うが、楽しくゲームをするにはどうしてもお金を払う必要がある。これをフリーミアムモデルと呼ぶわけだが、ソーシャルゲームの場合は明らかにユーザーにお金を払わせようという意思で設計されている。この意思が過度に行き過ぎているとして、問題視されはじめているのだ。

従来のパッケージソフトは購入後に追加でお金を支払う要素がほとんどなく、あくまでユーザーに楽しんでもらうための工夫を凝らしたつくりになっている。だからユーザーは、購入金額以上の体験ができれば満足するし、購入金額に見合わない完成度だと思えば二度と同じレーベルのゲームを買わなくなるだろうが、少なくとも購入代金の額は変わらない。

逆にソーシャルゲームは最初こそ無料だが、徐々に使う金額が増える。いつの間にかパッケージソフトの購入金額以上の高額な支払いをしてしまうこともある。ソーシャルゲームの提供側もそれがビジネスだからやむを得ないとはいえ、パッケージソフトと比べれば芸術性・技術ともに乏しいものが多い。エンターテイメントとしては、あまりにお粗末だ。

ソニー・任天堂・マイクロソフトなどが培ってきたゲームの価値は、ディズニーランドやユニバーサルスタジオに行く代わりに、自宅で楽しむ上質なオルタナティブエンターテイメントだった。ところがソーシャルゲームは暇つぶしであり、芸術性の代わりにあるのは高い射幸性だけだ。iPhoneが開拓したAppStoreの世界では、遊戯だけでなく有意義な情報や深みのあるコンテンツを有するアプリケーションも多い。そしてそれらは前払いであり、あとから課金するものは少ない。

ソーシャルゲーム市場は冒頭のように数千億円もの巨大な産業になったが、それだけのお金を生む仕掛けはゲームの芸術性やエンターテイメントとしての質感でもなく、単にユーザーにあの手この手と品を変え、お金を使わせようとする手練手管に過ぎないのが現状だ。

今後、ソーシャルゲームが社会悪として糾弾されて成長を止めてしまうか、それとも適正なルールとマナーを業界全体が取り入れて、収益性を多少落としてもユーザーの日々の細切れの時間を有意義な余暇に変える重要な産業として成長を続けるか、これからの在り方によってどちらかに変わっていくだろう。

これからソーシャルゲーム業界に進出する企業には、射幸性を適度に抑えて、芸術性や高度な技術とクリエイティブを感じさせる製品の開発に集中することを望みたい。




怪盗ロワイヤル

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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