Y Combinatorの成功とリーンスタートアップ

Y Combinatorの成功とリーンスタートアップ 2012年04月09日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

米シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル、Y Combinatorの躍進がすごい。数学用語の不動点演算子の英語表現からきた社名は、スタートアップの価値を変動させるという自分たちの役割を意味しているのだろう。

彼らは、スタートアップへの投資専門VCだ。多くのスタートアップに日本円で200万円程度の出資を行い、大型投資ラウンドの実行までの後押しをする。オンラインストレージサービスのDropboxなど、彼らが出資をしたことで大成功しているベンチャーは多い。

スタートアップを創業する際のタネ銭のことをシードマネーという。Y Combinatorはこのシードマネーしか出さないが、起業家たちがサービス開発をするためのアドバイスなどの支援を3カ月にわたり徹底的に行うのだ。

これらのモデルの背景にあるコンセプトは、リーンスタートアップという考え方である。リーン(lean)とは脂肪がない、貧弱な様子という意味だが、要は最低限必要な資金やリソースしか使わずに段階的に成長を狙うということだ。ソフトウエア開発の現場において、このリーンという考え方を容れたリーン開発という考え方が浸透しつつあるのだが、リーンスタートアップは資金を少しずつ入れて無駄遣いさせず、雇用やオフィスにかけるコストも抑えつつ、成長に合わせて調達をしていくことで成功率を上げるという起業方法を意味している。

Y Combinatorの成功をみて、多くの模倣者がシリコンバレーにも日本国内にも続出している(たとえば西川潔氏率いるネットエイジや孫泰蔵氏のMOVIDAなど)。おもに、IPOやM&Aによって経済的成功を収めた個人投資家らがリーンスタートアップのコンセプトを支持しているようであり、学生などの若手起業家予備軍にとって(本コラムの読者層にとっても?)追い風になっている。

しかし逆に、創業して数年経ち、より大きな成長を目指して資金調達が必要になっているベンチャーにとってこの流行は痛し痒しで、数千万~数億円単位の投資に応じるVCが少なくなっている状況は、資金需要を満たせない中堅ベンチャーを破綻に追い込むことになりかねない。

このように、現在の国内のVC投資は、Y Combinator型の創業時の少額出資か(アーリーステージ)、IPOなどの出口が見えたベンチャーへの最後の大型投資(レイターステージ)に二分されている(ある意味中抜きされいている)のが実情なのである。




Y CombinatorのWebページ
http://www.ycombinator.com/


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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