はたしてWeb3.0の時代は到来するか

はたしてWeb3.0の時代は到来するか
2012年05月07日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

Web2.0といえば、いささか古くさいキーワードに聞こえるかもしれない。インターネットの利用方法はGopher(Web登場以前の情報検索システム)やFTP(ネットワークでのファイル転送用プロトコル)などが主流だった時代から、Web(正しくはWorld Wide Web=WWW)の時代へと移り、そしてWeb1.0と呼ばれた草創期からブロードバンドの高速インターネット接続環境やマルチメディア対応ブラウザの普及、なによりユーザー数の急速な増大によってインターネット=Webともいえる最盛期を迎えた。つまり、Web2.0と呼ばれた時代だ。

Web2.0時代は2005~2010年くらいの時期であったといってよいだろう。ITバブルの崩壊という暗黒時代を生き抜いたGoogleやAmazonなど一部のドットコム企業と、彼らに続けとばかりに生まれたさまざまなスタートアップたちがWebをますます進化させた。この時期、インターネットに詳しくないユーザーは「メールとインターネットを使っている」というような表現をよくしていた。「インターネットを使っている」とはいうまでもなく、Webサイトを見ている、ということだ。

Web2.0はマスコミにも気に入られたキーワードになり、気の早い識者たちは、Web2.0の次の世界をWeb3.0と呼ぶようにもなり、その定義や様相を先をこぞって推測し、さまざまなメディアで公表し論評を繰り返した。

ところが、Web3.0の世界は実現しなかった。ソーシャルメディア――特にFacebookが、Web草創期にインターネット業界を支配したAOLなどのISPのように、本来オープンであるべきWebを一社管理のクローズドなサービスに質的変換させたうえ、PCからモバイル(スマートフォン)にインターネット利用のプラットフォームの主役交代が起きるとともに、iPhoneがインターネット利用の主流をブラウザ上のWebサイトからインストール型アプリに先祖帰りさせてしまったからだ。今のインターネットユーザーの多くにとって、インターネットへのゲートウェイはWebというよりもFacebookだし、ブラウザというよりはスマホアプリだ。

つまり、オープンであるWebの上でさまざまなサービスを使うというインターネット利用体験こそがWeb2.0だったとすれば、明らかに現在のインターネット利用体験はその延長線上にない。Webは死んだ、と広言する者もいるのはそういうことだ。

もしもほんとうにWeb全盛の時代が再来し、それをWeb3.0と呼ぶのであれば、その世界はモバイル上でもHTML5やCSS3.0などの標準的なWeb技術を使った、Webアプリ経由でインターネットを使う世界だ。デバイスにアプリケーションをインストールしなくても、つねに最新のWebサービスにアクセスできるうえ、その利用体験もインストール型アプリに負けず劣らぬリッチでエキサイティングなものでなければならない。

GoogleがAjaxなどのRIA技術を磨き上げ、GmailやGoogle Mapsなどのすぐれたサービスモデルで世界を驚愕させ、Web2.0という時代をつくり上げたことを、今度は誰かがモバイルインターネット上で実現すれば、Webの復権はなるだろう。同時に、Facebookが図らずも一般化させてしまった非常に限定的かつクローズドなインターネット利用体験を、なんらかの対抗手段によってふたたび多角化させることができるかが、大きなポイントとなるだろう。



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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