音楽共有サービスSpotifyはNapsterの後継となるか

音楽共有サービスSpotifyはNapsterの後継となるか 2012年03月12日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

Spotifyは、音楽を無料および定額課金によって配信しているスウェーデン発のベンチャーだ。創業は2006年4月、CEOは創業者でもあるダニエル・エクが務めている。

Spotifyは1500万曲を超えるとされる音楽ライブラリをクラウド上に置き、ユーザーはPCやスマートフォンを介してダウンロードするのではなくストリーミングによって楽曲を聴く。ビジネスモデルはシンプルだ。半年間は広告が入るものの無料で無制限に使うことができるが、その後は利用制限がかかって月に数曲しか聴くことができなくなる。それがいやなら有料ユーザーとして月額数ドル(米国の場合、PCのみの利用なら4.99ドル、モバイルも使うなら9.99ドル)払って無制限に利用し続けることになる。この場合は広告も不要になる。

音楽配信ときいて日本の一般的なユーザーが思い起こすのは、iTunes Storeだろう。iTunes StoreとSpotifyが大きく違うのは、iTunes Storeが音楽をダウンロードさせるのに対して、Spotifyはストリーミング配信するということだ。クラウド型の音楽共有、という点ではiTunes Storeも米国を中心に楽曲をiCloud経由でiPhone/iPad/Macを使って聴くことができる新サービス「iTunes Match」をスタートしている(2012年中には日本国内でも利用が可能になる見込み)。しかしiTunes Storeの場合は、あくまで自分のガジェットに音楽データを保存することになる。Spotifyのように完全にストリーミングだけのサービスであれば、地下鉄の中のようなインターネット環境がない場所では使えない。ダウンロードを伴うiTunes Storeにはその問題がないわけだが、将来的にはなんらかの方法で解消されるだろう。

AppleはiTunes Storeという音楽コンテンツ販売の事業で儲けているわけでなく、あくまでもハードウエア販売の補助としてとらえている。iTunes Storeによる音楽配信事業とiPhone/iPod/iPadといったハードウエア事業は車輪の両軸のような相互補完関係になり、強力な推進力をもっているわけだ。しかしSpotify(だけでなく類似サービスのTurntableやRhapsodyなど)は音楽配信だけで利益を出さなくてはならないので、どうしても不利な戦いを強いられる。そこで彼らはAppleに対抗するための、別のプラットフォームとの共存関係をつくる必要がある。

Spotifyをはじめとした新興音楽配信企業がよりどころとするのは、Facebookだ。Spotifyは音楽データをインターネット経由で配信するだけでなく、すばらしい音楽体験を友人たちと共有できる――つまりソーシャルな音楽共有サービスなのだ。Spotifyは2011年9月にFacebookの公式サービスのひとつに加えられ、目論見通り成長に弾みを付け始めている。iTunes StoreはPingという自前のサービスとTwitterをパートナーに、同じようなソーシャルな要素を生み出そうとしているが、この視点であればFacebookを味方につけたSpotifyのほうが有利といえるかもしれない。

iTunes Storeが得た圧倒的なシェアをSpotifyらがどれだけ浸食して奪えるかはまだわからないが、音楽を所有する楽しみを捨て、好きなときに聴ければ手元になくてもよい、共有されていればよいという「感覚」にユーザーが慣れるかどうかに勝負がかかるといえるだろう。たとえば最近カーシェアリングというビジネスモデルが取りざたされるようになってきているが、誰かと「シェア」して好きなときに好きなクルマに乗れればよい、と考えるか、自分で自動車を購入して「所有」したいと考えるかということに似ている。

Spotifyは、インターネットによって情報を共有するというサービスづくりにかけては天才的といえるショーン・パーカー(初代Facebook社長であり、音楽共有サービスの元祖といえるNapsterの共同創業者)が出資していることでも有名だ。Napsterは楽曲の著作権を故意に無視したという理由で廃業に追い込まれたが、インターネットの無限の可能性を世に知らしめた破壊的なサービスだった。Napsterにヒントを得て、それを合法的に事業化したのがiTunes Storeといえるが、Spotifyは技術的にもビジネスモデル的にもiTunes Store以上にNapsterに近く、ショーン・パーカーが経営に加わっていることで、より正統なNapster後継者といえるかもしれない。




Spotify

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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