第2回 沖縄の文化を電子書籍で発信したい――「沖縄eBooks」(後編)

第2回 沖縄の文化を電子書籍で発信したい――「沖縄eBooks」(後編)
2012年12月18日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は「沖縄の文化を電子書籍で発信したい――「沖縄eBooks」(前編)」の続きになります。

今の沖縄をより深く知ってもらえるように
沖縄県産本を集めて電子書籍で発信する「沖縄eBooks」を立ち上げたのは、印刷・出版事業を中心に展開する株式会社近代美術(沖縄県島尻郡南風原町)だ。運営チームを率いる榎本伸司さんは、「沖縄eBooks」の立ち上げにかける思いを次のように話す。

「よく旅行ガイドブックで取り上げられているような、“きれいな海、美味しい料理”…といったイメージだけでなく、琉球王国の歴史、沖縄戦の悲惨な実態、米軍基地の現状、エイサーや琉球舞踊といった独自の文化など、沖縄はさまざまな側面をもっています。沖縄県産本を通じて、全国の人々により深く沖縄を知ってもらえれば、沖縄が元気になるきっかけにもできるのではないかと考えました」

榎本さんは東京都の出身で、かつては多くの印刷現場で使われていた電算写植機のユーザーをサポートする営業担当だった。2000年に沖縄の印刷会社に転職して沖縄に移住。新しい技術をみずから積極的に学び、次々とシステムの改善を発案していく姿勢を買われて、インターネットなどをはじめ、デジタル関連の事業を担当していた。2010年10月に近代美術に転職し、デジタル分野の新規事業を社内提案することになり、榎本さんは沖縄の出版物を電子書籍化し、県外に発信していく『沖縄eBooks』のコンセプトを発案。同社ソリューション事業部で取り組むこととなった。


1冊しか現存しないグラフ誌のバックナンバーも
榎本さんらは、すでに近代美術で順調に刊行されている『OKINAWA 100シリーズ』の電子書籍化に着手しつつ、沖縄県内で書籍、雑誌、フリーペーパーなどを発行する企業にプロジェクトへの参加を呼びかけた。これまで取引のなかった出版社や印刷会社も数多く訪れたという。

「沖縄県産本で沖縄を元気にしたいという志に賛同いただける出版社にはぜひ参加いただきたいと、声をかけていきました。参加企業のリスクに配慮し、制作は無料で引き受けることにしたのです」

1958年創刊の写真月刊誌『オキナワグラフ』を発行する新星出版株式会社も、「沖縄eBooks」に賛同した企業のひとつだ。『オキナワグラフ』は、古いバックナンバーでは同社に1冊しか残っていない号もある。沖縄の本土復帰以前の出来事や人々の暮らし、1973年の沖縄海洋博に向けた熱気などを伝えていて、きわめて資料的価値の高いコンテンツとなっている。

「沖縄から海外に移住した人々やその子孫が沖縄に集う『世界のウチナーンチュ大会』が2011年秋に開かれるのにあわせて、『オキナワグラフ』のバックナンバーを読みたいとの声が寄せられていました。海外の同胞も含め、世界の人々にも今の沖縄を知ってもらえる可能性を感じました」と榎本さんは話す。

 自社で電子書籍販売のプラットフォームを開発するにはコストと時間がかかるため、株式会社ドリームネッツ(広島県福山市)が開発し、現在は株式会社キングジムが運営する電子書店モール「wook」(http://wook.jp/)を配信プラットフォームに採用した。「wook」はインターネット上に自分の電子書店を開き、そこで自分のコンテンツを販売する仕組みなので、「沖縄県産本」という特色を打ち出して展開するのに適していた。電子書籍フォーマットは既刊本をスキャンした画像、あるいは書籍原稿のPDFデータから電子書籍に変換するものだが、制作・運用のコストを抑えられる点も大きかった。

 榎本さんはかつて、『沖縄デジタルアーカイブ整備事業(Wonder沖縄)』の制作に携わり、エイサーや琉球舞踊などの伝統文化を記録する仕事を通じ、「沖縄文化の深みに感銘を受けた」と話す。榎本さんが「沖縄eBooks」に込めたのは、単なる電子出版ビジネスへの挑戦ではなく、沖縄の文化を電子出版という新しい形で発信したいという熱い思いだった。

■沖縄eBooks
URL:http://www.okinawa-ebook.com/


編集部の独自取材により、カフェ、ショップ、街歩き、ビーチなどさまざまなテーマでおすすめスポット100カ所を紹介する『OKINAWA 100シリーズ』。沖縄県民向けの内容だが、本土からの観光客にとっても便利なガイドブックとなる。写真はシリーズ中の1冊『眺めもおいしいお店100』。


写真月刊誌『オキナワグラフ』は、1958年の創刊号から順次電子書籍化して発売している。戦後の沖縄の歩みをビジュアルでたどることができ、「沖縄eBooks」の目玉コンテンツの一つとなっている。


『オキナワグラフ』の制作工程(提供:新星出版)。出版社でも残りわずかという貴重なバックナンバーを、慎重にスキャンしてデジタル化していく。




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国関係の団体で中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)創刊号から2012年の第7号まで、電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材。電子出版を活かした地域再生に関する取材も継続。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などを編集しています。株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。

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