Google Glassの真の狙い

Google Glassの真の狙い
2012年05月28日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

Googleが拡張現実アイウエアプロジェクト「Glass」を発表したことで、いよいよスタートレックや攻殻機動隊の世界が実現するかもしれない――という妄想が爆発した人も多かろう。

Google Glassは眼鏡型のコンピュータだ。顔に装着することで視野全体を仮想スクリーンとして多様な情報にアクセスできるし、さまざまな操作が可能になる。

Googleはほかにも運転者による操作なしに全自動で動く自動車などのプロジェクトを手がけている。これらは誰もが夢想したSF的な未来を力強く引き寄せるものであり、インターネットがコミュニケーション用や情報取得用のメディアであるだけでなく、社会全体のインフラへと昇華させるものだ。人間の日常生活におけるすべてをインターネットにひも付け、オンとオフの境目をなくす。家電や家、車を含むありとあらゆる社会生活上必要なデバイスをネット化し、Googleはそのデータベースとして根を張っていく。そうした野望を少しずつ現実のものとしているのだ。

Googleにとって、スマートフォンがインターネットを使うための窓口として全世界的に普及し始めたことは悪いことではないが、iPhoneに圧倒的なシェアを奪われている現状は好ましくない。AndroidはシェアこそiOSを逆転したが、実際にはiPhoneがつくり込んできたiTunesやiCloudなどの生態系と比べると混沌としており、Android陣営は利益をあげることができていないので、長期的にシェアを守れるかどうかは心もとない。現在人間をネット化するための最適なデバイスはスマートフォンであり、iOSとAppStoreでしかアプリを入手できないというクローズドな環境で守られたiPhoneは、Googleにとって目の上のたんこぶ以上の厄介な存在だ。

つまり、GoogleはAndroidというモバイルOSによってiPhoneに対抗すると同時に、スマートフォンを人間のネット化デバイスの座から引きずり下ろすことを考えているわけだ。高度にネット化されたハイテクメガネが普及すればスマートフォンを持つ必要がなくなる。iPhoneは指を使って操作するNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス)の時代の王者であり、さらにSiriにより声を使って操作するNUI時代の王者へとシフトしつつある。Google Glassは視線によって操作するNUIを引き寄せようとしているのだ。

GoogleはOS全盛のコンピューティング時代の覇者であるMicrosoftから、OS勝負ではなく検索エンジンという次元の違うテクノロジーで覇権を奪った。現在Appleが制圧している領地は“人間とインターネットの接点”だ。Googleはなんとしてもこの領地を奪わねばならない。Google Glassはたんなるハイテクオタクが夢想する未来グッズというだけではなく、非常に重要な戦略的な武器となるのである。


Project Glass



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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